叫ぶ弟子
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「……リ!メアリ!」
「!!」
体が揺れる、声が聞こえる、朧げな視界に、ベルクさんが映る。
「メアリ、よく聞け、襲撃だ」
「!?」
襲撃……?誰から……!どこに!?
パニックになりながらもベッドから這い出て、周りを確認したが誰もいない。
ベルクさんは私を布団で包んだままダイニングの方へと誘導して、そのままバタバタと外へ出て行った。
外からはリアさんの大声が聞こえる。
すこし焦りを孕んだような、心がざわざわとする声。
ダイニングには柱に手をついて目を閉じたハーティさんが居た。
他の皆さんの姿は見えない。
落ち着かない気持ちで見守っていると、大きく息を吐いたハーティさんが目を開き、私を見る。
「起こしてすまないね、ここが何者かにバレたようだ」
バレた、ということは良くないことのはずで。
私は肩にかかった布団を握りしめて、そのままどうしたら良いか分からず息をのむ。
「マーシュがかけてくれた感知魔法に魔法使いがひっかかったんだ。アーウィン様ではない何者かが数名、こちらに向かってきている。目的は分からないが隠れるより応戦した方が良さそうだ」
魔法使いが、数名。
応戦。
頭の中で繰り返すがやはり不安しかない。
皆さんは戦えるのだろうか、安全なのだろうか。
けれど安全ではないから、この緊迫感なのだろう。
相手の目的は何なのか。
ご主人様が居ない今、一体どうしたらいいのか。
動けないままでいると、突然、大きな衝突音。
「!?」
「来たか」
思わず耳を塞ぐ私と、玄関を見遣るハーティさん。
「キッチンに隠れていて」
そう言い残したハーティさんは玄関へと駆けて行き、そのまま出て行ってしまう。
キッチンへ。
と思ったけれど、足が動かない。
また大きな衝突音。
ベルクさんの叫び声がする。
リアさんの叫び声も。
外が明るい。
夜に、そんなことは有り得ないはずだった。
やがて、焦げたような匂いがして、ゾッとした。
この明かりは、火なのだと。
チリチリという音がして、バラバラと崩れる音がする。
いやだ、やめて。
ここはご主人様の家で、皆さんが過ごした家で、私の家で、皆の家で。
壊さないで、奪わないで、失いたくない。
視界が滲む。
食いしばってどこか切れたのか、血の味がする。
今度は破裂音がして、叫び声が聞こえて、シェラさんの悲鳴にも近い声が聞こえる。
耐えられなかった。
何をしたというのか。
我々が、何をしたというのだ。
気が付いた時には駆けだしていた。
玄関の扉を開こうとして、ドアノブが焼けるように熱くて思わず手を離す。
火のせいで、家が燃えていた。
木だけでなく金属も熱を持っていた。
ならば。
思い切り、力を込めて扉を蹴る。
案の定愛しい我が家は脆くて、簡単に蝶番が外れて、扉ごと前に吹き飛んだ。
そしてその勢いのまま外に飛び出せば、何故か。
「ご主人様!?」
空に、月と、ご主人様が浮いていた。
そのご主人様は見たことも無いくらい大きく目を見開いていて、少しやつれたお姿で、空に浮かぶそのお体と、炎の光を浴びたそのお姿が、何よりも美しく見えて、涙が溢れた。
ご主人様をもっと見たい、なのに涙が止まらない。
「ごしゅじ、」
歩み寄る、が、視界が弾ける。
真っ赤で覆いつくされたそれは、炎で。
中心には確かにご主人様がいて。
「ご主人様!!!!!!!!」
叫んだ喉が裂けるように痛い。
開き切った目が痛い。
熱くて、降りかかる火の粉が痛くて、煙で苦しくて、酸素が足りなくてふらつく。
けれどご主人様、
ご主人様、
ご主人様。
ご主人様の姿が見えない。
黒煙で何も見えない。
炎が飛んできた方向を見る。
黒い服の何者かが、そこに立っていた。
手が振り上げたままの状態で止まっている。
おまえか、と思った時には走り出していた。
何も考えていなかった。
ただただ許せなかった。
何か聞こえた気がした。
何かは分からなかった。
近付いた目の前の者と、目が合う。
笑っていた。
恐れを含んだまま、笑っていた。
何が可笑しいんだ、と。
理解が出来ない、と。
その感情を乗せて思い切り体当たりする。
相手は簡単に倒れた。
なんの抵抗も無かった。
私諸共吹き飛んで、そのまま何回転もして、互いが離れてゆく。
やりきったのだと、そう確信しているのだと。
だからもうどうなってもいいのだと。
そういうことかと思うと、体中の血が煮えた。
立ち上がり、転がった相手の体に掴みかかろうとして、自分のスカートに躓いて転ぶ。
痛みは微塵も感じなかった。
けれど、折れたと錯覚するほどの衝撃が走った。
脳裏に過ぎるのは昨日のこと。
皆さんを迎え入れるべく玄関へと走り、初めて家の中で転んだ。
あの時と同じ箇所を痛めたのか、と理解した。
しかし構ってなどいられない。
力任せに起き上がり、スカートを思い切り引き割く。
顔にかかる髪が邪魔で、大きく頭を振った。
纏わり付く、全てが邪魔だ。
転がったままの相手に再び飛び掛かる。
よろけながら振り上げられた右手を掴む。
魔法を、放とうとしていた。
さっきご主人様に炎を放った、その右手で。
させるものか、させてなるものか。
掴んだ手に思い切り力を込めて捻る。
ゴキン、と嫌な音がして、相手の肩が外れた。
やけに細かった。
力が弱かった。
だから、魔法使いなのだと確信した。
魔法使いは魔法に頼って生きるから、体は非力なのだと本で読んだ。
ご主人様は魔法のことを教えてくれないけれど、ご主人様の部屋には魔法の本が沢山あって、私は自由に本を読ませてもらっていて。
だから、知らないけれど、知っていた。
この地に恐らくきっと、彼らが居ることも。
彼らを呼ぶ、その一言を。
「集え、精霊」
聞いているならば。
見ているならば。
傍に、居るのならば。
全力を持って、集えと願う。
「放て!!!!」
腹の底から叫ぶ。
涙が止まらなかった。
ご主人様を助けてほしかった。
ご主人様を取り返したかった。
ご主人様の住む家がこれ以上焼けて行くのを見たくなかった。
周りの森すらも焼けていて、真昼と見紛う程煌々とした明かりに満ちていた。
許せなかった。
嫌だった。
せっかく会えたお弟子さんたちと、もっと一緒に居たかった。
ご主人様と共に居たかった。
ふ、と意識が途切れる寸前。
肩に、何かが触れた気がした。




