第21話 : ようこそ雪の世界へ!探検隊はこの厳しい世界から帰還できるか!?
「寒ぅぅいッ!?!!」
というわけで、色々あって今寒中水泳中の天才古生物学者の小平名香代ちゃんです。
さっきまで熱帯のジャングルだったじゃんよ、ファンタジー世界の島は怖すぎる!!
「冷ちゃあッ!?!水ちべたっ!?!!」
「冷っ!?!つめ、ちべ、つめめ!?!」
「ファ◯ク!!ファッ◯ンコールド!!!」
「無理無理無理!!!!」
もうなんでも良いから湖から上がらないと死ぬ!!
死……ア!つめたぁい!?!!
「死ぬぅ!!!これ絶対死ぬ!!
あれアルトリーシャさんどこ!?わぶっ!?」
足掴まれて沈んだら、足にしがみつくアルトリーシャさんがいました。
そう言えばカナヅチって……!
「はぁ!はぁ!!木!!まず木!!!」
それでも全員上がった岸辺の、なんでか雪積もる湖の辺りを死ぬ気でダッシュして木のある場所へ。
「うぉぉぉぉ!!!税込3400円で買った火打石付きナイフゥゥゥ!!!頑張れお前マッチとライターじゃ無理なんですよォォォ!!!」
そこからはもう必死でとにかく木を集めて、着火しやすいもの集めて、乾いた地面見つけて、着火メカファイヤー!!!
必死に火を、火を、起こせぇ!!死にたくなかったら火をぉ!!
「ああ、火だ……あったかくて、これで……」
「寝るんじゃあねぇこの若造!!!
服を脱げ!!濡れたやつをロープで周りに吊るせ!!!日に背中を向けろ!!濡れたやつ全部を風除けにして乾かせ!!!」
気絶しそうになった仲間をなんとか殴って起こして、やっと、やっと火を大きくできました。
「…………ハツェゴプテリクス相手にするより死を感じた一瞬でした」
数分後、まだ寒いとは言え日のそばでなんとか衣服を乾かして身体を温めている私達がいました。
ついでに私は持ってきた鍋で水を温めていました。
「この島、さっきまで茹だるような暑さだったよな、フェックショォイッ!!」
「くしゃみうっさ、へクチュン!」
「ったく、テキサスからアラスカに来た気分ってやつだわな……ところで、名香代何作ってんだ?」
バートさんの質問に答える代わりに、みんなの万能調味料マキシ◯ムを取り出す私です。
「マキシ◯ムスープです」
マキシ◯ムは美味しすぎるので、こうやってお湯に入れるだけでスープになります。
これで私も、フィールドワークで何日か口とお腹の寂しい夜を過ごしてました。
「ヒュー!こんなところで三つ星料理にありつけるとは。
俺にもくれないか?20ドルは帰ったら渡すからよ」
「お湯は自分で沸かしてくださいよね」
「私も沸かしたからちょうだい」
「俺も鍋出すか……」
「貸そうか、カイル?後払い」
「ちぇ……!」
「早く沸かさないとな……」
「骨から冷えている身としてもな」
数分後、皆マキシ◯ムスープで身体を芯から温めていました。
塩、適切なスパイス、出汁にもなる調味料たちで構成された、具はないけどとにかく温かいスープが、この突然の極寒の地には何よりの美食でした。
「あったけぇ……しかもうめぇ……!」
「マキシ◯ムですし。これかければ肉も魚も全部良い味になりますよ」
「いや本当に美味しい……特にこんな寒さの中では……!!」
「……寒さ……寒さかぁ……」
キュウキュウ
ふと、誰かは知らない鳴き声が脇から聞こえてきました。
横を見れば、羽毛の生えた小さな恐竜がいつのまにか火の近くへやって来ていました。
まるで鳥から翼を抜いて、小さな前脚をつけたような姿の……あ、これは……!
「おぉ……なんだぁ、おチビちゃん?
ははは、おぉ、ずいぶん可愛いやつだ」
隣位にいたバートさんが手を伸ばすと、警戒して一歩下がって可愛い威嚇の鳴き声を発します。
「この可愛いのは?」
「レエレナサウラ……!
レアな子ですよ……オーストラリアで見つかった、数少ない寒冷地適応を果たした恐竜です……!」
警戒しつつも、火の近くから離れない。
おそらく、いくら寒冷地へ適応したと言えど、寒いのは寒いんでしょうね。
「こんな寒い場所にトカゲがいるの?
ここラミアとかリザードマンなら秒で死んでるか、冬眠してるわよ?」
「恐竜は基本的に恒温動物です。
この羽毛の力で、そして活発に移動するための身体の構造が熱を生みます。
そうでなくとも、意外と寒冷地に住んでいたとされる恐竜は多いんですよね……」
……そうですね。
まず、私は愛銃であるティラノスレイヤーの整備を始めます。
重心に歪みがないか、水が入ってないか、一度解体して。
「無言で武器の整備始めるってことは、ここら辺にはなんかヤバいのがいるって解釈でいいのかよ先生?」
「カイルさんの推測は当たってます。
……最悪、『羽毛ティラノ』が見れますよ」
「羽毛ティラノ……!?」
と、早速と聞きつけたバートさんも銃の整備を始めます。
「ティラノ、とはあのティラノサウルスのことか先生?」
「正確にはちょっと違います。
ティラノサウルス科が属する『ティラノサウルス上科』の内、最も祖先的なティラノサウルスの形質を持つ『プロケラトサウルス科』の一体です。
名前をユウティラヌス。体長は8m前後。
寒冷地適応の結果、化石にはっきりとした羽毛の証拠があった大型肉食恐竜です」
銃の洗浄を終えて、冷たい銃身に苦戦しながら壊れないようにしっかりと組み立てていきます。
「……そのティラノサウルスの名前は知らなかったな。
例の羽毛のティラノは俺もネットとか胡散臭い図鑑では見ているが」
バートさんも真剣な顔で、ライフルの清掃を手際よく追えていきます。
「ユウティラヌスが見つかったのは中国ですからね。
化石は、まぁおそらく盗掘された物なのではっきりとはしていませんが遼寧省辺りです。
そこの地層は、恐竜時代のパブリックイメージに反して、平均気温が日本の東北地方みたいに冬が厳しいことで有名な場所と同じでした」
さて、最後はスコープの調整……試し撃ちした方が良いかな?
ちょっと湖の方角見てみよう、っと……
「……てっきり、四季によって換毛期があるタイプかなと思えば、本当にクソ寒い場所住みだとは。
冬眠してほしかったなぁ?」
「なんだ。まるで見たみたいな発言は?」
………………
無言でバートさんの肩を叩いて、そっと湖の方角を指さします。
ライフルの銃口を慎重に干して乾かしている上着の間から覗かせて、覗き穴からスコープを見てもらいます。
湖の対岸。横たわるツノがないトリケラトプスの様な恐竜の死骸。
あれも寒冷地にいる恐竜、パキリノサウルス。
そして、その血まみれの腹に頭を突っ込む、羽毛を纏った獣脚類の姿が二つ。
肉を引きちぎって顔をあげ、咀嚼するその顔は、まさにティラノサウルスそっくり。
正確な違いを知っている私以外は勘違いするかの個体こそ、ユウティラヌス。
「……見ながら解説してりゃあそうもなるな」
「うわぁ……デカいわね……木と一緒だとサイズがバグるわ」
気がつけば、覗き穴に他の皆さんも見ている状態です。
「……あの距離だと弓はキツいかな」
ふと、滅多に話さないダークエルフの人ことダコタさんがそう呟きます。
「影の薄いダークエルフのくせに?
弓の名手が弱気言うわね」
「クソガキ。魔法が使えるからって偉そうに言うな」
「……ダコタさん御歳幾つです?」
滅多に話さないので、ついでに聞いてみたら指を一本ずつ折って、グーになったら一本指を立ててくるダコタさんでした。
「てかダコタ婆さんよ、下手に手を出すのはまずいんじゃないのか?」
「カイルみたいな赤ちゃんには分かんないだろうけど、多分アイツら私たちに気づいてるのが問題」
「……それ、もし勘なら当たってるかも」
多分、弓なんて使うぐらいですし、狩猟の心得があるが故に確信をついてくるダコタさんです。
「……学者、説明」
「はいはいフランツェスカお姉さん。
ティラノサウルス科は、感覚器官が鋭い事は化石から推測した脳の形状とその比較から判明しています。
白亜の村のティラノサウルス達はそれ以上に知性的な行動をしていましたが、そうでなくとも脳の構造からは狩りと言う行動に必要な知性を兼ね備え、本能的に最適解を見つける能力と、それを裏付けるだけの嗅覚機能を強く処理する能力があったとされています」
「つまり、犬並みに鼻がいいって事?」
「……私は学者じゃないけど、アレは犬程度の賢さじゃないね。見て」
ふと、ダコタさんが言う中で、二体のパキリノサウルスの死骸を喰うユウティラヌスの個体とは別に、新たに4体。
より大型の個体が2体と、より小型の個体が2体。
小型というより、顔立ちが幼い……子供!
「最初の2体は、若い群れの個体だね。
多分、今日が狩りの単独デビュー」
「なるほど……大型のは監督兼いざって時の」
「そして子守り。多分家族だね」
「……みたいだわな。子供に餌を与えてる」
見れば、小さな個体二体をうまく招いて、パキリノサウルスの死骸を食べさせている様子が見て取れます。
それどころか、若い個体達が大きな個体へ頭を擦り寄せ、お互いに鼻先を付けたり大型の個体が顔を舐めたりというスキンシップを……
「……なんて事でしょ。
ユウティラヌスは、明らかに大人の個体と若い個体が集まって出土していたとはいえ……!!
あれ、明らかに社会性がある。
子供を放っておかず、親子で狩りを教えて、それどころか上手くできたら褒めるまでするなんて……!!」
くそ!!映像資料に残したいのに!!
カメラが……今からでも遅くないか。カメラ取りだそーっと。
「でも見るべきはそっちじゃないかも」
ふと、カメラを取り出して録画開始したところ……そのカメラ越しに、隣にいるダコタさんの言葉の意味を理解します。
……もう片方の親と、若い個体の一体がこちらの方を見ている。
「……気づいているってわけか」
「マジか!?
……目測だが距離にして1kmもない、そりゃあ分かるだろうが……」
「ただ分かってるだけなら、とっくに偵察が来ているはず。
……私達が何かを理解している上で、軽く警戒しているって程度で注目はしている?
……人間が、あるいはそう言った生き物が分かるとでも言うんでしょうか?」
例えば、未知の存在を本気で警戒している大型肉食獣はどういう行動をするか?
答えは簡単で、逃げてそもそも近づかないか、逆に警戒のために近づき威嚇を行うかです。
もしも威嚇もなく自然と近づいてくるとすれば、それは我々を餌として見ている証拠です。
人間が他の生物に対して無意識に餌をやってはいけない理由の一つであり、つまり突撃お前が俺のご飯と思う個体だからやたらと好意的に近づくのです。
でも彼らは、ユウティラヌスの反応は違います。
まず我々には気づいている。しかし、生活リズムを崩さず、こちらが仕掛けなければ滅多に仕掛けない存在と知っている様な?
「……嫌な人馴れした態度じゃねぇの、アレ?」
「人間を知っているオオカミやレッドキャップと同じ態度だね」
「……服を乾かし終えたら、移動しないと。
この場所は、ただ気温が低いだけの変な場所じゃない」
「…………なら、今のうちに水も補給しておかないとな。
さっきまで熱い場所で皆飲みすぎているが、幸い水辺だ。
今のうちに煮沸して水筒へ入れよう」
ふと、一番乾くのが早かったアルトリーシャさんが急いで鎧を着込んで、ついでに荷物の中のマントをとりあえずの防寒着として纏います。
「少し鍋に水を取ってくる」
「ここら辺はユウティラヌスとか言うののナワバリだぜ、伯爵殿。
後ろはカバーするから、早めにな」
「すまん」
アルトリーシャさんは、剣を持たずに鍋二つを持って近くの湖へ小走りで行きます。
「……ところでナカヨ先生。一応聞いておくが、こういう寒い場所で他に警戒する恐竜やら何かはいるか?」
ふと、静かにマキシ◯ムスープを飲んでいたナハトさんが何気に私へそう尋ねて来ます。
「そうですね……咄嗟に思い浮かぶのは、ナヌークサウルスという立派なティラノサウルス科の羽毛付き恐竜ですかね。
アレもユウティラヌスほどではないですが寒い環境の場所で過ごして…………」
私は、バカだ。
低温環境。そして水辺。
肝腎要の『古生物』を頭から忘れていた。
「……まずい。
アルトリーシャさん!!!!
湖の辺りに気をつけて!!!!!
オオサンショウウオみたいなのが見えたらすぐに逃げて!!!!!」
咄嗟に、私は大声で叫んで、今鍋に湖の水を入れていたアルトリーシャの方角へこのティラノスレイヤーを向けました。
「おいどうした!?
何が!?!」
隣でバートさんが叫んでいますが、湖の方から視線も銃口も逸らしたくない!!
「クーラスクス!!
白亜紀にいた大型両生類!!!
寒冷な環境で、ワニみたいなニッチを獲得している、6mもあるバカでかいオオサンショウウオみたいなのがいるんですよ!!!」
「何!?」
「ん?どうしたんだ先生?」
湖の辺りで、私の声に聞こえないのか鍋を持ってこちらを向くアルトリーシャさん。
その背後の水面に、突然ぺったんこに潰れた大きな顔が浮かび上がりました。
「危ないッ!!」
咄嗟に引き金を引こうとした、そのタイミングで。
ピュン、と何か光弾が飛んできて、口を開けたクーラスクスが凍りつきました。
「!?」
「今のは、魔法!?」
「誰が!?」
多分、フランツェスカさんに続いてカイルさんが言ったと思われる声でしたが、そっちを見ていない私にもすぐ答えが、近くの氷の上に置いたスープに現れました。
ズン……ズン、ズン
そこそこ巨大な足音。背後から聞こえるパキパキと小枝を踏み潰す音。
咄嗟に振り向くとそこには、ユウティラヌスが……いえ、何かちょっと違う?
いや……全然違う!!
鼻骨上の辺り、前脚はそもそも2本指!!
「まさかナヌークサウルス……!?
8m説は正しかった……!?」
いえ、それよりも、その見た目。
口には、馬につけるハミのようなものがあって、そこから手綱も伸びていて……!
背中には鞍が。
……つまり、誰かが乗っている……!
いえ、最初からその人物は見えていたんです。
何か、民族衣装みたいなものに身を包んで、何度も見たことのあるアズダルコ科の頭蓋骨を仮面のようにかぶっている青いフードの人が!
「うわぁ、だ、誰だよ!?!」
「というか何に乗っているのよ!?!」
「皆下がれ!!誰か剣を!!」
狼狽えている間に急いで戻ってきたアルトリーシャさんが近づいた時、初めてその恐竜の上の人物が片手を制するようにこちらへ向けて来ました。
その手が、あまりにも驚きのものでした。
だって、3本指だったから。
「争う気はありませんよ、外から来た方々」
そして、こちらにも分かる言葉で。
「しゃべった……!?」
「しゃべっちゃ悪いかよ」
そして、その下のナヌークサウルスらしき恐竜までしゃべったんですよ。
「そっちもしゃべった!?」
「それこそしゃべっちゃ悪いかよ」
「コラ!もう……
ですが、あなた方も同じ魔法をお使いでしょう?
種族も、おそらく出身も違うと服を見れば分かります。
皆が皆、同じ言葉は喋らないでしょうということも理解しています」
しゃがんだナヌークサウルスから慣れた様子で降りる翼竜頭蓋骨仮面の人。
そして、仮面を外すとそこには可愛い深い青の爬虫類じみた瞳の美人さんが。
アルトリーシャさん達と同じ、角が生えた。
「飛竜人……!!」
「私たちは、あなたを含めた私たちを『ズメイ族』と呼んでいますよ?
ふむ……もう、我々が別れてからあまりに長い時が立ってしまっていますから呼び名も言葉も変わってしまうのも当然ですね」
よく見れば、やはりというかアルトリーシャさんと同じく逆関節型の獣脚の脚で一歩前に進んでくる彼女。
「申し遅れましたが、私の名はオリガ。
この地より外と違って、ここは寒すぎるでしょう?
私達の村へ歓迎しますよ、外から来た姉妹と他の方々」
……これは、とんでもない事になったかも……!
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