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異世界メソゾイック-剣と魔法のファンタジー世界の奥地、そこに恐竜がいまだ生きていた!?-  作者: 来賀 玲


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第24話 : 悪天候にため探検隊休息中







 恐竜が生きていると知りファンタジー異世界へやってきた天才美少女古生物学者の小平名香代ちゃんは、今まさに相当驚いています。


 異世界の恐竜島の奥地には、ティラノサウルス上科から人間へ姿を変えた特殊な進化を果たした恐竜である『飛竜人』の現住部族である「ズメイ族」が生きており、彼らの村はフェンドラグ族こと『飛竜』やホグル族こと『ナヌークサウルス』が共存して生きる奇妙な場所でした。


 そして、目が見えない代わりに全てが見えると言う老飛竜のババヤガ氏は、この島が古い昔に誰かが作ったと言う事、そしてこれから先の未来や、今島に起きている異変の事を教えていただきました。



「……しかし、本当に猛吹雪が来るとは」



 用意してもらった宿代わりの小屋の外には、ババヤガ氏の言葉通り本当に吹雪が起こっていました。



「ババヤガ様の予知は当たります。

 特に天候に関しては、とても」


 この小屋の持ち主でもあるらしい、ズメイ族のオリガさんは暖炉の薪を足しながらそう言います。


 

「にしてもひでぇ吹雪だ。

 故郷の冬を思い出すぜ」


「お前、大陸の北の方出身だったのか。初めて知ったな」


 なんて会話しながら、外を見るカイルさんと何か香炉のようなものに魔法的なものをかけているナハトさん


「だとしたら、私は600年生きててこんなバカみたいな天気は初めてだな」


「幸せ者ね黒い婆さんは。

 私、こういう環境は4度目よ。

 巨人族の住処や冬の魔竜の住処でね?」


「うるさいぞ白ガキ。大変な経験は認めるけど」


 なんて、実は600歳らしいダークエルフのダコタさんと、普通のエルフのフランツェスカさんでした。


「俺もこんなアラスカみたいなのは初めてだわな」


 オリガさんを手伝って、薪を運んでくべるバートさん。


「……天気を読むのは簡単だと信じたい所はあるが……

 未来を見る千里眼相手にするのは心が疲れるものだな」


 そして、そんな事を言いながら自分の巨大な剣を手入れするアルトリーシャさんです。


「アルトリーシャさんはそう言う相手と会ったことが?」


「昔に。何とは言いたくないぐらいには当たったよ先生」


「…………それ言われると、私もなんだか怖くなりますね」


 ……自分の父親と、再会……ですか……



「…………名香代先生、あえて聞くが、

 ご家族とは何が?」


「オイオイ、流石にそれは、」


「血縁上の母とは母が死ぬ前に会ってそれが最初で最後でして」


「オイオイ、名香代!?」


 知っているバートさんが止める中、どうせ言った方が気が楽なので身の上話でも初めて見ました。


「私は、孤児で気がつけばそう言う施設でそう言う子達と育ってまして。

 まぁ施設の人が程よく優しく放任なところあったおかげで、自分でできる範囲で色々して今は古生物学者に……」



 ………………いや、違う。



「……何か言いにくかったか?」


「……ごめんなさい、ちょっと強がりかも。

 私、昔から本当は寂しがり屋なのに、意地っ張りでしてね。


 人より早く大人になりたかった。

 恐竜がなんでか好きだったのは間違いありませんけど、学者になろうって思ったのも昔に男の子にからかわれて、その子より好きだから学者になるもんって言って意地のまま突き進んだのが最初でしたし。


 ……その子に突っかかったのも、恐竜を博物館に家族と夏休みに見に行ったのが羨ましかったのもあって……


 結構、長年親がいない事気にしてた所あったんですよ。


 正直、14歳の時に母の代理人を名乗る人と連絡があったのは嬉しかったけれど……」









 …………



 あの日、母は病室にいた。

 まだ若いのに、点滴の管がいっぱいに身体を支えるサポーターで巻きつけられて



「多発性骨髄腫!?」


「末期です」


 この時、私は大学へ行ける程度の学力もあり、病気がどれほど重いかも理解できるだけの知識があった。



「原因は分かりませんが、全身の転移はもはや治療し切れる量ではありません。

 ……ホスピス治療による痛みの緩和でも限界であり、これがおそらく話すのが最後の機会です」


 病院の先生は、硬い口調でも丁寧に、14歳でも私は受け止め切れると思って説明をしてくれた。

 ……かえってその方が良かった。

 私は……むしろこの沈んだ気持ちとも向き合えたから。




 でも、実際に血縁上の母……名前を『羽沼美琴』氏と病室で隣り合った時には、言葉が出なかった。


 多分、母もそうだった。



「……ごめんなさい」


「……謝るぐらいなら、もっと早く会って欲しかった。

 こんな死ぬ前じゃなくて、もっと早く私はお母さんと会いたかった……」



 初めに出てきた言葉は謝罪と、子供っぽくはない恨み言だった。



「…………ごめんなさい」


「……違うんだよ、お母さん。私はそんな恨み言を言うつもりで会いにきたんじゃないの。

 恨んでるけど、でもさ……でも、」



 論文発表より、言葉を出すのが難しかった。

 感情が溢れてるのに、それが言葉の形にならない。


 ……お母さんは、弱々しい手でそんな私の頭を撫でてきた。

 もう骨と皮ばかりな……死にそうな手が……温かくて……



「……私もね、もっと色々話さなきゃって……

 でもね……あなたの顔……お父さんにもちょっと似てて……そしたら、何も言えなくなっちゃって……


 ごめんね……ごめんね、しか言えないダメな人で……」



「…………」



「あなたのお父さんには、きっと二度と会えないけれど……

 あなたが生きていると知ったら、きっと大切にはしてくれるはず。

 まぁ……あの人女好きだから、私を愛していても他の女の人も愛してそうだけれど……」


「どうしようもないじゃん」


「どうしようもないわよね。

 ふふ……」


 でもなぜかそのどうしようもない男らしい私の父を話す母は、ずっと笑顔だった。

 遠くを見るような目で、ずっと。


「……私を恨んでいても良い。

 あなたが元気ならそれで。

 勝手な母だもの、お墓に来なくても良いの。

 あなたは……あなたの人生を生きて……幸せになって」


「…………私、子供の頃からの夢を叶えたから。

 ……私は、お母さんより長生きして、好きな事で有名になって……美人になって、おばあさんになっても周りに家族がいて、それで死んだら偉人として本になるって決めてるもん」


「……良かった。

 ついでに……もしもお父さんにあったら……

 一発、お願いね……グーで」


「何発でもやるよ、グーで……

 お母さん?」




 それが、最後の言葉だった。







「そして、お母さんは天国へ旅立ちました。

 ……さて、確定じゃないとは言え、私の父がまさか異世界人だとは。

 正直、色々と腑に落ちるかなと」



 皆、お気の毒そうな顔をしてもらいますが、私はこの事をあえてみんなに話しておきました。


 ある頼みのために


「……もし、この度の先で私の父にあたる誰かがいた場合、

 よろしければ協力して欲しいことが皆さんにありまして」


「……え?」


「出会えないならそれで良いんです。

 元は恐竜探し。私の事情はオマケですから。


 でも予言が正確なら、私は出会ったソイツには私が恨む母の願いを叶えてあげたいんです」


「…………グーで?」


 ふと、ナハトさんがそう骨の拳を握って問いかけます。


「グーで。

 暴れたら押さえつけてくれると助かりますが、そうじゃなくても邪魔はしないでくださいと言うのがお願いです」


 ……まぁ、あくまでももしもですが。


「…………アンタ、強いな。

 俺だったらと思うと……頭ぐっちゃぐちゃでしばらくウダウダすると思うぜ」


「……強くならないと、今もずっとそうなってそうなので」


 カイルさんの言葉はちょっと、私も考えちゃってました。



 今更、親ですか。

 そう、嘘でも切り捨てるぐらいじゃないと、正直ずっと悩んでそうなのも事実なので。



 ……ふと、そんな私の頭に置かれる大きな手が。


「…………」


「…………」


 バートさんが、ただ無言で頭をちょっと乱暴にグリグリ撫でてきました。


「…………痛いんですけど」


「悪いな。俺も人の親なんだよ」


「……まぁ、良いですけど」


 ……少なくとも、今は心配してくれる大人の人がいる。

 なら、多少は強がれます。



「……アンタが、変に日和らなくて良かったわよ。

 こんな場所じゃあ、周辺のモンスターに詳しいやつが集中無くすのは死に直結するし」


 ふと、フランツェスカさんが窓の外の吹雪を見ながらそう呟きます。


「そりゃあ、責任はあります。

 個人の問題で立ち止まるわけにもいかないでしょうし、そもそも来たがったのは私ですから」


「…………良かった」


 ……なんです?妙に優しいと言うか……この感じは?


 例えばですけど、昔准教授してた時に卒業論文を控えた学生が、テーマが決まらなさすぎてギリギリで頭下げてきた時のような、


 分かりづらいですかね?

 何か……言う前振りの、あの空気。



「…………アンタ、確か『トリアスは危険』って言ってたわよね?」





 あ。

 …………予感は当たったみたいで。





「…………一応、実際に行ったアルトリーシャさんの話と、その地の名前と恐らく三畳紀の時代を再現した場所と聞いての判断です」


「……まさか、フランツェスカ殿行く気か!?」


「そうって言ったら?」




 でしょうね。

 いやいやいやいやいや、でしょうね、じゃない。




「あそこはまず、場所によっては呼吸ができないんだぞ!?

 そうでなくても、息苦しいんだ!」


「どういうこと?」


「三畳紀の気候とは、そもそもこの世界の空気の構成とまるで違います。

 窒素76%に酸素が21%アルゴンなどが0.9%と意外と重要な二酸化炭素0.04%が我々が吸える大気だとして、


 三畳紀とは酸素濃度が多く見積もって17%しかなく、場合によっては、各種火山性有毒ガスが充満する死の大地です。


 この地獄の大気はジュラ紀が始まっても続いたほどの地獄。


 ……アルトリーシャさんが生きているのは、彼女が立派な恐竜類、その三畳紀に生まれて生き延びた種族の末裔であるからこその身体の構造のおかげです。


 ……エルフはそんな環境に耐えられる種族なのですか?」




「ハッ!!エルフはアンタらみたいな下等生物よりはずっと耐えられるはずよ!!

 ……来たくなきゃ来なきゃ良いわ」


「来たくないか?聞いてませんでしたか?

 自殺のために案内したくはないと言ってるんです」


「じゃあアンタは理解してないようね異世界クソザル女。


 エルダーエルフがそこにいるのよ!!

 私達長命種の老人がおとぎ話でしか聞いたことがない伝説が!!!


 アンタだってそんなお伽話の存在のクソデカトカゲ共を追ってここまで来たんでしょうが!!!」


 …………その通り過ぎて否定しづらいことを……!!


「……でも、銃はちゃんと持ってきました。

 そして今ここまで死にかけて、この場の皆の協力のお陰でなんとか生きてます。


 ……その上で、頭の中だけはこの島の専門家である私の初見として、ジュラ紀の地域までが限界と思って行動はしています。


 まだ、その時じゃない。

 イラズのトリアスと呼ばれるだけはある場所です。今は、堪えてほしい」


「……チィッ!!」



 冷酷なことを言っている自覚はあります。

 きっと、彼女らエルフ達にとっては重要な存在であるはずの存在、彼女らの祖先的な立ち位置である伝説のエルダーエルフなる存在。


 …………それが、三畳紀を模した地獄の場所にいる……か……



「…………一つだけ言っておくけど、私は多分その地獄の大気でも平気なはずよ」


「何故そう思うんですか?」


「エルダーエルフがいるならその子孫も、ってだけじゃない。

 私ね、分かっちゃったのよ。さっき」



 ふと、フランツェスカさんは、自分の履いている靴を脱いで足を見せます。



「!!

 おい!!!」


「黙ってろババア!!!

 エルフの名を持つものがずっと隠してきたからって、こんなもの自分に自信が持てない老人共の気にする些細な違いじゃない!!」


「え?」



 フランツェスカさんの足の指は、

 4本指でした。



「……本当に、もう数千年黙ってた事を開示しやがったこのチビエルフ……!」


「…………え、それだけ?」


 と、周りの人は案外普通の反応で。


「まぁ、3本指の手に比べたら全然大した事じゃないわよ。

 ただね、エルフって悪いけどアンタらよりずっと『上位の生き物』なの。

 だからってその他の生物のこと嫌いじゃないけど、少なくともダークエルフみたいな甘ちゃん以外はそう思ってるし、だから人間如きに指の本数で負けたくないの。

 だから全員黙ってるし、靴もサンダルも人間の前じゃ意外と脱がないか、脱いでも上手く誤魔化しているわ」



「………………そういう事ですか」


「いや先生納得すんのかよ!」



「ハッ!カイル、あんたコイツのこと忘れた?

 この島の生き物の骨見て妄想して本まで出した、下等生物の割には上出来なおつむの賢者よ?


 そういうこと、っていう意味が違うわ」



 フランツェスカさんのいう通り。

 私が納得したのはそっちじゃない。




 思えば、ヒントがあった。


 昨夜、あの森を抜ける前、紫外線ライトで遊んでた時に恐竜類のアルトリーシャさん以外で反応したこと。


 そして、ハツェゴプテリクスの心臓を喰らって、その天然の強力無比な魔法を手に入れたあの時、

 その力が増した時の会話。


 禁忌の食餐魔法。

 身内喰いはもっとも体に馴染み、強力な魔法を生まれた時から使えるかのように扱えるようになると言う会話。


 身内。


 エルフとハツェゴプテリクスが、身内。


 三畳紀、エルダーエルフ。


 そして、本当のエルフは4本指。後ろ脚が4本指。

 しかも……薬指が1番長い。


 …………仮説としては上出来なものができてしまう証拠です。




「ラゲルペトン類……」



「それがなんなのかは知らないけど、

 私は、あのクソ鳥とは分類は同じなのは分かるわ」






 フランツェスカさんの言うことは、当たらずとも遠からず。


 ラゲルペトン類。

 初期の恐竜様類に近い主竜系類の爬虫類。


 難しく言いましたが彼らは、木の上を飛び回った爬虫類の一種であり、


 その内、彼らの仲間は木の上を翼で滑空する様になり、


 脊椎動物として初めて空を支配した、翼竜と呼ばれる生き物へとなった。




「お察しの通り、ラゲルペトン類は最初の翼竜になった者達の中にいた誰かという立ち位置の古生物です。

 木々の間で過ごす、と書くとエルフっぽいかも。


 そして困ったことに、彼らは三畳紀の生き物です。


 ……困ったなぁ、じゃあもしもエルダーエルフが本当にいるとしたら、この世界で最初の知的生命体とは……」



 ……なんでコレが私の地球で見つからないのか?

 それも考察のしがいがあるとはいえ……


「2億年の歴史が、エルフにはある可能性、か」


「良いじゃない。つまり私達こそこの世界最古の知恵ある血筋よ」


「…………とはいえ、今回は勘弁してほしいんです。

 トリアスには、恐らくまだ地獄の要素がある。

 装備が必要なんです」


「…………私が途中でいなくなっても、気にしないことね」


 気持ちはわかるとはいえ、行く気か。

 ……私だって、装備さえ整えば行きたいけれど……今の装備じゃ行けてここ白亜の大地の隣の「ジュラの世界」あたりまでなのに。


「止めましたからね。

 あといなくなるならせめてその時は一声かけてくださいね」


「考えておくわ」


 フランツェスカさんの態度に、周りもちょっと呆れた顔です。

 でも何故か止めないというか、こういうこと冒険者じゃありがちとか?


「……ま、どの道この雪じゃ足止めだわな。

 今はみんな休んでおこうぜ。


 細かい事は、まだ決めるにもアレな時だろうよ」


 まぁ、バートさんの言葉通りです。

 未来の事は気になりますが、今は足止めされてますし。



「明日、吹雪が止むとババヤガ様がおっしゃっていますので、皆さんも道は不安でしょうから私がこの場所の外にお連れしますね」


「すまんなオリガ殿。

 それは良いが、一応逸れた仲間もいるが、」


「もちろん彼らがいる場所もすでに分かっています」



 なんのことはないと言う顔でいうオリガさん。

 一体ババヤガ氏は、何を見て理解しているんだ……



「ただ……その場所は、少し怖い場所なのでお気をつけください。

 私達の村の一部が砦を作っておりますが、そこもあまり安全とは言えないのです」


「なんでそんなところに砦を?」


「そこは、生命溢れる肥沃な湿地です。

 ここは春も短く、あまり畑も育たないので、主に食料を作るために開拓をしているのですが……」


「ああ、なるほど」


 これはなるほどですわ。


「流石に何がなるほどなのよ」


「ああ……まぁ、ここも三畳紀ほどじゃないとは言え、そう言えば白亜紀頃の地獄の大地かって」


「自己完結した感想じゃなくて状況説明しろって言ってるのよ」


 こりゃ失礼。



「白亜紀頃の大地であるここ、『白亜の大地』かつ、肥沃な湿地。

 恐らくそこは、文字通り生命溢れる草食恐竜達の棲家でしょう。


 鎧竜類、角竜類、その他大型のカモノハシ恐竜達が闊歩する大地」


「そこだけ聞くとまるで楽園ではないのか?」


「楽園ですよ?草食恐竜にとっても、


 それを食う肉食恐竜達にとっても」



 そう、恵まれた大地には沢山の生命がいる。

 肉食、草食問わず、サイズ問わず。



「はい。

 そして、そこはアギト氏族たちの大地でもあります」



 そして、やっぱりな名前が出てきました。


 アギト氏族たち。オリガさんやアルトリーシャさんはじめとした、そして飛竜を含むカイナ氏族達の属する『ティラノサウルス上科』の中でも……この名前をつけるに至った彼らの大地。



「つまり、ティラノサウルスの生息地ですね」



 我々の地図に書くなら、


 『暴君竜の庭』、ってところですかね?






         ***




 ────夕方の森、周辺の植物を被せ偽装した木の近く。

 そこには一台の装甲車があった。


「容体はどうです?」


「なんとか……落ち着きました。

 ありがとうございます」


 やや狭い車内をより狭くする、3m級の小柄な巨人で聖職者でもあるマリアの膝の上、その青肌をより青くし苦しそうながらも意識はある魔族のルーナが答えていた。


「解熱剤が効いてよかったですよ。

 後は……二人が無事水を汲んで帰って来れるかどうかですが」


 その二人の近く、装甲車の銃眼のハッチを開けて外を見る佐藤がそう呟いた。


「……暗黒竜の深淵の魔力の侵食が、ここまで酷くなるとは……不覚です」


「無理しないで。内臓にも影響が出てるんですよルーナさん!」


「……どの道動けませんしね。いっそ寝て待ったほうが、」


 ふと、ガン、と横から音が聞こえる。


「誰か?」


 佐藤は、銃を構えボルトアクションを装填し、車体後方の扉へ向かって尋ねる。


「色男のシーフと頼れるお嬢様の水汲みコンビさ」


「幸い、怖い恐竜はいませんわよ?」


「今開ける。カバー」


 内側でドアのロックを外し、重い扉を開ける。


 そこには、大きなポリタンクを抱えた軽薄そうなフードの男ことジョセフと、背後に愛銃を構え警戒するエリーの姿があった。


 油断なく佐藤も周囲を銃を構え警戒しながらポリタンクごとジェセフを入れ、最後にエリーが入るのを確認し扉を閉める。



「いやぁ、生きた心地しなかったぜ!

 そこらじゅうにいるんだよ、見つかってないとは言えさ!!」


「あら、随分道中静かと思えば怯えてまして?」


「そりゃそうでしょうとも」


 ポリタンクいっぱいの水は、近くの川から汲んだもの。

 川沿いとは生物の宝庫だ。


「追跡は?」


「バッチリされてましたわ。

 恐らく巻けてはないでしょう。気づいて見逃されてる気がします」


「見逃してくれてんのさアレは。

 ただ、俺の経験から言えばただの遊びっていうより、なんか変だな」


 佐藤の質問にエリーとジョセフがそう嫌な見解を述べてくる。


「変?」


「なんつーか、俺らにかまってられないってか、」



 その時、ズン、という衝撃が軽く襲ってくる。

 それは、地震の最初の様な、フワリと足元が浮かぶ様な感覚だった。


 問題は、また間をおかずズン、と少し大きくなったそれがきたことだった。



「なんだ?」


 ズン、とやや大きくなった衝撃と共にポリタンクの中の水に波紋が広がった。


 ドン、パキパキパキパキ……!


 何か、森の枝が裂ける音が聞こえてくる。


 それは車体からみて右側。すぐに銃眼のハッチを開けたエリーと佐藤が外を見る。


 その間も、また大きくなったドン、という音が近づいてくる。


「…………本物の専門家がいないことが悔やまれますわね」


「……なんだ、あれ……?」


 見える光景は恐ろしく、そしてエリーがまず装甲車上のハッチを開けて上半身を乗り出しそれを見る。



 ドン!パキパキ……!!


 西の方角だった。

 夕陽を背に、古代の巨大な木々が横へ押し倒されていく。


 ぬぅ、と何か細長く巨大な影が、夕陽を背に鎌首をもたげる。



「何かは知りませんけど……大きすぎる」



 それは、森を薙ぎ倒しながら、ただ歩いてくる巨大なものだった。


 そしてそれは────恐竜の姿をしていた。



         ***

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