ピカピカに磨く弟子
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全員でご主人様を追うかと思いきや、全員ここで待機、が出た結論のようだった。
リアさんはまだ戻っていない。
外は完全に暗くなってしまった。
簡易ご飯は保存しておいて、新しく晩ご飯を作った。
さっと食べられるものを作り、それぞれ交代で食べた。
皆さんの口数は少ない。
各々の考え事に集中していた。
私は今日もバスルームをピカピカに磨いて、お花の香料を垂らす。
柑橘系と迷ったけれど、シェラさんがお花の香りを気に入ってくれていたので今日も同じにした。
どうか少しでも安らげますように。
そんな、想いを込めて。
食後には紅茶を出した。
リアさんの反応が見たかったけれど、まだ戻って来ない。
今日は戻られないのだろうか、と窓を見上げる。
大きな大きな満月が浮かんでいた。
それからしばらくして、ようやくリアさんが戻って来る。
全員急ぎでのシャワーを終えており、ほんのりお花と石鹸の香りをさせている面々を見てリアさんは眉をしかめていた。
何となく、寂しかったのかなと思った。
目が合って、睨まれる前に「夕飯ありますよ!」と先手を打った。
皆さんと共に晩御飯を食べるリアさんを見守る。
散れ!!と言われたけれど見守り続けた。
取り皿が空く度にあれこれ食べ物を追加していると、心底呆れた顔をされた。
申し訳ない。
でも、お腹が空いただろうなと思って。
取り皿に追加するのはやめて、取り皿の周りにおかわりを添えた。
それは次々と食べてくれて、これが正解だったか!と思った。
にっこりしていたらやっぱり睨まれた。
そうして全員で見守る中、食べ終えたリアさんはぽつりぽつりと話してくれる。
ご主人様の魔力が残っていたこと。
家に入った様子は無かったということ。
書き置き等は無かったこと。
次に向かったのはベルクさんのお家の方ではないかということ。
空を飛ぶ用の箒が、なくなっていたこと。
追いかけようとしたけれど、一旦戻って相談しようと思ってくれたこと。
その全てを聞き、静まり返る室内。
追うべきか、追わずに待つべきか、恐らく全員がそのメリットとデメリットについて考えている。
「追って欲しいなら何かヒントを残すと思わないか」
ベルクさんが、静かに問う。
「それすらする暇が無かったか、警戒した説もあるね」
ハーティさんが答える。
「何故ベルクの家なのかしら」
シェラさんが言う。
また、静寂。
「気になることがある。少し力を貸してほしい」
マーシュさんが言う。
皆さんが、手を繋ぐ。
全員が見守る中、マーシュさんは目を閉じて静止する。
ご主人様の向かった方向を探っている時と様子が似ていた。
「やっぱり」
ぽつり、と零れた一言に皆さんが集中する。
私も聞き逃すまいと耳を澄ませる。
「やっぱり、アーウィン様の魔力が分散している」
目を開いたマーシュさんは確かにそう言った。
確信を持つ為に皆さんの魔力を借りたようだった。
「分散……?」
と聞くと、そう、と肯定の返事。
「アーウィン様自身が分散した訳じゃない。魔力だけが、分散されている」
分かるようでやっぱり分からなかった。
どうやるのか、何故そうしたのか。
ご主人様のお体は無事なのか、分散している地点は、どの辺りなのか。
分からないから見守る。
皆さんの思考を、見守る。
「攪乱か」
端的なリアさんの質問。
マーシュさんはリアさんの目を見て、それから頷いた。
「多分そうだと思う。向かった先がバレないように、魔力を分散して攪乱させている。交戦したような痕跡はない。全力を出したアーウィン様に、飛行で追い付ける者が居るとも思えない」
「つまり……まだ安全ではあるけれど、警戒状態ではあるんだね」
ハーティさんのまとめに皆さんが頷く。
一先ずご主人様がご無事だと分かって良かった。
けれど、警戒状態は油断ならない。
一体何を警戒しているのか、何故皆さんのお家を周っているのか、何故連絡は取られないのか。
皆さんの追いたい気持ちが痛いほど伝わってくる。
けれど、追って良い判断がつかない。
まだ分からない。
そして気付く。
「追うと、バレてしまう可能性があるんですね」
ご主人様の、位置が。
独り言のつもりだったけれど、皆さんがこちらを向いて、頷いてくれる。
ご主人様が隠れているならば、追って目立ってはいけない。
ご主人様が追って欲しいのか気にしているのはそういうことだったのだと今更ながらに気が付いた。
自分の気持ちと、それ以上にご主人様から『求められていること』を自然と考えている皆さんを、かっこいいと思った。
ご主人様の指導の賜物なのかなと思った。
けれどこれは、皆さんの愛なのではないかと。
ご主人様への真っ直ぐな愛。ご主人様に応えたいという、愛。
「今晩は交代制で休もう」
万が一に動けるように。
万が一に備えられるように。
了承した皆さんはそれぞれ準備を始め、私は夜食作りに励んだ。
少しでも力となりますように。
そして、ご主人様は何か食べられていますか、と心配せずにはいられなかった。




