第10話 : せまる大型肉食獣!いよいよ探検隊の命の危機が迫る!
私こと美以下略な名香代ちゃんの目の前には、
北米のティラノサウルスに並ぶ白亜紀末期の南米の頂点捕食者、カルノタウルスが現れました。
「全員、動かないでください。
間違っても走って逃げたりしないで」
「クマと同じ対処ってことね」
「クマよりデカいんですけれどもね……!」
「なんなら、角でも負けたな」
今この場にいる4人とも、カルノタウルスを目の前にして動けずにいます。
落ち着いて……まずは残弾チェック。
私の手の中のライノ改造ハンドガンには、500S&W弾が残り二発。
ただの御守りってことです。
最強のマグナムでも、仕留められるのは3mのヒグマに運よく急所を当てられた時のみ。
目の前のカルノタウルスは、目測約5m
若い個体かもしれない。
問題は、ヒグマより大きい。
「自分は残弾一発です」
隣で唯一猟銃を持つ佐藤さんも、奇跡を願う残弾のみ。
「……刀ならあるぞ」
「死ぬだけですよアスラさん」
「俺の剣術の腕を見せる時というわけにもいかないか?」
「……聞きますけど、時速50km以上で突っ込んでくる相手に剣で応戦できますか?」
「時速……まて、時速50kmと言ったか?」
「ドラゴンが空飛ぶ並に速いじゃないのよ」
異世界人の鬼っぽいイケメンのアスラさんとエルフのフランツェスカさんがそう言い返してきます。
「カルノタウルスは足が速いんですよ。
ティラノサウルスよりずっと、なんならアレより速い恐竜は全員飛んでるか、あるいは見た目からして早そうというぐらいに」
さて、嫌な解説をした所で、カルノタウルス君が動きます。
緊張の一瞬です。
そして、
カルノタウルス君、そっぽを向いてノソノソどこかへ。
「……えぇ、」
「油断しないで。むしろ威嚇してこない方がおかしいです」
例えば、現生のクマの行動で一番恐ろしいのは何か?
それは、威嚇する様立ち上がる事でもなければ、ずっと襲いかかりそうな様子で追いかけてくる事でもないのです。
一見、友好的な態度を見せるクマ。
それこそ我々を獲物として見て油断させてくる罠であり、野生動物で最も危険な行動とも言えます。
例えば、そこのカルノタウルス君のように、一見こちらを無視してちょうどあった水たまりで喉を潤し始めているのも、マズイ。
こちらを脅威として見ていない証拠でもあります。
「人慣れしてるんですよ。
マズイです、そういう大型肉食獣は」
「ではどうする?動かなくともエサになるぞ」
「ゆっくり、後退していくしかないですね」
「まどろっこしいわね。領主もいないし、私が考えた対策を試しても良いんじゃないの?」
「一撃で仕留める自信あります?」
「そんなに脚速いのあいつ?
エルフの無詠唱魔法よりも??」
「そりゃ……あ!」
ふと、カルノタウルスが頭を上げて別の方向を見ます。
よく見ると、おそらく家族連れのエドモントサウルスの群れが。
「……ゆっくり下がりましょ」
今だ、と多少不満そうな一名を宥めながら、カルノタウルスを見ながらゆっくり下り始めます。
当のカルノタウルスは、姿勢を低くしてゆっくりエドモントサウルスの群れに近づき始めました。
草むらを遮蔽に……ゆっくり。
「随分のんびりじゃないの」
「いえ、アレで良いんです。
エドモントサウルスは、ああ見えてかなり足が速い草食恐竜です。
追いかけっこするなら、スタミナと速度両方でティラノサウルスも負けるほどです」
「遮蔽の使い方も上手い。
目測で彼我のサイズさを考えて車兵を選び、場合によっては姿勢を変えてる。
……自衛官の訓練で参考にできるレベルだ」
「随分賢い。
……動くな」
アスラさんの言葉の瞬間、カルノタウルスの凄まじいロケットスタートが決まりました。
良く漫画にある次のページで過程が省かれて結果だけ見せるアレがあるじゃないですか。
まさしく、そんな速度で小さいエドモントサウルスの子供の首が噛み切られていました。
今やっと、血が吹き出たほどの速度です。
「……かけっこしないで正解ね」
「ティラノサウルスが、私の世界のライオンやハイエナの様に群れでの統率と一撃での噛みつきによる集団戦を得意とするパワータイプだとすれば、
同時期にいたカルノタウルスは、ひたすらに単独や小規模な群れと共に速度で狩りを行うスプリンターと予測されてました。
いや、『です』と現在形で言うべきですね」
……実は、こっそり服の胸ポケットにあるスマホを録画モードにしていました。
生きているカルノタウルスの、貴重な捕食シーンは上手く撮れているのでしょうかね?
とにかく、カルノタウルスは餌をあちらにした以上、注意はしつつも一旦戻るべきですね。
「今のうちに装甲車の方へ行きましょう」
「…………」
少しして、私達と狩りを終えて満足そうなカルノタウルス君は装甲車にやってきてしまいました。
やってきてしまいました!!
何故!?
「とんでもないのが来たな。口も血まみれじゃないかよそのお客さん」
「これ、目をつけられてるんですよね?
確実に目をつけられてますよね??」
しかも、ペロッとか頬舐めてきたんですけどカルノタウルス君?
血生臭ぁ……!!
「うるさいと思えばなんですのソイツ?
撃ちます?「
「え、何々?
ってなんの騒ぎかと思えば、『ツノデカネコ』じゃんよ」
そんな時に装甲車の裏から出てきたエリーとあの酒場の、じゃなかった錬金工房のシノさんがなんでもない様に近づいて、カルノタウルス君の喉元辺りを撫でまわし始めました。
何がすごいって、カルノタウルス君完全に心許し切ってます。
「え、えぇ……??
白亜紀末期南米の覇者が……?」
「ああ、この『ツノデカネコ』とか『ツノトカゲネコ』って呼んでるヤツね、確かに油断してたら赤ちゃんとかはパクッと行きそうになるけど、案外お腹いっぱいの時はただひたすら懐っこいんだよね」
「ミャア」
……え、カルノタウルス君の声今?
ミャア、って言った??猫の鳴き声??
5mはある全長の生物がミャア??
「……いや、こんなこと言ったらアレだけど、
エルフ慣れしすぎたクマもこんなもんよ」
「…………なるほど」
いやすごいイメージとの違いがある物の、なんとなく納得してしまうところもあります。
チーター。私の世界の現生の生物で速度に特化した捕食者ですが、彼ら彼女らもまた案外争いは好まない大人しい性格です。
アフリカでも多少の獣害は起こる物の、大抵のチーターは案外『大きなネコ』の様なものとして、またよっぽど飢えてるチーター以外も人間の様な比較的大型の生物は狙いません。
……とは言え、一応我々はカルノタウルスより小型で充分餌サイズなので……
よっぽどカルノタウルスは、捕食者でありながらも気性がとても大人しいのでしょう。
化石からはそこまでは、見抜ききれなかった。
「……いや、だが考え様によっては、コイツは使えるかもしれないな。
飼い慣らせば並の猟犬より使えるかもしれない」
「確かに、カルノタウルスが属するアベリサウルス科はある程度の社会性を持つ大型肉食恐竜ですしね……ん?」
まって、この足跡……………………
まず、写真を一枚。
次に、ポッケに持っててよかったメジャー君取り出しーの、
「ごめんなさい、ちょっと誰か手伝ってもらっても?」
「は?何してるの?」
「……歴史が塗り替えられる瞬間、かもな記録かなって?」
進化的な獣脚類恐竜らしい、3本の爪だけで大地を蹴った後。
その、真ん中の指の深さを測って……あフランツェスカさんメジャー持っててもらってありがとう、からの写真を一枚。
次に左右の指の深さを測ってそれぞれ。
他のカルノタウルス君の足跡もそうして……
「いやマジで何してんのアンタ???」
「いやいや、すでに歴史が塗り替えられてるんですって、状況証拠だけで」
なんで石膏はないんでしょ。こんなとんでもない足跡が見つかってるのに。
……はー、やっぱりどの穴も、真ん中の指だけ力の込め方が強い。つまり真ん中の指の足跡だけ深くなってる。
「嘘でしょ……いや、マジか……いやいや冗談ですって……えぇ?えぇぇ???」
いやまだ。だってまだ脚見てないもん。
「落ち着け落ち着け落ち着け……カルノタウルスくーん、脚見せてねー?そのままおとなしくねー?」
「アンタ、なんか壊れちゃってない?」
「どうしたんだ名香代殿?顔が真っ青だぞ?」
「ありえんでしょ……アベリサウルス科なのに……ありえないありえない、いやでも……え、え??」
そんなことより足首だ。
じゃない。そうもなろうもん、だってカルノタウルスの足首が……!!
「あらまぁ、コレは。
大学時代に、卒業前に出した新論文が学会で激震が走った時の前に見た名香代が帰ってきましたわね」
「つまり、どういうことだ?」
「あ!
アレですよ、こういう錬金術師の教授見たことあるぅ!!その後すごい物作って、爵位もらってたヤツだ!!」
カルノタウルス君の、足首に触りますよ。
……主に、指の付け根の……ああ、ああ、肉の上からでもわかる、ああ、うっそ、ああああああああああああああ、
うwぁいんdgそwbどっsbしsんそk!?!?!?!
「……《・》アークトメタターサル」
どうしてそんなものが!?
「は?翻訳上手くいってないわよなんか?」
「アークトメタターサルが、あるって言ってるんです」
「……アーク、なんだ?」
「なんだそりゃ」
「なんでしたっけ?」
………………ふはははは、冗談じゃねぇやですよ、マジで。マジで!!
腰に抜けちゃった……
「……シノさん、この村にカルノタウルスの全身骨格ってあったりします?」
「え?いやいや、無いってそんなもん何に??」
「…………」
足首の写真をパシャリ。
ヤバいですよ、これは。
「……佐藤さん、ちょっと地球とネットなり電話なり繋げられます?」
「は?
あ、でも確か一応、ギリで通信インフラ開通は現地の許可を取ってやってたはずなんで、」
「本格的な探検をする前に、ちょっと今すぐ古生物学会に報告しないとまずい情報というか、
コレ言わないでもし墓場まで持って行ったら私の死体が死後酷い目に遭わされる様な発見をしてしまったので、申し訳ないんですけどすぐにでも、すぐにでも地球と通信をさせて欲しいんです」
早口になって捲し立てざるをえません。
ええ、そりゃそうなりますって。
正直言って、ファンタジー世界の恐竜の子孫で空を飛ぶ進化で化学物質をお尻から噴射している飛竜とかよりも、
その近縁で人間そっくりに進化していた飛竜人なんかよりも、
身近で、身近すぎるからこそ、
「カルノタウルスにアークトメタターサルがあるという事を、一刻も早く伝えないと」
正直こっちの発見の方が、余りにも衝撃が大きすぎたんです。
「だからなんなのよ、
そのアークトメタターサルって??」
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