表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
1/1

退屈な入院生活が終わると私はドーパミン中毒ドバドバのゴミになって世に放たれた

 交通事故に遭った。山から三時間、バスに揺られて自宅に帰る途中、湿原の横でバスにジジイの運転する車が突っ込んできたんです。


 日課で、本を読みながらバスに乗っていた私は、スローモーションのように、頭から、バスのフロントガラスを突き破って、泥の中に落ちました。


 ……でも、転生しませんでした。

 何にも。


 スライムでも、追放パーティーでも、無限チート持ちでも、悪役令嬢でも、滅びそうな領主の召喚でも、地方領主のスローライフでもなく、


 ただの、頭蓋骨が割れた手術跡の残った、ただのメスガキに戻りましたとさ。


 でも、お母さんは泣いていた。お父さんも泣いていた。兄も弟も意識が戻った私を見て喜んでいたので、何となく、愛されているんだということまでは実感しました。


 ……ここまではいい。


 でも、でも、三カ月、目が覚めない間に大事な高校受験は終わっていました。

 あんなに勉強したのに。内申点もゴマすってすってすりまくって9教科42取ったのに。

 模試ではクソみたいな田舎限定の二軍メンバーの中とは言え、トップクラスの成績は戴いていたのに。


 気がついたら身体障碍者手帳持ちの中卒になっていました。

 話が違う。生きているだけ良かった、と自分を説得しても、無理無理無理無理。こんなの無理。


 卒業アルバムは死んだことになってた。いや、死んではいませんが。

 集合写真には、私の顔写真だけ丸で囲まれて空中に浮いていました。


 楽しみにしていた卒業の集いも、大都会札幌の高校も、告白されて保留していた男の子との話も。

 ぜーんぶ無くなっていましたとさ。


 で、利き腕の左手が動かない。正確に言えば、動くんだけどなんか思ったように動かない。

 どうして動かないの、私の手… バドミントンでは道大会に出られるほどの腕前だったじゃない。


 その代わり、得られたのは魔法のアイテム、身体障碍者手帳。わたし、これで永年S級チート持ちになるのかしら。現世で。


 最初は右手も中指と薬指、小指しか動きませんでした。いまでこそ、リハビリ頑張って、両手が動き、普通に生活できる一歩手前まできたけれど。でも、リハビリは長かった。痛かった。辛かった。それでも普通に生きたくて頑張りました。やっぱり、モールにいってアイスとか食べたいし、買った本も読みたいし、普通に普通に普通に友達とだべりたい。


 でも、神様はいなくて、スマホはどっかにいき、アカウントは全部なくなり、大事だったデータもほぼなくなってしまいました。残ったのは、ポンコツになった私の身体だけ。


 その結果どうなったか。ええ。見まくりましたTiktokとかyoutoubeショートとかInstagramとか。リハビリとおいしくない食事が辛すぎて、ずっと、ずーーっと、ずーーーっと、ショート動画を観ていました。人生こんなに動画観るか? ってぐらい。24時間で言えば、消灯される21時から強制睡眠させられる10時間とリハビリの1時間を除き、12時間以上ショート動画を観続けておりました。


 そして、人間ではなくなりました。これぞ、ドパガキ。身体はポンコツ、脳味噌はドーパミンバキバキ。これで障害者として一生、世間様におカネをめぐんでいただきながら、中卒として、働きもせず、子宮が腐っても、未婚でも、お父さんもお母さんもいなくなって、たったひとりでいきていくんでしょうか。


 辛いけど。辛いから。ずっとドーパミンを出し続けていたら、ある日突然異変に気付くんです。あんなに好きだった本が読めない。好きですVtuber。Kindleで好きだった本が最後まで読めなくなり、文字の多い漫画が苦痛になり、ただひたすら芸能人のショート、かわいい動物のショート、Vtuberのショート、アニメの切り抜きのショート。それ以外、観られなくなっていきました。


 中学時代、お世話になった先生がお見舞いに来ました。頑張ったね、と言ってくれて、涙が出ました。生き残ったのに、頑張ってないから。ショートずっと観てるから。なんとか生き残ったのに、何この人生と思うと涙が出た。先生、ごめんなさい。せっかくだけど、わたしドパガキだから……。


 リハビリは頑張りました。社会復帰したいという気持ちが半分ぐらい、残りの半分はそれしか前向きにできることが無いから。相変わらず、思ったように手も足も動かないけど、動くだけマシという状態から、少しは歩けて、少しは文字が書けるようになり、腕が曲がるようになり、屈伸ができるようになりました。あくまで、一時的に麻痺していただけで、きっと元通りになるとお医者さんは言いました。


 嘘つき。脳が戻らない。一度、ドパガキになると、もう戻れません。


 ショートを観ていないとイライラする。ご飯を食べていても、お母さんがお見舞いに来てくれても、ついにベッドから降りて自分でトイレに行けるようになっても。これじゃいけない。これじゃいけない。高校に行きたい。勉強して、高校に通って、就職して…… そういう普通の人生に何とか戻りたい。それだけを考えたいのに、でもどうしても出てくるのは可愛い動物動画。ヤバくない?


 高校受験で使っていた教科書。めくるページに脳が追いつかないんです。昔はあんなにすらすらと読んでいた理科も、好きだった小説も、無理。極めつけは、好きだったアニメガ観られない。無職転生? ヤニねこ? ぜんっぜん頭に入ってこない。何を言っているのだか分からない。そして、モヤモヤと「なんでわたし、理解できなくなっているんだろう…?」と悶々としながら強制睡眠させられうと、ハタと「あ。三人以上キャラクターがいて掛け合いしていると、もう分らなくなっているんだ」って思い当たる。絶望感… 身体以上に、脳が壊れてしまった。それも、現世に復活してから。


 転生、しなくて良かった。この世で私はこれからずっと生きていきます。

 だから、頭の中の者をちゃんと出せるよう小説を書きます。それが私の、生きている証。

 頭の半分が無くなっても、いろんな診断名がついても、生きていこうと思ってる。ゼロから。


 それでいいの。それが、いいの。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ