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小さなお家の素晴らしきご主人様と、愉快な弟子達。  作者: 雨宮ツムグ


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いっぱいいっぱいの弟子

「メアリ、視線を逸らさないで」


「っはい」


ご主人様の声が真上からして、ドキドキしてしまった、なんてことはない。とは言い切れないけれど、それ以上に、体がふらつく。


今日はコレットへの指示出し特訓を行っていた。

コレットはふわふわと浮いたまま、水の玉を生み出そうとしていて。


私はその水の玉を保ち、大きくしてくださいという指示を、心を通じて行っているけれど、それが、とても難しい。

コレットは水を出してくれるけれど、それが霧状になったり、雨になったり、川になったりと、そもそも玉にするという指示自体が難しいのだ。


それは私の指示が上手くいっていない証拠で、だから集中を切らしてはいけないのに、体がどうしてもふらついて、それに気を取られてしまう。

体がふらつくのは、私の体に魔力が無いから、ということだった。


初めてコレットを呼び出した時も倒れてしまったように、魔力を持たないものが、魔力を無理に使おうとすると、過剰に人としてのエネルギーを消費してしまう。

つまり、お腹がぺこぺこでふらふら、のような状態が常に付き纏う。


だからご主人様が、特訓の間は傍で私に魔力を注ぎ続けてくださっていた。


けれどその注ぐバランスも難しいようで、過剰になれば私が拒否反応を起こして倒れてしまうし、足りなければそれはそれでエネルギー不足となり倒れてしまうという、かなり繊細な作業のようで。

私の様子を伺いながら注いでくださるから、これまで生きてきたどの時よりもご主人様が近くに居て、それはそれで私の心を乱す。


私はご主人様を敬愛していて、それで、ちょっとオタクなのだから。

ご主人様からいい香りがすると失神しそうになるし、そんな邪な思考で傍に立つ私を、私自身がビンタしたくなる。


そんなつもりじゃないのに、ご主人様もそんなつもりじゃないのに、私の思考はずっとだめな方と咎める方を行ったり来たりで、それ故に集中がまた切れてご主人様にお手間を掛けて、私はちょっと、いっぱいいっぱいだった。




精霊への指示出しは、本来なら体に満ちた魔力を使って、精霊との意識を強く繋ぐことで指示が伝達できるのだという。


けれど私には魔力が無いから、どうしても精霊と、コレットとの繋がりが薄くなってしまって、指示がしっかりと伝わらない。

その対策として、今はご主人様に魔力を注いでいただいているけれど、いざという時、何かあった時、必ず先生がお傍に居てくださるとは限らなくて。


現に、この間はご主人様が居ないからこそ、お弟子の皆さんのお力が必要だった。

だから、ご主人様ありきの特訓だけでなく、ご主人様がいらっしゃらない時を想定した特訓も、必要で。


「コレット、いきますよ」


私は、最近の、楽しかった出来事を思い出す。

それは、昨日のこと。


昨日はリアさんが洗濯物の回収を手伝ってくれていて、一つ一つ回収していく私の側を、突風が吹いたと思ったら、リアさんが飛んで、一瞬で全てを回収してくださっていて。


凄い!と感動したのも束の間、皆さん分の洗濯物を支えきられずリアさんがひっくり返り、回収された筈の洗濯物が全て、私の頭上に降ってきたのだ。


あの量の洗濯物を浴びるという経験はこれまでしたことが無かったし、嫌な予感がしたというシェラさんに、地面に落ちてしまう前に回収していただいたけれど、怒られる前に逃げて行くリアさんを見ていたら、面白くて、笑いが止まらなくて。


その時の様子を、思い出してコレットに注ぎ込む。

するとコレットは少しだけ体の光を増して、それから、キラキラと瞬き始めた。


「わ!楽しかった記憶だってこと、伝わりましたか?」


コレットを軽くつついてみると、ぴょん、と跳ねるので肯定だと受け取る。

この、意識だけの伝言ゲームのような行いが、先生がいらっしゃらない時に備えた、寝る前の特訓メニューだった。


私が魔力を注ぐのではなく、想いを注ぐことで意思の疎通を取ることができれば、それが私とコレットのみで完結する、最高の連携方法だから。

けれど、想いを伝える方法もまだ、伝わる時と、伝わらない時のムラがあって、まだ安定には程遠かった。


それもその筈、精霊は本来、意識を持たない自然物に近く、人に懐くことはほぼ無いとされていたのだから。

それにコレットは精霊の中でも生まれたばかりの子で、世界そのものの理解がまだごく僅かだった。


だから、なるべく傍に居て、想いを注ぎ続ける。

傍に居ることに関しては、コレットがほとんど私の肩に居てくれるので、問題はなかった。


だから私にできることは、想いを注ぐこと。

なるべく意識して注いで、私の感情そのものを感じ取って動くのではなく、私の意識を感じて、動いてもらえるように。


私の心が乱れた時に暴風を生み出すのではなく、私が暴風をください!と思った時に、暴風を出してもらえるように。

私はコレットを一撫ですると、また次の想いをコレットに伝え始めた。


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