爆風の師匠
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ようやく辿り着いた山頂に、ベルクは居なかった。
彼もリアと同じようにあまり他所へは行かないタイプのはずであった。
ならば、どうして居ないのか。
逡巡、思考。
空を見上げて息を吐く。
何かがおかしかった。
何かがズレている違和感。
登ってきた山道を振り返る。
ふらりとベルクの姿が現れないかと思ったが、さすがにこの距離で私が彼の魔力に気付かないはずがない。
当然、ベルクは現れなかった。
もう一度息を吐く。
玄関の脇に腰を下ろして、足の様子を確認して、血の滲むボロボロ具合であることを認識する。
今やるべきは、治癒魔法か、彼らの魔力探知か。
思考する前に、断念する。
まだ魔法は使わない。
ここで感知される訳にはいかない。
立ち上がり、登ってきた道とは真逆の方から降りていく。
弟子たちと合流出来ない。
であれば、下山したら研究所を魔力探知で探ろうと決めた。
今奴らはどこにいるのか。
どこまで、掴んでいるのか。
探って、逆に迎え撃とうと考えた。
一度にではなく少しずつ。
じわじわと追い詰めていこうと考えた。
それならば数で負けることもない。
いっそ考えていた新しい魔法を試そうと思った。
先に手を出そうとしたのはそちらである。
ならばこちらは迎え撃つのみ。
年甲斐もなく、心が躍ってすらいた。
かつては研究所に勤めるくらい、私も魔法を愛していた。
新しい魔法は、いつだって私の心を踊らせる。
登りと半分ほどの時間で下山を終えた。
靴を回収して回るか考え、これまで靴代わりにしていた木の皮に魔法をかける。
瞬く間に形を変えていくそれは、やがて靴へと変身して私の足を包み込んだ。
魔力制御はここまでだ。
飛ぶ、と思考をして、空へと浮きながら、研究所の方を見据える。
魔力を集中させれば、研究所の中は目で見るよりも容易くその全てを掌握できた。
「だから対魔法を施せと言ったのだ」
かつての同僚へ向けた言葉は、彼の元へ届くことはなく、山間の風が大きな音を立てて連れ去って行く。
意識を集中させる相手は誰でも良かった。
きっと周知の計画なのだろうと理解していた。
だから研究室から出て来た若者に照準を合わせ、意識をリンクさせる。
この魔法は、リンクさせた相手の意識が自分の脳内にも流れてくるというもの。
その機密性の低さから、禁忌、とされた魔法。
かつて禁忌だと定めた研究所に向かって、この魔法を放つのは何だか悪戯心が刺激される思いだった。
そして、流れ込む思考、感情。
『先輩今どこだよ~~業務押しつけて行く先が人間の始末って意味分かんね~』
若い男のその思考に、やはりか、と考える。
そのまま彼の思い浮かべる先輩、の気配を辿り、魔法をその『先輩』にかけ直す。
まず感じたのは湿った葉の香り、そして息切れしている苦しさ。
意識が一体となっていくにつれて、その場が森であること、そして駆けていることを把握する。
周囲には5名ほどの魔法使い。皆同様に駆けている。
現在地は、研究所の二つ先の森か。
向かっている先は……
探ろうとして、驚く。
『先輩』の持つ石のような物から浮かび上がる映像に、リアの寝顔が映っていたからだ。
一体、何故。
深く考えるよりも先に、その隣にマーシュも並んで眠っている姿が見える。
更にその奥にはシェラの姿まであり、訳が分からなかった。
何故弟子が集合している?彼らの居る場所は一体どこなのか。
まさか捕らわれたのか、との考えが過るが、彼らの穏やかな寝顔を見るにそうではないのだろう。
では、一体。
視線で焼け焦げそうなほど注視していると、画面が揺らぎ、天井が映る。
「これは……」
見えたのは、粉うことなき我が家の天井。
私の作ったライトが照らす、見間違えようもない我が家の天井であった。
刹那、爆風。
魔力を最大限に出力して、我が身で空を切る。
風の音がうるさい。肌に当たる風が刃のような痛みをもたらす。
しかし気にしてはいられなかった。
弟子達の身が危険に晒されている。
方角的に考えて、この魔法使いたちが向かっているのは確実に我が家だろう。
何故家が知られ、何故弟子達が揃って居るのか。
分かりはしなかったが、寧ろ好都合だ。
「(すまない、リア)」
箒に頼らない飛行は不安定だがその分速度が出る。
心からの謝罪を込めて箒を手放すと、そのまま体を捻り、さらに速度を上げる。
私の体は、真っ直ぐ、かの森へと向かっていた。




