第11話 : 古生物関連緊急生放送
世界には、古生物を研究する機関は沢山ある。
当然学問の一つでもあるので、ただ化石を発掘するだけではなく、掘り出した化石を慎重にクリーニングし元の形を復元していく作業や、その骨の形や周辺の岩や年代を特定し古生物の生きた環境を予測するなどの研究は、日夜行われている。
しかし、発掘作業中だった研究チームも、
化石を洗っていた物も、そして各国大学の一教室も、
例外なく、昼夜問わず、皆一様に、
そのライブ配信を、鋭い視線で待っていた。
『小平名香代@古生態学研究者』
意外にも、世界中の研究者は一度はこの動画配信サイトにある個人チャンネルは見ている。
一般人にはウケが悪いが、恐らく論文とほぼ同じ内容を分かりやすく解説していることと、このチャンネル主たる小平名香代の論文は一度は皆目を通すからだ。
『みなさん、挨拶もそこそこにすみません。
緊急で動画を回しています』
カメラを片手に、随分と血まみれのエプロン姿の若い女性、
日本、山井大学地球自然史学科恐竜学部准教授兼私立小平古生物博物館館長、
小平名香代 18歳。
人は彼女を天才であり、何より行動力の化身と呼んでいる。
若くして大学を卒業し、現生生物の行動観察のフィールドワークを経て、古生物達の幾つもの古生態に関しての論文を発表している。
化石の発掘にも10代後半にはかなり参加しており、新種発見はしていないものの既存種の化石発見をいくつか行い、自らその化石を調べて古生態の研究に大きく貢献する発見を行っている。
一般向けの本もそれなり出しており、一応趣味で狩猟も行っていたことから『もしも銃で恐竜を撃つならシリーズ』という変わった本も出しており、意外と研究者からのウケも良い内容であったりする。
そして、とうとう彼女は異世界にて恐竜類を見つけて、地球人類で最初に恐竜が生きている場所へ上陸した。
少し悔しい、とは多くの研究者も思ったが、概ねこの行動に納得していた。
『ご存知の通り、異世界たるエモールディアへ渡航し、現地に存在する『恐竜類が生息する島』へ来ています。
ここの恐竜類には発見済み、未発見あらゆる個体がいますが、それよりも取り急ぎ、これを見ている研究者や各機関の皆さんに見てほしいものがあります。
映像を流します』
そうして、ある録画映像が流れた。
そこには、カルノタウルスとの遭遇記録と、カルノタウルスがハドロサウルス型類の恐竜を襲う映像だった。
世界中の古生物学者は、泣いた。
例えば、別の世界の似た生物であってそれは恐竜では無いかもしれない。
恐竜だとして、カルノタウルスに見えるが別種の可能性もある。
だが、カルノタウルスの特徴を持った爬虫類らしき生物が、カルノタウルスの予測生態の動きで、獲物を狩る映像。
それは美しかった。
それは……映画のモンスターではなく、本物の恐竜がいた。
『今、見ていただいたのは、カルノタウルスと思われる恐竜の狩りの映像を、偶然ですが映像に収めることが出来た物です。
このカルノタウルスは、意外なことに現地の人間曰く余程空腹では無い限りは人間や場合によっては多少小さいサイズの草食恐竜を襲うことはないこと、
それでいて今回は確認できませんが、復元骨格の予測生態通り、自身と同クラスやより大型な生物も襲うハンターでもあるとの証言もあります。
ですが、基本は原生種のチーターの様に……
って、本人来ちゃったか……』
ふと、その撮影場所の建物の窓から、カルノタウルスが顔を覗かせたのである。
襲いかかると言うよりは、興味があって見に来ただけの様で、軽く名香代が小突くと顔を引っ込めてどこかへ行った。
この時、主にカルノタウルスの化石が出たアルゼンチンの大学にて、この映像を見ていた教授や学生達は自然と神に祈っていた。
彼らのまた、恐竜の生の姿を常に想像し続けた人間達である。
だが、祈ったのはそれだけではない。
───実は、ほんの少し前に見つかった下半身のみの状態が良い化石が、恐らくカルノタウルスだと分かってきたところだったのである。
『さて、今回の放送の目的をお話しします。
このカルノタウルスらしき生きた恐竜の足跡と、そして実際に足を触り、』
そして余りにタイミングが良い発表タイミングに何かを感じており、
「偶然、現地で死骸を確保出来たカルノタウルスの脚部の解剖の結果により、』
よりにもよって内容は自分達の研究と重なり、
『新事実が発覚した事をお教えします』
よりにもよって、自分達の研究の結果と同じ事実だと、気づいてしまったからである。
『まず、こちらの足跡をご覧ください』
映ったカルノタウルスの生きた足跡は、世界中の研究者に大変恐ろしい予感を思わせた。
『写真1。カルノタウルスの足跡ですが、見た瞬間の違和感のままに私自身がメジャーでその深さを図ることにしました。
写真2。中央の第三指の深さを測った物
写真3、第二指の深さを測った物
写真4は、第四指。
メジャーによると、第三指のみ他の指より僅かに深く土を踏み締め、力が強くかかっていることが分かります』
アルゼンチンの研究者は、即座にクリーニング途中の新たに出土したカルノタウルスの足首を見始めた。
既に途中で予測し、現在新事実を論文化し記載する準備をしていた部位だった。
『この様な足跡、そして何よりカルノタウルスが素早い狩りを得意としていた証拠は以前からあった結果、ある疑念を抱きました。
私は即座にカルノタウルスの生きた個体の足首を簡単にですが触診し、
そして、ついさっきやっと、この別種のカルノタウルスの死骸を解剖し、骨を取り出して目で見て確信しました』
画面の中で映された、まだ白い骨の足首周りと、化石の足首を見比べるアルゼンチンの研究チーム達。
それは、驚愕というより、答え合わせによる安堵を覚えるものだった。
その特殊な構造の足首は、
「『アークトメタターサル』」
化石も、画面の新しい骨も、同じだった。
『ご覧の様に、第三中指骨の上部が、両側の第2、第4中指骨に深く挟み込まれている構造が、カルノタウルスには存在しました。
現在、カルノタウルスは脚の部分が出土してない事は知られていますが、
同時に、保存状態のいい他の全身から、カルノタウルスがアベリサウルス科の恐竜である事は間違いありません。
しかし、アークトメタターサル構造はこれを見ている皆さんが知られている通り、
コエルロサウルス類……本来はティラノサウルスやトロオドン類とオヴィラオプトロサウルス類にオルニトミモサウルス科のみの特徴であり、彼らが後期白亜紀で反映された原因とされてきました。
しかし、この発見はつまり、
アークトメタターサル構造を持つ恐竜類は他に存在した証拠であり、これが偶然であれカルノタウルスにはアークトメタターサル化した進化が起こっていたという証拠です』
「すぐにこちらも新しい化石の論文の第一報を発表するんだ……!!
今すぐにでも……!!」
アルゼンチンの研究チームは、即座に化石の論文発表をする決断をした。
他の国の配信を見ていた研究者達も、ざわつく発見だった。
たかが一個の特徴が見つかっただけのこと、されど一個の特徴がそれまでの学説を変える。
アメリカでは、各古生物を研究する大学などのチームが、独自に異世界エモールディアへの研究チーム派遣をする為にやっと動き始めていた。
多くの恐竜を出土する中国に至っては、即派遣が決定。ただしそのための手段が他国より遅れている為にまずそこからとなる痛手に嘆く。
日本は、既に名香代の連絡先を知っている研究者一同が共同研究の打診と「ズルいよ!なんで呼んでくれなかったの!?」と文句を言う為に鬼電が始まり、
韓国研究チームは、出遅れに嘆き四つん這いで泣きながら「デルジバゼヨ!!」「イジメヌンデ……」と泣き叫び、
ロシアの研究チームは戦争の為に研究ができない間に進んだ世の流れを嘆いてウォッカを飲んでいた。
一方、イギリスやドイツなどの欧州の伝統ある古生物学の研究チームも今回の発表で一歩出遅れた事実に対して重く受け止めた為に、電話会談とはいえ早々に合同研究チームを結成し始めながらこの放送を見ていた。
世間では、魔法や異世界の得意な生物達が有名となり、それの研究もまた盛んではあった。
ただ、世界中にはまだ恐竜や古生物にロマンを感じている人間も多く、
そして、生きた恐竜のいる島に初めて降り立った人間が見せた新しい研究結果なんて見せられて、大人しくしましょうができるほどおとなしい人間でもなかった。
古生物だったものが、現生生物になった。
行かねば
『この古生物達が何故か息づく島であるメソゾイックは、ほんの表層でこれほどの発見が見つかります。
ですが、私が今取り急ぎこの新事実をお伝えしたのは研究史が変わるほどの発見だったからだけではありません。
数日後、私は島の奥地への第1次フィールドワークを行う予定です』
その言葉に世界中が再び動きを止めて、画面へ集中し始めた。
『この島には、恐竜島であるとして余りに矛盾と不自然さが存在します。
今いる場所は白亜紀前期から後期までの恐竜が存在し、目的地として定めた場所はジュラ紀の恐竜達がひしめく、まさに本当の意味で『ジュラの世界』という事になります。
その原因も片手間で調べられたらとは思いますが、例え今回この地へ来た理由である『現地の恐竜の子孫と思われる人類型知的生命体の祖先の当たる恐竜』を見つけること、そしてその研究にのみ従事した場合でも、
私は死ぬ可能性があります』
「これが遺言とか言わないでくれよ、小平名香代ちゃん……!」
日本の研究者が、ついそう呟く。
『これが遺言、とは言いませんが、ただでさえこの地の周辺でも多くの肉食恐竜が闊歩し、
今滞在する街も本質的に大型肉食恐竜のテリトリーとも言えます。
……数日後、私が経った後、もしも私が帰れなかった場合を想定して動かざるを得ません』
何を言う気だ?と世界中の研究者が注目していた。
『……まず、用意をすると同時に2日かけて、このメソゾイク島の外、この島以外のエモールディアに生きている二種類の原生恐竜である『ワイバーン』『飛竜人』の研究をまとめて、島の唯一の街に置いておくつもりです。
もしも、私以外で島へ研究へ訪れる勇気ある研究者の皆様が訪れた際には、好きに閲覧できる様にしておきます。
紙と、記録媒体でまとめておきます。
もしも私に不測の事態が起きた場合の引き継ぎのために』
「嫌だぜ、魂の姉妹よ。
俺達は遺言では受け取らない」
名香代が通ったアメリカの大学の同期が、聞こえないと分かっていてもつぶやいてしまう。
『もちろん、帰ってきて私が続きを書くつもりです。
飛竜ことワイバーン、飛竜人、どっちも学名の記載は私がしてやりますからね。
それを伝えるために、カルノタウルスの事を利用した様な放送ですみません』
「謝らないでほしい、教授。
お陰で、私達の研究は肯定されたんだ」
アルゼンチン研究チームは、皆名香代へ敬意を表す様な視線で答えていた。
『では、私は研究を続けます。
この後、短いですがカルノタウルスの分かった範囲での論文のデータをなんとか地球のネットへ送ります。
その他恐竜の研究結果も短く未完成ですが。
では、今回の放送はここまで。
ご清聴ありがとうございます』
────放送終了後、古生物学界は大きく大きく動き出していた。
異世界へ研究チームを出すために奔走する者もいれば、単身乗り込む方法を探すものまで。
一般人では知られていない場所で、恐竜を求めて動き出す人間達がいた。
そして、その中心となった名香代は、
「さてと……飛竜人と飛竜の祖先がどんな姿か考えるために、」
そう言いながら、メソゾイクの墓地近くの葬儀屋に来ていたのだった。
「ごめんくださーい。
骨ってあります?」
ある意味、地球とは違う常識も多い異世界でからこそできる事をしていたのだった。
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