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2/5

中卒は朝早く起きて網を編む

 自宅から、市場までは自転車で一時間半。


 それでもまだ雪が無いからよい。冬の間は、文字通り陸の孤島となる。


 意識のない間、16歳の誕生日は終わっていた。

 本当だったら、いまごろは…… 大都会の高校へ通うはずだったのに。


 現実はドパガキを押し流す。


「悪いが、家にカネがない。障害給付の手続きはしたけど、月額4万2,000円だ」


 普段は威勢の良いお父さんも元気がない。

 私の意識が戻ったときは、あんなに喜んでくれていたのに。


 そもそも、お父さんは私の大都会行には反対だった。

 おカネが、かかるからだ。


 地元の商業高校は、全日制だが半分は働いている。農家に、漁業に、輸送業。加工食品の現場で働く16歳もいる。


 私はそういう人になるのが嫌だった。正確に言えば、良い暮らしをするためには、そういう仕事に就いてはダメだと思っていた。


 だから、高校に行こうとした。良い大学に行くために。


 良い大学に行けば、きっと良い仕事があるに違いない。


 良い仕事に就けば、結婚して…… 子どもを産めて……


 何か具体的にあるの? と言われても、自分には何も分からない。ただ、ネットで観る都会暮らしにあこがれただけ、かもしれない。


 現実は、何とか生き残って、リハビリをして、自宅に帰って、でもずっと寝っ転がっているわけにもいかないから、高校の編入先を探して、無理そうなら地元で働いて……


 転落? そうかもね。


 でも、事故に遭ったのは私のせいじゃない。不運だっただけ。


 生き残ったのは? 幸運だっただけ。


 同じ事故で、亡くなった見知らぬ近所のおじさんのお家にいって、お線香を上げました。


 お母さんもお姉ちゃんも、そんなところにはいかなくていい、と言ったけど、私はおじさんの分も幸せに生きていくつもり。


 お線香を上げ終わった後、そのおじさんの娘さんとかいう人が「出ていけ」って。いますぐ。驚いたけど、そうよね。向こうは死んで、こちらは何とか生き残った。


 あのときは、正真正銘の、ただのドパガキだったけど。


 傷ついた、と言いたいけれども、向こうはもっと、傷ついているんだよね。


 一緒に暮らしていた父親が、いきなり死んでいなくなった。


 まぁまぁ立派なこの家も、維持できるか分からない、バスに突っ込んできて事故を起こした人は無保険で無一文だったそうだから。まだ入院しているし……。


「あなたは良かったわね、沼地に落ちて」


 これ、誉め言葉? 呪詛?


 でももう、他の人の評価とか、いいの。


 私がいま必要なのは、自転車に乗って、網場に行って、親戚の漁師さんのために、丁寧に網を編むこと。リハビリも頑張って、ちゃんと編めるように戻ったから。


 それが、私の生きている証。


 いま、私がやるべきこと。


 高校も行きたいけど、他のことを考えない。


 まず、幸せな人生に戻さなきゃ。


 ちゃんと暮らしていけるように頑張らなきゃ。


 考えていることは、ただそれだけ。


 告白してくれたあの子、別の彼女ができたらしい。


 一緒に勉強した子たちは無事、札幌の道立高校に進学したようだ。


 私は、置いていかれたとは思わない。


 私は、私にできることをやる。

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