第9話 : 島の冒険の為の準備と情報収集の最中、探検隊は未知との接触を果たしたのだった!
さて、天才古生物学者でもあり美少女な私こと小平名香代は、いよいよ異世界は絶滅したはずに恐竜が何故かいる巨大な島『メソゾイク』へ上陸を果たしました。
現在は、島と元いた剣と魔法なファンタジーの異世界大陸とを繋ぐ港のある村であり、おそらく数少ない『人類及びそれに等しい知的生命体の生活圏』であるここ、島の真東『白亜の村』へいます。
この場所は二つの巨大な川、現地名で『領主の川』と『あの世行き川』の二つに挟まれている場所であり、砂浜から続く比較的湿潤な平野部に位置します。
さて、ここの特徴はいくつか小さな川が流れており、護岸工事を村人であり恐竜類から派生した人に似た生命体である『飛竜人』達が進めているのですが、やはり一筋縄では行きません。
「領主軍だ!!」
「うわぁ!!この野郎!!」
バリオニクス。水に住む数少ない恐竜である彼らは、魚と同じノリで飛竜人も襲う。
そして、不思議なことに群れているわけでもないのに、その親玉のように振る舞うスピノサウルス……領主セイルと呼ばれる個体も同様です。
領主と呼ばれるスピノサウルスの縄張りは、常にその領主の『徴税』に常に怯える代わりに、思った以上に人に──広義の意味での人間とっては『天国に近い地獄』ではありました。
いや、人以外にも。
それは、この村の主なタンパク源である彼らにも必要な物です。
村の周囲にいる大型草食恐竜、カモノハシ顔のハドロサウルス類の『エドモントサウルス』、
そして同じハドロサウルス類であり、私の生まれた日本で化石が見つかった『カムイサウルス』。
確認できる海辺近くを棲家にするハドロサウルス類の群れは、この村の近くではありふれた物でした。
同じく、村の周囲にはパラリテリジノサウルスも数多く生息し、こうして観測1日目でもう既に3体が領主軍の税として接収されていきました。
「ただ、食いやすそうだから襲うとはいえ、腹一杯なら案外大人しいというのは意外だなって領主様」
私の記録がここで途絶えない限りは、すぐ隣でくつろいでいる状態の領主セイルに喰われず帰れたと言うことになるでしょう。
化石証拠からスピノサウルスは魚食性が強い上で日和見的に他の生物を襲う捕食者ではありましたが、空腹時の狩りの気性が荒い反面、狩りが成功した後や襲う必要がないと判断した相手に対してかなり鈍感になるという観測記録をここに残す事になりました。
しいて私の感情を挟むなら意外と言うべきか、この領主を務めるスピノサウルスの気性は暴君ではありながら、その実優れた名君の側面もあると評価するべきと内心思います。
こうして武器を持たない私を、食いやすい私を目で見ている上に口の近くにいながら、先ほど平らげたシーラカンスの仲間の様には喰わない。
腹さえ満ちてればいいのか、それとも満腹時の慈悲深さが極めて深いのか。
「……とはいえなぁ」
記録はここまで。それより、もう一種の捕食者が気になる。
まばらな木陰から、あるいは大きな草の陰からずっと見ている……彼らに。
「……」
私は、なぜ彼らがここ数日私をマークするようになったかは分かりません。
彼らは化石から分かる脳の構造的には、極めて本能的なシステムを完璧に遂行するタイプの利口なハンター……という研究結果が強かったはずです。
ただ、
ただ私には、
木の影に姿を隠し、僅かに視界をこちらに向けているあの、若い個体のティラノサウルス達に、
もっと、もっと賢い知性を感じて仕方がない。
その目を見返すたびに、そう思えて仕方がないのです。
「…………」
彼らは、ずっと私たちを見ている。
もしかすれば、爬虫類由来の強力な視覚をもって、
あの、海の騒動以来、
…………ずっと見ているのかもしれない。
***
さて領主の川から戻った私は、まずバートさんとエリーという狩猟大好き人間の元に戻ったのですが、
「すげぇなアンタ!
完璧にいつもの装薬じゃねぇかこりゃあ!」
空き地としかいえない広い草原の中、装甲車の隣で銃を持っていい歳してはしゃぐバートさんと、
「いやいや異世界のおじ様〜、こちらこそこんないい火薬の化学式解析させてくれるなんて〜、うへへへ!」
となぜかはしゃいでいるあの酒場の主の私の次に可愛いんじゃないのって人が。
「あらら、いつのまにか酒場の主人さんと仲良く?」
「ってコラー!!シノちゃんのお店は錬金工房!!本当は錬金術で色々な物作る道具屋なのにー!!
アルコール錬成できるからっていつのまにか酒場扱いにぃぃぃぃ……!!!」
と、涙を流してそう叫ぶ可愛い人。シノちゃんが一人称ですか。ちょい痛いですね。
「グエー!」
「トリモドキちゃんも慰めてくれてるー!」
そして、なんとも珍しい小さな羽毛恐竜が彼女に何かを言ってます。慰めてるんですかね?
「シノさん、でしたっけ?
そんなことより、そちら……」
「そんなことじゃないもん!!」
「グエー!」
「トリモドキちゃんもそう思うよね!?」
「……トリモドキとは、中々いい名前で」
まぁ、確かに。この恐竜はトリモドキという名前に相応しい恐竜ですよ。
シノルニトサウルス。
ラプトルと言われるドロマエオサウルス科の原始的な種であり、鳥の後に鳥のような姿になっていった恐竜として有名な彼にとっては。
「なのでバートのおじ様には感謝感謝の雨霰です〜♪
約束の装薬と重さの鉛の弾頭に、真鍮性の筒と雷薬をこの通り」
「ありがとうさん!
これで足りるかい?」
「何を気前よくと思えば、手作り弾丸ですか?
危ないなぁ……」
「577T-rexが足りなさそうでな。
持ってきた分が足りないなら、撃った薬莢再利用するなり、あるいは自分で作るなりするしかないわけよ」
「へへへ、でも一応コピーとはいえ良い物作らせてもらったんですよ〜?
以後こういう御用向きはシノちゃんの錬金工房までで〜」
「OK!
ついでなんだが、追加で別の弾丸の材料をを頼みたいんだわ。
コイツなんだが」
ふと、ぶっとい577T-rex弾とは打って変わって小さい……いやけど大きな弾丸を出します。
「ほうほう、これは?」
「500S&W弾っていう、まぁ『お守り』だわな」
「お守りにしては、中々これも大きな?」
シノちゃんさんが持つその弾丸を、マジマジ見つめながらそう言います。
「500、って44マグナムじゃなくてこっち持ってきたんですか?
しまったな……私の『ライノ』使えないじゃないですか!」
「そういうと思いましたわ〜」
と、装甲車から出てくるエリーの顔が。
「……まさか!」
────ハンティングする時、あるいは自然豊かな場所でキャンプする時、突然猛獣が出る時ありますよね?
その時、咄嗟にライフルは撃てますか?
意外と無理ですね。
そんなわけで、幼い頃に銃社会な国の大学で勉強するついでに狩りも学んでしまった私のクマを想定した護身用に買った『拳銃』があったのです。
「私のライノが、500S&W弾対応になってる……!」
カッコいいのと、撃ちやすいという理由で選んで、バートさんに貰ってしまったソレ、
キアッパ・ライノ
だったもの
普通の銃とはちょっと違う構造の拳銃が……見た目こそ変わってないですが、どうにもヤバいものに。
「あれ?この銃、異世界のものとはいえ変ですよねぇ?
普通銃身って、銃の上にあるんじゃないです?
これ真ん中ではでは?」
「ライノは、マテバという拳銃の制作者が作ったものでしてね。
この銃身がリボルバーの上ではなく下にある構造が壱番の特徴です。
こうする事で反動の制御がしやすくなるとか。
まぁ、私としては実際撃ちやすかったですよ、子供ながら」
「魔改造ライノちゃんの名前は置いておいて、とりあえず機構は理論上耐えられるとは思いますけれども、銃身は一応あくまですぐ使える範囲でしか延長してませんので、試射はしてくださいね?」
「試射で暴発は無いといいな」
「恐竜に食われる確率より少ないですわよ」
持った感じは、ちょっと重くなったぐらいか。
むしろ銃は重めの方が案外反動少なく感じるし良し。
操作感は……ライノのまま、かな?
ターンッ!
ふと、外で発砲音が。
「あれ?誰が銃撃ってるの?」
「親愛なるミスター日本の派遣護衛さんの佐藤さんさ。
なんでも上に掛け合って、まともな猟銃を送ってくれたそうだ」
「確かに、対人じゃ無い以上はその方が良いでしょうしね」
「ほれ的。ちゃんと声かけてから設置しなよな?」
「もちろん!
私は撃たれたくはないので」
的を受け取り、さっそく近くへ。
ターンッ!
流石、チラッと元自衛官と言っていただけあって、撃つ後ろ姿が様になってますね佐藤さん。
「佐藤さーん!」
「ん?あ、教授!?
そっちも射撃練習ですか!?」
ボルトを引いて薬莢を排出し、即座に近くに置いてあった虫網みたいなので拾う佐藤さんの姿がなんか手慣れていますね。
「ちょっと、護身用の拳銃を。
500S&W弾っていうクマの頭も砕ける奴に改造してもらって」
「護身用で9ミリ越え必要というのもキツいっすよね。
自分も、44マグナムって奴支給されたんでご一緒しても?」
「ええ、的は二つありますし」
「じゃあ、先に薬莢回収してきます」
猟銃の残りの球を抜いた上でボルトを外す佐藤さん。安全ですねこれで。
ダンッ!!
数分後、なかなかの反動に苦戦していました。
やっと的の端に当たった……ライノベースでこれか。
「……ってぇ!手のひらが痺れるな……
マグナム、結構厄介ですよね?」
「日本人用じゃありませんからね。
私のも、銃自体重いし構造が良いからからかろうじて当たるかな、ぐらいになってますし。
そもそも、ハンドガンは御守りぐらいで思った方が」
「クマ殺せるようなのでも『御守り』ってのも怖い場所っすわ」
そう言って、一発。流石というか佐藤さんは的の真ん中に命中させます。
おー、と言った時、ふとその的の真ん中にスコン、と何か菱形のものが刺さります。
「!?」
「───すまん。つい邪魔をしてしまった」
ふと振り向くと、鎧兜を外す『竜星落とし』のアスラさんと、仲間のエルフのフランツェスカさんがきました。
というか、アスラさんの素顔初めて見たかも。
褐色の意外とイケメンな……角?鬼??
「アスラさん、そんなイケメンだったんですか?」
「いけめん?」
「顔が良いって」
「そうか?拙者としては少々女顔かも知れんと思うが」
「顔もいい上に、あの距離で投擲でこんな深く刺せるとは。俺は負けですわ」
「手慰みだ。
だが、たまには役に立つ」
「んな事良いに来たんじゃないのよ。
小平名香代に用があってきたの」
「おやおや、名指しとは。
まぁ異世界ザル呼びより良いか」
「良いどころか、このチビが名前で呼ぶのは相当気に入られている証拠だ」
「うるさいわよ角つき東方蛮族。
……アンタは、少なくともこの島にいる妙な竜の専門家でしょ?
まぁ、私の次に叡智あると認めてあげるから、知恵を貸しなさい」
「良いですとも。
意地悪して死なれても迷惑ですし」
フン、と言って、ふと持ってきた地図を広げるフランツェスカさん。
「ここ数日、村の周りとはいえ歩き回ってるわよね。
何を確認してるの?」
「確認もそうですけど、研究と偵察ですね。
近辺でもだいぶ恐竜やその他我が世界では絶滅したはずの生き物が結構生きてますので」
「……聞いてなかったけど、アンタとアルトリーシャの目的の物の場所は?」
私はこの島の地図を見ます。
驚くべき事に、島の総面積はおおよそ関東平野クラスの巨大な大地なのです。
中央には大きな内海と火山が一つ。
この大きな川二つに挟まれた平原と港のある『白亜の村』がある、おおよそ島の1/3を占める大地『白亜の大地』の川沿いに指をなぞるように島の南側へ。
「アルトリーシャさんの証言によれば、白亜の村から南、左の『あの世行きの川』を通るルートの先、ここ『異常震源地』を超えた先にあるとされる『片割れのジュラ』の、内海近くの森へ向かう予定です」
「異常震源地って名前がいかにもね。
ここって何がいるの?」
「ここは、温暖で湿潤な湿地かつある程度の木と残りは草原という場所です。
巨大な草食恐竜にとっては住みやすく、同時に巨大肉食恐竜にとっては絶好の狩場。
アルトリーシャさん曰く、ここは『片割れのジュラ』いうジュラ紀の恐竜がいる場所と今いる白亜の大地の白亜紀の境目のような場所で、
大型から中型までの竜脚類と、それを狩れる恐竜……恐らく『カルカロドントサウルス科』の仲間とその近縁でもある『アロサウルス科』の仲間が大量にいる、と生き残ったアルトリーシャさん曰くだそうです。
私の本見ながら確認したとか」
「かるか……?」
「カルカロドントサウルス。アスラさんには言い難いですかね?
『サメの歯を持つトカゲ』とでもいう、ティラノサウルスに匹敵する大型恐竜です」
「デカいけどトカゲなんでしょ。アロサウルス、も似たようなもの?」
「こちらも『異なるトカゲ』とでもいう意味の、カルカロドントサウルス科の皆よりは比較的小さい、それでもかなり大きな部類の恐竜群です。
なんで名前がそうなったかは長い話になるので置いておきましょうか」
「巨大な相手が多いな。一筋縄では行かないか」
「問題は、コイツらの科の最大の特徴が、
巨体でありながら両種とも『群れ』で活動する恐竜という事です」
は、と黙って聞いている佐藤さんまですごい顔になりました。
「……群れ?」
「12mと9mの群れです」
「は?そのサイズで『群れ』?
単独で戦えない臆病者ってこと?」
「まぁ、相手が『竜脚類』ならそうもなります。
たとえ巨大恐竜でも、群れざるを得ない」
「…………『竜脚類』、とはそれほど強大な相手なのか?」
「強大というか、『巨大』なんですよ。
大型恐竜が徒党を組まざるを得ないほど」
竜脚類。
長い首、長いしっぽ、太い足4つでのそのそ歩く、ブラキオサウルスなどが有名な恐竜です。
草を食べる草食恐竜。まるで大人しい鈍臭い存在のイメージが強いでしょうね
「巨大って……山ぐらい?」
「山ぐらいが嘘じゃないほど、竜脚類は巨大です。
小さくて6m。中央値は20m。
最大種は40m。最重量種は31m。
かつて、化石の大きさや証拠が誇張されて、一時期は60mの大型すぎる怪物がいたとされてしまったほどに、ひたすら大きい。
何より、その巨大な頑丈な体という特徴だけで恐竜時代全てを駆け抜けた。
そんな種が『竜脚類』。
私が思うに、地上最強の恐竜とは彼らの中から選ばれるべき存在です」
ただひたすら巨大で、頑丈。
あまりに単純な答えで生き残り続けた。
この島で彼らが生き続けている場所である異常震源地という名が、あまりにふさわしい存在。
「正直、今回は目的があるが故に私はこの『異常震源地』をスルーしたいのですけれど、可能ならしばらく彼らの生態観察や、彼らを取り巻く肉食恐竜達の観察をしたかったですね……
もしここをスルーするなら、反対『領主の川』川沿いに行くのがマシですね。
こっちの『領主の川』はスピノサウルスやバリオニクス達の生息地で、途中にはこの『翼の湿地』という大型翼竜の生息場所があると聞いていますが、まだ生き残る可能性が高いでしょうし。
ただ、代わりに川の両脇の地形が険しいことが多いので、川から『片割れのジュラ』に行くには一度この『翼の湿地』を通る必要があるのが難点ですけれども、『異常震源地』を通るよりはマシと考えられます」
「まぁ、『あの世行き川』よりはマシなのでしょうけど。
……逆に、このあの世行き川、地図の読み方が正しいなら本当に平坦な道ね。
歩くなら楽じゃないの?」
「ああ、だから危険か。
それは恐竜達にも同じというわけか」
「それならいっそ、この領主川の上流の湖から森を突っ切って、この内海に出るか、
あるいはこの『片割れのジュラ』から伸びてるここを迂回した方がいいんじゃ無いの?
遠回りだけれども、案外平坦な大地が続くのだし」
ふと、指差すは島の東側。
「……『トリアス』は、辞めた方が良いとのアルトリーシャさんの言葉だそうです。
私も、そこがそんな名前の場所なら行きたくはありません」
その場所は、アルトリーシャさんが単独で行った際、『他はともかくここだけはたとえ金を積まれても二度と行きたくは無い』と怯えた顔で言った場所でした。
「トリアス、ってどういう意味な訳?」
「私たちの言葉では『三畳紀』。
恐竜が初めて生まれ、私たちの祖先の最初の哺乳類が生まれた時代。
そして、地獄のような大絶滅を乗り越えた先に生まれた、地獄が楽園とも思えるような時代です。
確か、アルトリーシャさんはこう名付けています。
『イラズのトリアス』、って」
「いらず?」
「命も要らずと思えないなら、そもそも入らずいた方が良い。
入った所で、何か得られる保証もない。
故に『イラズ』。
まぁ……私にとっては今入りたく無いというだけで、いずれは入る必要がある場所でしょうけれど」
「……具体的に、何がヤバいって聞いてた?」
「まず息が吸えない場所があるそうです。
まさか、本当に初期の三畳紀のように酸素濃度10%地帯があるとかじゃ無いと良いんですけど」
「…………
よし、入らない方が良いならそれで良いわね」
改めて地図を見れば、よくここまで書けるレベルでアルトリーシャさんはこの島をほぼ単独踏破したと思える場所ばかりです。
それでよくここまで情報を仕入れられた、と。
「とりあえず、『片割れのジュラ』突入後は、この『鳥の森』と呼ばれる場所を目指す予定です」
「随分その『イラズのトリアス』側ね。
ふむ……私たちは基本領主川でスピノサウルスを一体討伐すればある程度目的は達成できるのだけれども、」
「できれば、魔力無効の術が手に入る恐竜は前提として、何か強力な力があればな」
「実際この世界で何の力があるかは化石ではわからない情報なので分かりませんけれど、
それ抜きにもしも恐竜全てが魔力攻撃無効なら、同時に彼らの大半が物理防御が強い個体ばかりです。
大きいということはそういうことですし、そこの対策は大丈夫ですか?」
「ブチギレた領主の仲間以外は、やりようはあるわ。
無いのは、情報ぐらいね。
正直、アンタのその大昔の死骸から考察した情報でも欲しいわよ。というか役立ってるじゃ無いの」
まぁ、まさか役立つとはと一番驚いてまーす。
昨日までの情報が簡単に覆る勉強の意味がない学問ですし古生物学は。まして私の専門の古生態学なんて、ある意味『それっぽい理屈のリアルな妄想』でしかないんですしね。
「……しかし、実は俺も名香代殿の本を読んだ。少しだけだが」
「あら、ありがとうございます」
「疑問なんだが、俺の勘違いかもしれんが。
いくつかの恐竜は、会ったことがないぐらいの年代が違う生き物、ということになるはずだ。
たしか、スピノサウルスとティラノサウルスというヤツは、生きている年代が途方もないぐらい離れていたはずだが……」
「……おぉ!」
そこに気づくとは。やりますね。
「実は私も少し引っかかってたんですよね。
いえ、なんならこれまでの説明の中で、何度も『素人質問で恐縮だが』って言われないか不安だったぐらいには」
「は?どういうこと?」
「……この島、結構おかしいんですよ。
白亜紀という大きな時代区分の中でも、前期と後期の生物が平然と共存している。
生物の進化っていうのは環境が全てであり、環境が許さなければ生物は滅ぶしかない。
気温、植生、そのた諸々。
あるいは競合する生物の存在が、絶滅を呼び込む原因や遠因になる。
はずなのに、この島にはぱっと見だけで競合するはずの生物がごく普通位に生きて共存している。
バリオニクスとスピノサウルスなんて良い例ですね」
近縁種、とはいえ数千万年生息時期違うんですよあの二種類。
「……この島、ただの恐竜島ではない。
なんなら、ここが『誰かが恐竜を集めて作ったテーマパーク』と言われても信じますよ私」
誰かそろそろ『ようこそ、ジュラシック・パークへ』と言って出てきても不思議じゃないですよ。
「……てーまぱーく、ってなんだ?」
「貴族がたまに作ってる珍獣博物館みたいなもんでしょ多分。
でも、だとしたら誰がこの島今も管理してるのよ?」
「……そこも実は私が知りたい所で」
正直、ここまで整理された分布図が自然っぽさが薄いんです。
一体誰が恐竜を管理しているのか、とか考えた方が自然なレベル。監視カメラ無いですよね?
「まぁ、だからこそ言えるんですよ。
目的である『飛竜人と飛竜の祖先』が、この島には確実に『いる』と」
たとえ今この島の生態系が誰かが作ったテーマパークの管理の元だろうと、自然に生まれた偶然の産物だろうと、すでにジュラ紀と白亜紀の恐竜達がこの島で縄張りを守り生きているとは確定しています。確定です。
「私も、その未知の恐竜の姿が見たい」
果たして、それはどこにいるのか。
「……そのためだけに、こんな森の奥地に行くのは……アンタ、稀に見る冒険者よね。
百年前に一人いたわよ、そういうバカの劣等種。
ソイツは伝説になったけど、帰ってこなかったわよ」
「実際帰ってこれるんでしょうかね?
最悪ほら、そこの私ぐらいある草の茂みの中に何かいるかも」
ガサガサ
言った側からそんな音がして、何かがゴロンと転がって姿を現しました。
いやぁ、もう……びっくりするほど獣脚類。
つまり、ティラノっぽいアロサウルスっぽいあの姿のヤツが。
「…………えぇ?」
恐怖より困惑です。いたんかいって。
その恐竜、頭の大体目の上あたりにツノのような物が生えてるものすごく有名どころのやつでした。
もちろんというか、角の下の目をパチリと開けて、のっそり立ち上がり始めてます。
「…………武器があるやつは構えろ」
アスラさんの言う通り。すぐに武器を構えます。
緊張感が来る間、相手はゆっくり立ち上がって大きなあくびで鋭い歯を見せるのです。
「なんなのよコイツ!?」
「刺激しないで!!
そして絶対走らないで。
これ相手にかけっこは不利です」
その、手と言っても良いかわからないような小さい手で胸の辺りをポリポリ掻きながら、ゆっくりツノ付きの顔をこちらに向けるヤツこそ、
「カルノタウルス……!
後期白亜紀に、北米のティラノサウルスと並んだ南米の頂点捕食者です……!!」
学名の意味は『肉食の雄牛』。
そして、牛の名前に似合わない嫌な能力がある厄介な肉食恐竜。
***




