爆音の弟子
*******
「おい!!!!!!!」
朝、洗濯物を干していると室内から爆音、もといリアさんの呼び声が聞こえてくる。
驚きのあまりバクバクとなる心臓を押さえながら室内へと戻ると、皆さんは慣れた顔で、呆れた顔で、口々に「うるさい」と告げていた。
「な、何かありましたか」
そう言うと集まる視線。
呆れた顔は一切無くなり、どこか緊張感すら漂っていて、思わず息を潜めた。
何か、あったのだ。ご主人様に。
「アーウィン様の魔力を感じた」
怒り、緊張、戸惑い、そんなものを含んだリアさんの声が室内に渡る。
「それって!」
ご主人様がどこにいるか分かったということですか!
という言葉は、続かなかった。
皆さんが、揃って難しい顔をしていたから。
「私も感じたわ。でも……」
「どこかへ、向かってるんだよな」
シェラさんの言葉を引き継ぐ形でベルクさんが言う。
どこかへ向かっている……?
つまりここに戻っている訳では無いということ。
そして、これまで隠していた魔力を出したということは、何か理由が……
「帰る」
「え!?おい!!」
考え込んでいると、リアさんが出て行く。
ベルクさんは追いかけたけれど、すぐに戻ってきた。
「行っちまった……」
呼び止める隙も、捕まえる隙も無かったという。
一体どうして急に。
でも、リアさんはご主人様の何か、痕跡を探しに行ったのではないかと思った。
意味もなく急に帰る人ではないと、この数日の付き合いでも分かっていた。
だから皆さんも追いかけない。
今やるべきは、それではない。
「ご主人様が向かった先は分かりますか?」
私が聞けば、マーシュさんが目を閉じる。
しばらくそうしていたかと思うと、マーシュさんは目を開き、静かにベルクさんを見上げた。
「ベルクの家の方、じゃないかな」
「なっ」
何故、と私も心の中で思う。
ベルクさんの家に、何が。
もしくはベルクさんに、何か用が……?
心当たりがあるかとベルクさんを見上げるも、ベルクさんもまた考え込んでいる。
まだご主人様の魔力は感じられるのだろうか。
ご主人様のことを追う、望ましくない者は居ないのだろうか。
魔力が無いことをこんなにももどかしく思ったのは初めてだった。
ご主人様と十六年も過ごしてきて、ご主人様の魔力を、何一つ感じられない。
ご主人様の魔力を、何も知らない。
悔しくて焦りが募り、気持ちが逸るのに何もできない。
けれど、皆さん同じなのだと思った。
顔を見れば分かるその焦り、困惑、何とかしたいと思う、その気持ち。
私に出来ることは何かと考える。
今から皆さんが捜索に出るのだとしたら。
リアさんが戻ってきたとしたら。
必要なのはご飯だと思った。
簡易的に食べられて、でも美味しいものを。
持ち運べて、栄養のあるものを。
皆の考えの邪魔にならないように、そっとその場を離れる。
皆戦っている。ならば、私は私に出来ることを。
*******
弟子の一人、リアの魔力を感じた。
私を追うかと思ったが、遥か後方、リアは自宅へと向かったようだった。
箒が無いことに気付くだろうか。
気付いたら怒られそうだ。
けれどきっと、その姿に笑ってしまうのだろう。
愛らしくて笑っているのだが、きっとまたそれにも怒るのだろう。
ベルクの住まう山間に近付き、あえて迂回をして上着を脱いだ。
そして魔力をたっぷりと込めてから手を離す。
ここからは簡易的にでも自分の魔力を分散させて、偽装する必要があると考えたからだ。
急いでいて着の身着のまま出たので手放せるものも少ないが、靴を片方脱ぎ、魔力を込めて、移動して、手を離す。
片方も脱いで同じことを。
靴下も片方ずつ、同じことをした。
そして一気に下降して、地面に降り立つとともに魔力を抑え込む。
「(ふむ)」
正直飛ぶ方が楽だった。
魔力を放出する方が断然楽だと。
抑え込むのはやはり集中力がいる。
先程よりも蓄積された疲れを感じる。
しかし歩みを止めるわけにはいかなかった。
裸足のまま山を登る。
途中で、木の皮を拾って靴の代わりにした。
何もないよりはましだったが、歩きにくい事この上ない。
しかし歩みを止めるわけにはいかない。
ベルクの住まう山頂を見上げる。日が、沈もうとしていた。




