第8話 : 飛竜人も魔族も人も集う混沌とした恐竜島!彼らは一体何を求めてやってきたのか!?
人と魔族の戦いは、幾度も歴史の上で繰り広げられてきた。
勢力図を変え、味方を変え、支配者を変え、幾度となく。
そして、魔族や一部の亜人、そして一部の人間たちを総て生まれた『北方連合魔王国』。
それを率いた『北の魔王』ギュスターヴと、その他の大陸の王国連合との戦争があった。
魔王には頼れる側近にして、一騎当千の魔族の英雄『魔王四天王』がいた。
最弱ながら軍略に長け、かの知将がいなければ本邦連合はもっと小さかったと歌われる『知恵のヴリシュ』。
最強の竜と名高く、その漆黒の魔力とブレスで全てを蹂躙する『暗黒竜デーギラ』
大陸の中で究極の魔法使いの一人に数えられ、一人で数千の軍を滅ぼす大魔法を放つ『紫炎の魔女ルーナ』、
そして、その剛力無双の膂力にて戦斧二つをふるい進み、その一撃である国の城壁を破壊したこともある『城壁砕きのダーラム』、
北の魔王四天王は、エモールディアの大陸の隅々まで武勇や逸話が響く、魔族達の大英雄だった。
「その内二人が、こんな所にいるなんてね。
どういうつもりよ、青肌共が!?」
と、フランツェスカさんが説明するのを聞いてる私こと、天才美少女古生物学者の小平名香代ちゃんでした。
せっかく恐竜島にきたのに、なんですこの一触即発の雰囲気は!?
そんな中、背がでかい角付きの青肌な人、
おそらく話の流れで言えばダーラムさんらしき人が、片手を手のひらを前に突き出してきました。
「勘違いしないでいただこう、竜狩り騎士隊。
オレ達は、戦いに来たわけではない。
その証拠に、」
一歩、2m半分以上ある巨大な筋肉の塊みたいな身体で進み、ダーラムさんは手を広げて言います。
「オレは、丸腰だ。
後ろの姉上も、ここではもはや完全に魔法が使えない」
そう言うダーラムさんに、突きつけられるハンマーと槍と刀と。
「そう簡単に信じると思うか、城壁砕き?」
「お前の膂力を知らん我らと思うか?」
「なんならば!この場で力比べもまた一興!!」
「……やはりそうなるか。
しかたがない」
その時、彼がしたことは。
地面に両膝をつき、そして頭を下げて手を地面に付けて……!
「ダーラム……!」
と、その背中に駆け寄る同じく青肌な女の人。
「頼む。
オレ達は、お前達と争う気はない。
剣を納めてくれ」
……そう、ダーラムさんは土下座していました。
恥も外聞もなく、ただ真摯に頭を下げていたのです。
「魔王四天王が、土下座……!?」
「バカな……これでは、剣を抜いたままの我らこそ痴れ者ではないか!!」
「…………策略にしても、なぜお前ほどの男が頭を下げる?」
ふと、みなさん武器を下げる中、さっきまで黙って見ていたフランツェスカさんが魔族の二人の方へ近づきます。
「……紫炎の魔女、ねぇ。
ま、私の次ぐらいにはすごい魔法使いと聞いてたけど……まさか、」
バッ、と魔族の女性ことルーナさんの襟首を掴み、服をはだけさせるフランツェスカさん。
男の子達見るな!
……とも言えない光景がそこに。
「これ、『深淵の侵食』じゃない」
その青い肌には、まるで毛細血管が充血した様な黒い線が浮き上がっていました。
「……お察しの通りです。流石は『竜落の魔術師』と言われるお方」
「こんな状態で……!
激痛で意識がなくなるレベルじゃないの!」
え、何どう言うことで!?
地球人にも分かるように説明を!
「……一体どう言うことで?」
「……異世界の方は知らない病だろう。
あれは『深淵の侵食』という物でな。
深淵の魔力と呼ばれる力が、他の生物に侵食して体内に増えていくものなのだ。
深淵の魔力は強大で、万が一適応すればその力は上がるが、それ以外は普通は自らの魔力の変質に耐えられず、身体が激痛に苛まれいずれは死ぬ。
そして、この病は不治のものだ……」
ふと、そうハーヴェストさんが言いながら彼女へ近づき、やがてその兜を外し始めます。
その下からは、少し汚れた金髪の中々渋いイケメンな男性の顔が、
その顔には、ルーナさんと同じ黒い放射状の線が。
「あなたも……!」
「……深淵に適合したのは、この世でかの暗黒竜のみ。
そうか……あなたは味方であったはずのかの竜にやられた、と言うことか」
……ああ、なんか話がつながってきた。
「……お察しの通りです。
そもそもあなた方との戦争中から、かの暴虐にして浅慮な竜とは、いずれ手を切る算段でした」
ルーナさんが、唇を噛み締めて、そう語り出します。
「……あなた方の王国に、暗黒龍の討伐を打診したのも我々です。
敗戦したものは、敗戦の処理を行わなければいけません。
賠償金、政治体制の入れ替え……そして不要になった兵器の後始末」
「……そう言うことだったのか」
なんとなく読めてきました。
とりあえず、どうやらここに集まった方達全員同じ思惑だったと言うことではあると。
「私は失敗しました。
もっとも、あなた方が強く、私自身消耗していたと言い訳がしたいのではありますが。
そしてこの身は深淵に侵され、命からがら、自らの父を殺した方に頼らざるを得ず」
「……よく決断したものだ。
こちらのアルトリーシャ殿は、北の魔王を……
あなた方二人の実の父を倒した相手」
「勘違いされるな、竜狩りハーヴェスト殿。
肉親を殺した相手へ複雑な気持ちはあるが、
少なくとも、アルトリーシャ殿は父の願い通り、ただ一人の武人として手合わせし勝った方だ。
あの勝負は、まさに見事な二人の剣の腕のぶつかり合いの結果。
それに意を唱えるほど、オレは恥知らずではない」
「……それはすまなかった。
魔族と見て騎士道無きと断じた己が無知を恥じる」
ハーヴェストさんが、深々と頭を下げるのを見ながら、ふとダーラムさんと言う魔族の方の緊張が解けた様に感じます。
「…………我ら目的は同じ。しかし、この場で手を取り合おうと言うにはお互い刃を交わしすぎた」
「しかし、刃を交わした仲でもある。
わだかまりはあるが、何より硬い信頼もあるだろう」
「……なら、どうだろうか?
戦士も騎士も、最も平和的な勝負で決めるのは。
魔族の人も、果たしてルールは同じか分からんが」
「……そうか。
ならばいくか、酒場はあるな?」
ん?
勝負に酒場?
────数分後、「シノちゃん錬金工房 ※不本意ながらお酒販売してます」内にて
「「ははは!!好敵手に乾杯!!」」
ジョッキ一杯の度数高めの酒をストレートで飲み干し、テーブルにジョッキを置く。
すでに、両名12杯目。
「うぉー!!すげぇぞこりゃあ、飲みっぷりだけなら大英雄だ!!」
「魔族の旦那!今晩の酒代はアンタにかかってんだ!!勝ってくれよ!!」
「いやいや、あの騎士の旦那もヤベェぞ!!
流石は騎士だ!!このまま飲み勝ってくだせぇ!!」
周りは大盛り上がりで、賭けまで始めるのです。
「アホかな」
「いつの時代も男はアホですのね」
「けどそう言うアホ乗り越えて仲良くなるのさ。
お!魔族の方13杯目!!こりゃ俺の懐も潤うわな!!!」
「うぉぉぉ!!!ハーヴェスト殿ぉ!!
我らが団長の意地を見せろぉ!!」
「おうコラ劣等種!!いつか言った30杯飲んだは嘘なのこのスカタン!!」
「行け……俺の分まで……グフッ」
これが異世界の少ない娯楽ですか……
「「おかわり!!」」
「うぇぇぇ、どうしてアトリエの都でも3本の指に入る天才錬金術師のシノちゃんが酒場の主人みたくなってるのぉぉ……!!
もうアルコールしか錬成してないよぉぉぉぉ……!!」
「グェー!!」
「そしてトリモドキちゃんにも蹴られてるよぉ〜……!!おかわりお待たせしましたですぅ〜!!」
なんか知りませんけど、私の次くらいには美少女な方が泣きながらお酒を用意してます。
変わった店ですね。変わった恐竜までいるし。
「うっく……やるな。城壁を砕くその身体、酒樽一つは入る勢いか」
「ヒック!
初めてだ。オレの呑みに付き合える生物は。
それでドラゴンも飛竜も酒好きのやつは全員沈めたぞ?」
「ゲフ……竜狩りとはそう言う意味だ」
「言うな。……プフゥ……今日は竜狩りを狩るぞ」
そう言って、異次元のジョッキ数へ突入する二人。
あっ、飲み干したら、両者倒れた。
「Wノックダウンかよぉぉぉ!!!」
「畜生!!でも良い勝負だったぞ!!」
「両方の英雄にかんぱーい!!」
そう言って、周りも飲み始めるのです……
まったく、まだ日が落ちて早いのに、
グォォォォォ……グカカカ、グォン……グォン……!!!
ふと、私は聞き覚えがあってしまう恐ろしい鳴き声に、この酒場の皆がピタリと動きを止めます。
見れば、酒でダウンした二人が起きて武器を持っています。
「……なんだ?今のは……」
「バートさんは彼を求めてきたんじゃ無かったんでしたっけ?」
「何!?
じゃ、じゃあ今のが……」
「……ティラノサウルスだ。こりゃあ、近いな」
「よそから人が来たから偵察だろうな。
なんであんなオッソロしいヤツが頭いいんだよ……」
この白亜の村の人たちのセリフから、大凡予想されていたティラノサウルスの生態とも行動が一致している事が伺えます。
「コイツはいいね!こんな声なのか」
「フン!なんだよ、原住民どもが寄ってたかって警戒しやがってよ!
こんな間抜けな声のヤツが恐ろしいのかよ!?」
「おう、若いの。イキるのは良いが、ティラノサウルスの仲間には敬意を払え。
ウチの領主が縄張りを超えてきても唯一の何もせず、ただ静かにしているだけはあるんだよ」
「ケッ!そこまですごいなら、手合わせぐらい願いたいぜ!」
「……それ、その人の目の前で同じ事言えます?」
「あんだ異世界人?喧嘩売って、」
す、とその窓際の席の冒険者さんの横、窓の外に指を指します。
彼が振り向くと同時に、窓際の黄色い目の瞳孔が少し引き絞られ、まるで一瞥する様にしてから影が消えていきました。
「……本物だ……!
ち、小さいが本物だ……!!!」
「小さいのも当然。まだ若い個体ですね。
やはり、アルバートサウルスとの生態比較による予測は正しかった」
ティラノサウルス・レックス
皆が思う恐竜の代表、そして誰もが知る肉食恐竜の王。最強の恐竜とも言われる存在。
しかし、彼らの生態はまさに百獣の王であるライオンと同じく、社会性をある程度持った優秀なハンターである事はメディアは教えてくれない。
その親戚であるアルバートサウルスやゴルゴサウルスから判明した事ですが、ティラノサウルスの狩りは予想以上に頭がいい。
足が速い小型の若い個体が偵察や陽動をし、大型の個体は本命としてその最強のと言われる力で仕留める。
「しかし偵察ですか。
人間がどう言う生き物か、理解した上で観察するとは……
ティラノサウルスの知能は、私の世界の原生の生物で言えばワニ程度、と言われていますが……」
「わ、ワニ程度でビビんなよ!
ほぼ能無しじゃねぇか!」
「おや、この世界のワニは頭が悪いんですね。
私の世界のワニは、ある程度の小枝を道具として使える程度の知性があり、本能的とは言え社会性も実はある生き物です。
でもあの目は……」
あの目。
今、こちらを伺っていたティラノサウルスの目を私は見ていましたが……
「あれは獲物に向ける目ではないな」
ふと、目を覚ましたハーヴェストさんがそう言い放ちます。
「ああ、未知に対する怯えと、わずかな好奇心……そして理解があった」
「……あ、アンタら、仮にも有名な英雄たちが、ビビってるヤツになんでそこまでマジになってんだよ!」
「……若いな。ああ、あそこにいたティラノサウルスとやらより若い」
「オレもそんな時代があった……」
まるで口直しの様に、もう一杯酒を煽るハーヴェストさんとダーラムさん。
「……怯えを自覚する者こそ強敵」
「つまり、侮りがない」
二人は、ティラノサウルスの若い個体の目を見ただけで、あの恐竜の恐ろしさをよく理解していました。
私は……内心ティラノサウルスが予想よりも知性が高いのではという思いもありましたが、
そんなことよりも、
「……学会が騒つくなぁ、今の彼らの行動は」
大学で教える様な立場の大きなお友達の皆様が歓喜するような、そんな時間を間近で見れた事を感謝するのでした。
「……お嬢さん、俺も酒をくれ」
「あれ、バートさん急にどうしたの?」
「いやね……間近で見た喜びもあるけどな……
ビビっちゃって、お恥ずかしながら」
「……俺も!」
「オレも追加!!」
「……仕方ないよね、そりゃあ喰われるかもしれない島じゃアルコール売れるよね」
「グエー!」
「トリモドキ君もそうか。餌をあげよう」
いや実際そうかもしれない。
スピノサウルスにティラノサウルスが近すぎる環境では……
「この島、興味深いし怖い」
……明日から調査の準備は入念にしよう。
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