表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小さなお家の素晴らしきご主人様と、愉快な弟子達。  作者: 雨宮ツムグ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/26

叫ぶ弟子


*******



「……リ!メアリ!」


「!!」


体が揺れる、声が聞こえる、朧げな視界に、ベルクさんが映る。


「メアリ、よく聞け、襲撃だ」


「!?」


襲撃……?誰から……!どこに!?


パニックになりながらもベッドから這い出て、周りを確認したが誰もいない。

ベルクさんは私を布団で包んだままダイニングの方へと誘導して、そのままバタバタと外へ出て行った。


外からはリアさんの大声が聞こえる。

すこし焦りを孕んだような、心がざわざわとする声。


ダイニングには柱に手をついて目を閉じたハーティさんが居た。


他の皆さんの姿は見えない。

落ち着かない気持ちで見守っていると、大きく息を吐いたハーティさんが目を開き、私を見る。


「起こしてすまないね、ここが何者かにバレたようだ」


バレた、ということは良くないことのはずで。

私は肩にかかった布団を握りしめて、そのままどうしたら良いか分からず息をのむ。


「マーシュがかけてくれた感知魔法に魔法使いがひっかかったんだ。アーウィン様ではない何者かが数名、こちらに向かってきている。目的は分からないが隠れるより応戦した方が良さそうだ」


魔法使いが、数名。

応戦。


頭の中で繰り返すがやはり不安しかない。

皆さんは戦えるのだろうか、安全なのだろうか。


けれど安全ではないから、この緊迫感なのだろう。

相手の目的は何なのか。


ご主人様が居ない今、一体どうしたらいいのか。

動けないままでいると、突然、大きな衝突音。


「!?」


「来たか」


思わず耳を塞ぐ私と、玄関を見遣るハーティさん。


「キッチンに隠れていて」


そう言い残したハーティさんは玄関へと駆けて行き、そのまま出て行ってしまう。


キッチンへ。

と思ったけれど、足が動かない。


また大きな衝突音。

ベルクさんの叫び声がする。


リアさんの叫び声も。

外が明るい。


夜に、そんなことは有り得ないはずだった。

やがて、焦げたような匂いがして、ゾッとした。


この明かりは、火なのだと。

チリチリという音がして、バラバラと崩れる音がする。


いやだ、やめて。


ここはご主人様の家で、皆さんが過ごした家で、私の家で、皆の家で。

壊さないで、奪わないで、失いたくない。


視界が滲む。

食いしばってどこか切れたのか、血の味がする。


今度は破裂音がして、叫び声が聞こえて、シェラさんの悲鳴にも近い声が聞こえる。


耐えられなかった。

何をしたというのか。


我々が、何をしたというのだ。


気が付いた時には駆けだしていた。

玄関の扉を開こうとして、ドアノブが焼けるように熱くて思わず手を離す。


火のせいで、家が燃えていた。

木だけでなく金属も熱を持っていた。


ならば。

思い切り、力を込めて扉を蹴る。


案の定愛しい我が家は脆くて、簡単に蝶番が外れて、扉ごと前に吹き飛んだ。


そしてその勢いのまま外に飛び出せば、何故か。


「ご主人様!?」


空に、月と、ご主人様が浮いていた。


そのご主人様は見たことも無いくらい大きく目を見開いていて、少しやつれたお姿で、空に浮かぶそのお体と、炎の光を浴びたそのお姿が、何よりも美しく見えて、涙が溢れた。


ご主人様をもっと見たい、なのに涙が止まらない。


「ごしゅじ、」


歩み寄る、が、視界が弾ける。

真っ赤で覆いつくされたそれは、炎で。


中心には確かにご主人様がいて。


「ご主人様!!!!!!!!」


叫んだ喉が裂けるように痛い。


開き切った目が痛い。


熱くて、降りかかる火の粉が痛くて、煙で苦しくて、酸素が足りなくてふらつく。


けれどご主人様、

ご主人様、

ご主人様。


ご主人様の姿が見えない。

黒煙で何も見えない。


炎が飛んできた方向を見る。

黒い服の何者かが、そこに立っていた。


手が振り上げたままの状態で止まっている。

おまえか、と思った時には走り出していた。


何も考えていなかった。


ただただ許せなかった。


何か聞こえた気がした。


何かは分からなかった。


近付いた目の前の者と、目が合う。

笑っていた。


恐れを含んだまま、笑っていた。


何が可笑しいんだ、と。

理解が出来ない、と。


その感情を乗せて思い切り体当たりする。


相手は簡単に倒れた。

なんの抵抗も無かった。


私諸共吹き飛んで、そのまま何回転もして、互いが離れてゆく。


やりきったのだと、そう確信しているのだと。

だからもうどうなってもいいのだと。


そういうことかと思うと、体中の血が煮えた。


立ち上がり、転がった相手の体に掴みかかろうとして、自分のスカートに躓いて転ぶ。


痛みは微塵も感じなかった。

けれど、折れたと錯覚するほどの衝撃が走った。


脳裏に過ぎるのは昨日のこと。

皆さんを迎え入れるべく玄関へと走り、初めて家の中で転んだ。


あの時と同じ箇所を痛めたのか、と理解した。

しかし構ってなどいられない。


力任せに起き上がり、スカートを思い切り引き割く。

顔にかかる髪が邪魔で、大きく頭を振った。


纏わり付く、全てが邪魔だ。


転がったままの相手に再び飛び掛かる。

よろけながら振り上げられた右手を掴む。


魔法を、放とうとしていた。

さっきご主人様に炎を放った、その右手で。


させるものか、させてなるものか。

掴んだ手に思い切り力を込めて捻る。


ゴキン、と嫌な音がして、相手の肩が外れた。


やけに細かった。

力が弱かった。


だから、魔法使いなのだと確信した。


魔法使いは魔法に頼って生きるから、体は非力なのだと本で読んだ。

ご主人様は魔法のことを教えてくれないけれど、ご主人様の部屋には魔法の本が沢山あって、私は自由に本を読ませてもらっていて。


だから、知らないけれど、知っていた。

この地に恐らくきっと、彼らが居ることも。


彼らを呼ぶ、その一言を。



「集え、精霊」



聞いているならば。


見ているならば。


傍に、居るのならば。


全力を持って、集えと願う。



「放て!!!!」



腹の底から叫ぶ。

涙が止まらなかった。


ご主人様を助けてほしかった。

ご主人様を取り返したかった。


ご主人様の住む家がこれ以上焼けて行くのを見たくなかった。


周りの森すらも焼けていて、真昼と見紛う程煌々とした明かりに満ちていた。


許せなかった。

嫌だった。


せっかく会えたお弟子さんたちと、もっと一緒に居たかった。

ご主人様と共に居たかった。


ふ、と意識が途切れる寸前。

肩に、何かが触れた気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ