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異世界メソゾイック-剣と魔法のファンタジー世界の奥地、そこに恐竜がいまだ生きていた!?-  作者: 来賀 玲


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第3話 : いよいよ恐竜島へ上陸すべく海の上を進む探検隊一行は、既に上陸前から驚愕の存在から歓迎を受けたのであった!










 魔法の世界の帆船は、空を飛べるらしいです。

 それが私こと、天才美少女古生物学者の小平名香代ちゃんの初めて知った事です。


 大きな船が、海を見下ろす空を飛ぶ。

 動力は魔法。まさしく別の世界の乗り物。


「問題は、これで2時間はかかる距離というところでしょうかね?」


「一晩じゃないだけマシだぜ。

 それにしても、案外目当ての島を目指す人間が多いもんだ」



 ただし中身はほぼ空洞。

 なんと言いますか、持って来た寝袋やらマットやらで自分たちのスペースを区切って、はい到着まで待ってと言うスタイルです。

 アルトリーシャさん曰く、ベット付きの部屋はどうしても高くなるからなのと、このどデカい隣の装甲車のせいでここへ。


「皆、お前と同じかそれ以下だバーソロミューの旦那」


「バートでいいさ。

 へへ、するってぇと皆恐竜狩りに行きたい酔狂な連中ってことかい、マーム・アール・アルトリーシャ?」


 ストライカー装甲車の主、ことティラノ狩るためはるばるアメリカから来た英国紳士気取りの大男、ことバートさんがそう言います。


「アルトリーシャでいい。伯爵(アール)なんて呼ばれ慣れてない。


 ……酔狂なのはそちらの世界だけだ。

 魔力無効の素材は、ダンジョン潜りの冒険者から今は落ち着いた世であっても傭兵や腕に立つ貴族にまで重宝される。


 私が、飛竜人である私が今生きて過ごせているのは実はすごく運が良いことなんだ。

 そして、私達の先祖でもあり、生きて今も増えていて、何よりデカブツな恐竜は……言い方が悪いが私たちの代わりにはちょうど良い」


 ……なるほど。

 ……運が良い理由を察して、流石に黙ります。


「……魔法のある文明も大変なんですね。

 日本政府の遣いとしても、心中察します」


 私の隣の日本外務省の人で護衛らしい佐藤さんも、思わず苦虫を潰した顔でそう呟きます。



「すまんな佐藤さん」


「…………ところで、バートさんにエリー」


 さて、そんな中ですが、私は私の私物であるこれ……ちょっと特殊な猟銃、エレファントスレイヤーを取り出します。


「あら、もしかしてエレファントスレイヤーに不具合でも?」


 ……そう、その制作者であるエリザベス・スミス、ことエリーに見せるために。


「コラ!エリー、あれほど調整だけはしっかりしなさいとパパ口酸っぱく言ったよな!?」


 珍しく、眉をしかめて叱るバートさんに、結構本気でシュンとなる珍しいエリー。

 これは大学中期試験の結果発表以来の顔なので、相当ショックなはず。


「撃てなかった訳でも、銃に問題が起きた訳でもありません。


 ただ、胸に三発撃ち込んでも、

 イグアノドンは仕留めきれませんでした」


 でも、それ以上に本人達もショックな言葉を言わざるを得ないのです。



「何!?

 577ニトロエクスプレスで仕留めきれなかったぁ!?」


「古い、とはいえフルサイズの弾薬ですのに!?」


「……ククク、なるほど。こりゃあ、ある意味で用意してくるもんだな。

 エリー!」


「ええ、お父様。

 名香代、エレファントスレイヤーをお借りしますわ」



 よし、と私はこの二人に、この魔改造された銃を渡します。


「……何が始まるんだ?」


「楽しい工作の時間さ」


 アルトリーシャさんに応える様に、バートさんが後部ハッチを開けます。




 そこには……




 ストライカー装甲車の中は、工房でした。

 あらゆる銃のパーツ、火薬から炸薬、お手製の弾頭を鋳造する専用の機械まで。


「なんと……!」


「さてさて……エレファントスレイヤーをもっと強力で、もっとパワーのある、美しい暴力装置へ変えてしまいましょ?」


 言うや否や、元からそう言う構造とはいえ、銃身を機関部から取り外して、手際よく銃を解体し始めます。


「実は、名香代に謝りたいことがあって」


「なんです?」


「先ほどは驚きはしましたが、実はお父様共々こうなる気がしていました。


 相手は、ゾウサイズがデフォルトの世界にいた怪物、異世界の物とはいえかの恐竜。


 577ニトロエクスプレスではさすがに弾が古すぎる……と言うよりゾウ相手に充分な程度ではと内心思っておりました。


 追いかけて来たのもワタクシ達親子の趣味だけではありませんわ。


 ……いえそれも嘘。


 こればっかりは、趣味全力全開ですのよ!」



 だん、と取り出す、何やら禍々しい弾丸。

 577ニトロエクスプレスっぽいけど……いやちょっと、なんか長いと言うか、弾頭がデカくないです……!?



「これは?」


「これぞ『577T-rex』。

 名前の通り、ティラノサウルスを殺す為に作られた、という名目で世界最強のストッピングパワーを持つ大変デンジャラスな弾丸、ですわ」


「そいつを撃てる銃は世界に10丁ほどしかない。

 まぁそんなもんぶっ放すバカは10人いりゃあ良い方だもんな!!


 ところが、この異世界にそんなバカがあと3人増えることになる」



 太い銃身、それに合わせて調整されていく機関部。

 あっという間に、魔改造がさらに魔改造されていきます。



「これぞ、『ティラノスレイヤー』。

 もう2度とイグアノドン相手であっても、仕留めきれないはないはずですわ」



 あっという間に出来上がる、さっきと似た姿の、さっきよりも重厚感のある銃。


 対物ライフルが元とは言え、なんかすごい殺気……



「これ猟銃って言って良いんですかね……?」


「14.9mm口径、弾頭は750グレイン。

 当たればクジラも殺せる弾を、女の子が撃つにはこの方がいいのさ。


 プルバップで全長を短く、猟銃にしてはいい速射性、ただしこだわりと安全のボルトアクション。


 マズルブレーキはそのままにしたお陰で、おそらくはこの弾でも前の感覚で撃てるはずだ。


 なぁに、こう言う大人の銃を使うのは、このアンクル・バート(バートおじさん)ぐらいのマニアで良いのさ!」



 そう言って取り出す、皆が思い浮かぶ普通の銃身に普通の木製のストックな、見た目こそ普通の猟銃を……実際は、このバートさんが大男なのを差し引いても大きい銃身の銃を取り出して言います。



「でもお父様、クラシカルでトラディショナルなボルトアクション猟銃、それも良いですけど……


 やっぱり、銃はストーナー式でないと?」




 ……エリーが取り出したのもまた、凄くアレな銃でした。


 アメリカの軍隊が持っているアサルトライフルの銃身を、ちょっとデカくしたような。



「エリー、お前のAR-15マニアも極まっているが、そんなもんしまいなさい。

 まさか、フルオートで撃つなんて言い出さないだろうな?」


「AR-15の設計は完璧ですわ。

 元々、12.7×55mmなんていう、ヤンキーの考えた最強のマッチョ弾をスマートに撃つためのストーナー方式こそ芸術にして至高。

 ふふ、フルサイズ弾のマグナムでも全く問題ありませんわ」


 そう言って、多分自作のアサルトライフルに頬擦りするエリーです。


「相変わらず、ヤバい趣味ですねエリー」


「俺に似ちまったのを喜ぶべきか嘆くべきか。

 コイツの彼氏が居た堪れねぇや、なんせAR-15と比べられるんだぜ?」


「お父様、お下品」


「さて、これでもう恐竜相手に遅れは取らないつもりだが……


 そもそも、なんでそこの可愛い恐竜博士を中々刺激的な異世界くんだりまで呼んだのか、俺も気になるから教えちゃあくれないかね?」


 ふむ……確かにそろそろ本題に入りたいですね。


「まぁ、私は恐竜の生きた状態で生態を研究できるなら、なんでも良いが本音ですが。

 それにしても、わざわざ買った本を見せてまで何故私を呼んだのですか、アルトリーシャさん」


 改めて問いかけた相手は、

 つまりアルトリーシャさんという、この剣と魔法の異世界に存在する恐竜人類、なんらかの恐竜の子孫に問いかけます。


「……名香代先生に探して欲しい恐竜がいる。

 図鑑には載っていなかったが、いるはずの」


 それは、シンプルな依頼でした。


「……それって、もしかして頭骨の側頭部に突起……ツノがあり、おそらくコエルロサウルス類。イ・チあるいは翼竜類の様に翼が膜で出来た飛行能力がある恐竜ですか?」


「ん?

 ちょっと待て名香代。なんで既にそこまで分かってんだ!?」


「目の前に、その子孫がいるので」



 私の問いに、驚いた顔を一瞬見せた後、妙な笑みを浮かべてアルトリーシャさんは頷きました。



「そうだ。

 いるはずなんだ、あそこにはまだ。

 私達の祖先……あるいは、その祖先に近い姿の恐竜が」




 これには、私以外すごく驚いた顔ですね。



 そもそも、アルトリーシャさんこと飛竜人さん方は、その指の本数などからどうも獣脚類から派生して進化して来た人類型の知的生命体。おそらく、鳥の方が近い人間とでも言うべき存在です。


 ならば、いるはず。


 例えば、鳥に対する始祖鳥やアンキオルニスのような、

 ティラノサウルスに対するグアンロンやディロングといったような、


 つまり、直接の祖先、あるいは直接の祖先に近い形質を受け継いだままの存在が。



「見つけて、どうするんですか?」


「…………分からない。見つける理由として大した大義も無い」


 それは、余りに意外な答えでした。

 何か深い事情や、理由があってのことだと思っていたのに。



「見つけてどうしたいか、そんなことも考えたさ先生。

 ただ、そんなこと思いもしなかった。


 私が、勇者と呼ばれ、王国の爵位を得るほど活躍したのは、村の皆の為だった。

 島に拠点を作ったのも、半分はただ、未だいる差別的な物から皆を守るための本当の安住の地を、侵害されない豊かな故郷を得るためだった。


 だけど……そうだな。

 あの島を開拓し、住む場所を見つける為にした冒険という名の地獄の中、

 地図もなく迷ったあの恐竜の楽園、そして私達にとって地獄かより酷い地獄の島を駆けずり回る日々の最中、




 私は、一瞬見た気がしたんだ。

 木々の間の光に、小さな……小さな飛竜の様な姿を。


 確かに、この目で見たんだ」



 どこか遠く、空の上を見る目で上を向いて、アルトリーシャさんはその空飛ぶ何かの軌跡をなぞる様に視線を動かしていました。



「見たんだ、見てしまったんだ。

 私以外も見た者が隣にいた。


 ……なのに、まるで幻の様に消えてしまった。


 後にいたのは、似ているが、でもあの姿じゃ無い……


 初めて名香代先生に見せた、イ・チだけだった」



「……確かにいたのに、見つけられなかった」


「変なんだ。その時からずっと。

 魂だけ、あの下から見た影に取られたみたいに、ずっとあの姿だけ考えている。


 いたはずなんだ、確かにそこにいたんだよあのご先祖様は!


 なのになんで見つけられないんだ!?

 そこにいたのに!!

 絶対にいた!!

 ……いて欲しいんだ、ただ……!」



 …………うん、うん。



「まさしく、それは恐竜ですよ」


 私には、分かる。


「そこにいたのに、もういない。

 見つけられない。でもいた。


 ……恐竜をはじめとした古生物は、確かにそこに存在したはずなのに、今やその証拠は骨しか残っていないのが、私達の世界です。


 いや、骨すら残っていない物もいる。

 腕だけ、体の半分だけ、そんなのまだマシです。

 まるで連想ゲームや、陰謀論のように、あるいは出来の悪い妄想の様に、微かな証拠をつなぎ合わせて、いたかもしれないとすらされる様な物も多い」


「…………」


「だとしたら、あなたの見たというご先祖は、

 まだいる可能性がずっと高いじゃないですか?

 イグアノドンもいる首長竜もいる。

 なのにあなたの先祖がいないと断定できる証拠の方が少ないじゃないですか」


「!」


「現地に着いたら、目撃した場所を案内してくださいね。

 私が、それを確かめたくなって来たので」



 面白いじゃないですか。

 それ以上の複雑な理由が要りますか?


 私は、古生物学者の中では珍しく、「穴掘ってお宝を見つける」のではなく「お宝がどういうものなのか」を探す方が好きでなったタイプです。

 その為に、貴重な10代半ばを発掘現場だけではなく、そこから出た生き物に近いとされる生物の行動を直に見るのに使ったりしていました。おかげでハンティングが少し得意になったり、横の変な知り合いができたりしましたけど。


「……ありがとう」


「こちらこそ。

 ……私こそ、もうすでに何度も同じ言葉を心でつぶやいています」


「え?」


「ありがとうございます、アルトリーシャさん。

 少なくとも私はもう恐竜に会えたのです」



 ───恐竜が生きていた。

 首長竜も、おそらくその他の古生物も。

 おそらく、私はその事実に最初に知れた上で最初に目撃する人類になるでしょう。


 もしも今、元の地球でその事実を知った恩師や同業者、その他の人間は何を今思うのだろうか?


 それは古代の生き物とは違うはずと言い訳を思いながら、私の出す未来の論文に反論する様な人間もいるでしょうが、そんな可愛い人間の方が少ないでしょう。

 何人ぐらい、このエモールディア渡航を今更計画し始めたのだろうか?

 全ての予定をキャンセルして、それでもまだ1週間遅れてる人間もいる。

 いっそ最初に言った事を心にもなく言いながら、本音を隠して机や物にあたっているかも知れない。



 ごめんなさいね、と意地悪い笑みすら浮かんで言える。

 イ・チなんてあまりにレアな恐竜をはじめ、最古の記載をされたイグアノドンを間近で見て撃ってしまった初めての人間、

 既に首長竜も見ている、種類の同定まではできずとも、そこまで見ているのは、



 あの地球上では、今のところ私だけ。



「それどころか、生きた、未知の恐竜を探せる。

 未記載の化石を掘って、名前をつける宝探しよりも……魅力的すぎる誘いに名前を挙げてくれたことは感謝でしかない」



 天才美少女古生物学者である私こと小平名香代は、


 可愛い女の子である前に、

 恐竜が恐竜好きの男の子より好きであり、

 古生物を愛しすぎているかなり狂った人間なのです。



「ありがとう、異世界の推定恐竜人類種でもある方。

 既に、5つは論文のテーマが出るほど、正直言って浮かれています」


「…………あ、ああ……」



 ……引かれてしまったようで?

 ですがね、一番楽しみなのは変わらずです


「気持ちは分かるが落ち着いとけ、若人よ。

 今最高に、濃ゆいオタクの顔だ」


「まぁ、仕方な……」





「うげっ!?ネズミ!?!」



 ふと、近くの若い集団がそんな声を張り上げたかと思えば、ポーンと何かが宙を舞います。


 お、キャッチ。

 それは、この世界にもあった真っ赤なリンゴにネズミ……ん?


「んん?このネズミ」



「ふざけやがってよ!!飛竜人がオーナーの船は衛生観念もねーのかよ、奴隷上がりらしい汚さだぜ!!」



 ……む?

 せっかく、この『ネズミ』に注目してたかと思えば、何やら不快な発言が。



「オイオイ、うるさいのはよせよ。

 周りにはちゃんとした人間やソレより上位な存在様達がいんだぞ?」


「チッ……」



 なんかこっち見てわざと言ってるみたいで。

 チラリと見たらアルトリーシャさんも凄い顔で黙ってます。


「…………何もいうな。多分私を見て因縁つけてる」


「……そういうならそうするがね、このバーソロミュー・スミス、早撃ちも得意だぜ?」


「お父様、わざわざあんな輩に弾を消費することなどありえませんわ」


「…………」



 ……まぁ、確かに、そんな些細なことこのネズミちゃんに比べたら大したこと無いですしね。

 ……その事をわかっている人も少なそうで、




「───オイ、テメーからもなんか一言あんだろ、勇者様よ」



 …………


 ヤカラがよぉ……

 まさかの、アルトリーシャさんがわざわざ黙っててあげたのに、これか。


「……ネズミの侵入ぐらい、この規模の船のこんな大部屋じゃよくある事だろう。

 それとも、銀貨でも欲しいか?」


「あ?流石、飛竜人とかいう薄汚ねぇ種族の癖に、爵位なんていらねーもん持ってる人は太っ腹だなぁ、オイ?」


 こういうヤカラ、一人に対して数人で囲みがちですよね。

 で、まともそうに見えても、つるんでる癖に止めないでため息ばかりの人もいて……


「……私がオーナーとはいうが、この飛行船はみんなのものだ。

 もう少し穏便にしない、」



 ……人がやっちゃいけないことっていうのは、いくつかあります。


 例えば、男がか弱い女性の髪を引っ掴んで引っ張るとか。


「その態度がムカつくっつってんだよ!」


 今、あのヤカラがやった様に。


「……」


「その目だよ……なんだ、飛竜人のくせによぉ!?

 俺を舐めてんのか!?」


「……お前、あの戦場にいたのか。

 冒険者になっていてもまだガレド侯爵軍に属していた頃の装備を使っているようだな」


 髪の毛を掴まれていても、静かにそうアルトリーシャさんは言います。

 その目には憐憫しか浮かんでません。


「……ああ、そうだよ。

 お前は覚えてねぇよな勇者様よ」


「妙に因縁をつけてくると思えばそうか。

 いまだにあの戦いの手柄にこだわるか」


 なんとなく、その時初めて、相手はヤカラ特有のイラついた顔ではなく、暗い殺気の顔を見せた気がします。


「───分かってんだったら、こうなるって分かるよな?」


 それは、そのヤカラがナイフを取り出した瞬間でした。

 もっと早く、まるで影がゆらめく様に、



「やめましょうよ、お兄さん」


 一瞬で、その首元にナイフを突き立てて、尚且つ後ろから羽交締めの様に相手の凶器を持った腕を止めていたんです。


 ずっと静かだった……佐藤さんが。


「は?」


「なんか知らないんですけど、気が立ってただけってことで穏便に済ましましょうよ。

 穏便に……お互い流血沙汰とか、冗談じゃないじゃ無いですか?」


 一瞬周りや羽交締めにされた本人が反撃しようとして、直後辞めます。


 ……佐藤さん、今日会ったばかりで……なんか本当、印象に残らないような普通の人でって感じでしたし、私の護衛で一人で大丈夫?って思ってましたけど。



 目が、全く笑ってない。

 それどころか感情がないあまりに暗い目で、睨むでもなく、まるでこれから夕飯の惣菜を選ぶかの様に、さて誰から向かって来たら殺すか、とでも言いたい様な目をしていたんですよね。

 一度、アフリカの危ない発掘現場で見たことがあります。


 現地で武装したならず者達を、速攻で屠って私達を助けてくれた、民間警備会社の人の目。


 元軍人だって、特殊部隊だって言ってた人の目。


 あの人たちが、まるで日常かの様に人を殺すときの、あの暗い目です


「……チッ」


 舌打ちと共に、ナイフをしまって両手を上げる輩の人。

 すっと佐藤さんも、同じくナイフをしまってその人の肩をポンポンとして送り出します。


 3人が、元の位置に戻った辺りで、こっちを見る佐藤さん。


「やっぱ、こういう狭いところは気が立つもんすよね。

 まぁ、引いてくれて良かった。

 アルトリーシャさん、大丈夫でしたか?」


 元の、あんまり印象に残らない若い男性に戻っていました。


「ああ……私は平気だが……佐藤さん、何者だ?」


「ちょっと、自衛隊……あー、俺の世界の軍にいたんで。

 ああいう意気がいい人相手が得意だったんですよ」


 なるほど。


「……の割には、動きが現役くさいな。

 SASか、デルタか?」


「なれたらこんな外務省の下っ端立ってないですって」


「まぁなんにせよ、大事に至らず良かった。

 はぁ……にしても、そんなに人種程度で優劣つけたがるもんなんですかね」


「そういうものだ。解消には長くかかるさ」


「あんまり言いたか無いがね、我が世界も似た様なもんだ。

 名香代も大学生時代はナチュラルにアジア人差別やってるアホが多かったろ?」


「バートさんも偏見が多くてびっくりしましたね」


「あ、そこは……俺だって虐められたじゃないか散々名香代ちゃんによ?」


 はは、確かに。


「……まぁ、元は単一の生き物だった物から多様に分かれていくなんて、生物の歴史じゃあ普通の事とはいえ、ストレートに差別的な事言ったり暴力に訴えたりとかは勘弁してほしいもんですよね。


 ほーら、君なんかそう思っちゃうでしょー?

 未来の子孫とか似た様なヤツらが何してんだーって」


 手元でリンゴを食べる、このネズミの様な生物にそう問いかけてみます。


「……ネズミが、先祖?」


「ああ、よくある話だよ。

 俺達の世界じゃあ、まぁ宗教抜きに考えたら人間の祖先はサルっていう生き物で、その祖先もネズミだっていうヤツだろ?」


「お父様。

 そもそも齧歯類が生まれたのは5500万年前ですわよ。

 正確には、ネズミに似た姿の哺乳類が始まりだったというだけ……で……え?」



 エリーが、ようやくこの手の中のチビちゃんに気付きます。


「エリー、一応大学で古生物を習ったなら、彼が何者かも見てハズでしょうに」


「まさか……!」


「な、なんですか急に?」



 ───そもそも、この船が恐竜のいる島に行き来しているなら、当然侵入している小さな生物達がいるハズ。


 防疫の面では厄介な生態の破壊者たる小さい生き物、それでこそネズミや昆虫やそう言ったものも。


 それは、逆の場合もある。



「……霊長類の起源は、8000万年前と言われています。

 その頃には既に、白亜紀の数多くの生態系を支えた哺乳類の中に、我々の祖先はいた。


 そして、化石はこう教えている。

 ティラノサウルスが絶滅した様子を、

 我々人間に繋がる霊長類の祖は、見ていたと」



 そのネズミは、尻尾がフサフサの毛で覆われていました。

 そして果物が大好きで、私の手から身体まで走り、そこから器用に後ろ向きに降りていく。

 後脚の特に足首の関節の構造が柔軟かつ、両手の動きが精密な証。



「プルガトリウス。

 6500万年前、あの大絶滅の時には既にいた原初の霊長類です。

 恐竜がいるなら、そりゃあ彼らもいるんでしょうね。

 だって、恐竜と哺乳類はある意味で生まれた時代もほぼ同時期ですから」



 驚いた顔を見せながら、しかしそのネズミよろしくスタコラサッサと物陰へ消えていく我々人類の祖先を見送る皆。



「人類の祖先もいるなら、なんの祖先がいてもおかしくはない。

 しかも、この世界にも齧歯類のニッチを満たす生き物がいる中、元気に海を渡っているとは……

 楽しみですね、飛竜人の祖先恐竜の姿が」



 希望は、小さな姿で現れてくれました。




『すみません、アルトリーシャ殿!

 甲板にお客です!!』



 ふとそんな時、大部屋の壁にある大きなラッパの様なちょっと原始的な拡声器からそんな声が。


「放送で呼び出し?」


「お客、か。

 島で何かあったか?」


 そして、アルトリーシャさんが立ち上がり、この部屋を出ていくのでした。



 ……まさか、この後結構大事になるとは、

 この時は誰も思っていなかったんですよね……



 

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