第18話 : 異形の哺乳類の襲撃!狡猾な謎の恐竜との死闘を繰り広げる探検隊の前に現れたのは……!?
古生物学者である私、小平名香代ちゃんから見ても、その生物はかなり特異な存在でした。
まず、前提として話すべきなのは、我々哺乳類と恐竜類の歴史からになります。
かつて地球の2億5200万年前、ペルム紀末の大絶滅事象。
その際に、地球の多くを支配していた『単弓類』と呼ばれる生物たちは多くが死に絶え、
今は爬虫類と呼ばれるグループたる『双弓類』達が支配する時代が始まりました。
三畳紀。約2億5100万年前から2億年前までの時代、
一時は地球の酸素濃度は10%まで下がり、そして気候が不安定だったとも言われる超大陸パンゲアが存在した時代、
双弓類よりあらゆる生き物が生まれた時代に、今のトカゲの祖先達や魚竜、首長竜達と分かれた『主竜系類』達の天下が始まっていました。
そのメインとなったのは、ワニの祖先をを含むグループである『クロロタルシ類』。
その時の恐竜とは、三畳紀の世においてはまだまだ新参で小さく弱い存在で、
そして、我々の祖先たる単弓類の一部から生まれた哺乳類は、それを上回るほど小さくか弱い存在でした。
2億年前のジュラ紀が始まり、その間に起こった小さな大絶滅で空いた生態系を恐竜が満たすことで、この後6500万年前まで続く恐竜の天下が始まります。
その間、哺乳類は長く長く、夜の間を縫って生きる小さくてか弱い存在であり、
小さい恐竜達にとっての餌。生態系ニッチで言えば最底辺。
かつては、それが恐竜絶滅の時代まで続いていたと考えられていました。
でも違った。
哺乳類は餌ではなかった。
全長60cmの、当時の哺乳類としても破格のサイズかつ、大型恐竜を抜いてもなかなかのサイズだったその個体の腹には、
確かに子供の恐竜が噛み砕かれ、真っ二つになり丸呑みにされた痕跡がハッキリありました。
それどころか、後年はその親の、体格で勝る1m大の個体を喰らうべく襲う格闘化石が見つかった。
学名の意味は『爬虫類の様な哺乳類』
明確に恐竜を、それも体格で勝る相手を襲う恐ろしい特性があった怪物。
「レペノマムスは人間サイズでも襲う!!
レペノマムスだけは何がなんでも近づけないで!!!」
レペノマムスの怪物性は、異世界の森でも関係なく発揮されていました。
動きは遅いけどパワーが高く、哺乳類らしく木の影や木の上から奇襲をかけ、こうやって急所や色んなところに噛みついて!!
「痛ったいなぁ、もう!!」
指ぐらいなら噛みちぎられる!
貴重な生きた個体だろうと、全力でそこら辺の木に頭ごとぶつけさせて殺さないとこっちが危ない!!
だけど、頭から血を流しても噛みついた腕から離れない!?
「なんていう、しつこさ!!」
南無三!ズガンと魔改造ライノで頭を撃ち抜くしかない!!
その小さな頭を吹き飛ばすことでようやくずんぐりむっくりな筋力の塊な身体から力が抜けてくれます。
「くそ!!この悪魔め!!」
「躊躇うんじゃねぇ!!!頭をつぶせ!!!
じゃないとコイツに食われるぞ!!
最悪腹から喰い破って口からこんにちはしてきやがる!!!」
「詳しいな若いの!!」
「それでパーティー全滅してんだよ俺以外!!」
カイルさんの慟哭と、魔法を纏った剣の煌めきが世闇を切り裂きます。
やっぱ野生生物襲撃時に暗視装置はキツい!
松明の方がやっぱ良い!!!
「にしたってコイツら!!
大きい私達に全然ビビってない!!」
なんなら火にすらビビってない!!
レペノマムス……確かに異形の哺乳類とは言え、ここまでか!!
「ちょっと!!こっちは拘束魔法で手いっぱいなのよ!?
ただでさえコイツ自身には直接魔法が効かないんだから!!」
「周囲を固定するタイプの拘束魔法は……集中が……!」
まずいと言うか混乱している間にいつの間にか魔法使いのお二人にレペノマムス達が集中してる!!
投げてるのか動きが遅いやつを襲っているのか!!
「クァーッ!!キュルルルル!!」
そして人質ラプトルモドキ君は笑ってやがる……!
……!
「しまった、二人とも!!
上です!!」
忘れるところだった。
コイツらは、木登りが得意なんです!!
瞬間、上から強襲してきた2体が、魔法使いの二人を素早く地面に押し付ける。
「ぐっ!?」
「しま!」
「クルルァァアッ!!!」
そして、二人の首筋に爪を回して叫ぶ。
伝わったよ、『動くな』って。そして人質がいるぞって。
「……コイツら魔法が効かないのよ。
防御魔法は貫通するでしょうね」
「人質にかけている空間ごとの拘束魔法を解けば、なんとかなりますが」
「…………じゃあ、二人とも。
ちょっとごめんなさいね!」
バン、と私は魔改造ライノをぶっ放します。
人質のラプトルモドキ君の鼻先スレスレを上手く狙って。
「シャー!!」
「どっちかを殺しても人質を殺す!!」
当然、二人の首筋に赤い血液が流れる程度に爪が食い込みますが、再び銃をラプトルモドキの方へ構えて叫びます。
「クルルルルルルル……クァッ!クァッ!!」
「何言ってるかは分かりませんけど言いたいことは分かるはず。
指のサインで説明してあげましょうか?
交換だ」
瞬間、周りの人達が察して剣を人質のラプトルモドキ君の首元に突きつける。
目の前の賢いラプトルモドキ君へ合わせて、3本の指を出します。
人差し指で、人質のラプトルモドキ君を指して、スッと人質になった魔法使い二人組へ指を移動させます。
そして、指の二つをクルリと回す仕草。
これなら、言葉分からなくても意味は分かりますよね?
「グルルルルルル……ッ!!!」
「交換だ!!!
襲うならその後にしてもらいましょうか?
主導権を奪ったつもりだって言うんですか?
まだこっちに人質はいるんですよ。
分かりますかねラプトルモドキ君!?」
まさに忌々しい顔を見せ、お互い引き金と鋭い爪に力が入る。
クォーッ!!クォーッ!!
ふと、夜の闇に様子が違うラプトルモドキの声が響く。
驚いた顔で一斉にある方向を見たラプトル達の視線の先、別の個体が草むらから何か重そうなものを引っ張ってやてくる。
「クォーッ!!クォォォーッ!!」
「クォッ!?クォッ、クォッ!?」
持ってきたのは、ラプトルの死骸ですか?
私が殺した個体……え?
「あの個体……お腹が……!」
火に照らして、初めて見た姿。
私が殺した個体のお腹が、変……というか、
明らかに、大きく膨らんでいました。
食べ過ぎ?寄生虫?……まさか……!!
死んだはずの個体のお腹が、わずかに動いている。
気づいた2個体が、フランツェスカさんとルーナさんを離した。
そして、死体の方へ向かう。
「クォーッ!!」
そして、慟哭する様に叫ぶ人質のラプトル。
「何が!?」
「離してあげてください」
「え……?」
「そのラプトルを離したほうがいいです。
もしかしたら……もっと恨まれるかもしれない」
フランツェスカさんとルーナさんの、信じられないと言った目を見て頼みます。
……ふっと、魔法が消えて、すっ飛ぶ様に脇目も降らず、あの死体の方へ。
まず、彼らは爪で死体の腹を裂き出しました。
それは、共食いというよりはまるで……
緊急、帝王切開。
そして、やはりというか、何か血まみれの何かを、あの人質だったラプトルモドキ君の手には……
キュルルァ……クァ〜……!!
やはり、小さな命が、
彼らに似た姿の何かが生まれ出でていました……
「私が殺したのは……母親だったんですね……」
…………子宮で育てているという事実も驚きはなく……私の胸には何か、納得と虚無感が。
私は……そうか、家族を殺した仇だった。
つがいを殺した、愛すべき妻を殺した、
────自分達が助かるために、身重の身体を亡き者にした『悪党』、だった訳ですか。
「………………」
手を、合わせていました。
そうする理由がある……というものではなく。
いや言い方が変ですね。
理由なんて分かり切ってるからこそ、ただそうしてしまったんです。
当然、周りは敵だらけで、そんなことすべきでは無い。
いつ報復されるか分からない。逃げるべきだ。
けど、私は手を合わせていました。
仏教なんてそんなに詳しく無いのに、自然と「どうか次の生は良い物であるように」と、「そしてその霊魂が安らかに眠ります様に」と、
何より「命を蔑ろにして、申し訳ないことした」と。
ふと、ラプトルモドキ君が、こちらを静かに見ていました。
厳しい目で、でも静かで……憎しみも怒りもあるはずなのに、とても静かに。
キュウ、キュゥ〜
そして、その発達した前脚で抱えた子が鳴いたときに、彼らは静かに森の奥へと帰って行きました。
こちらをずっと見ながらも、全ての個体がいなくなってしまったんです。
「………………変だよな。アイツらは俺たちの神なんか信じてないのにさ」
ふと、背後でカイルさんが、たしかこの世界の宗教の祈りのポーズをとったまま呟きました。
周りも、よく見ればそれぞれの方法で……死者への弔いらしき姿勢を見せていました。
「でもやんなきゃいけない気がして……
そして、やったら通じた。
死者への弔いか……何故知恵を得ると、あらゆる生き物はそうしてしまうのか」
「考えるのは、後にしましょう」
ふと、あの敵の少年っぽい子がそう言葉をかけてきました。
「ここは、今は誰も戦場にすべきじゃ無い。
彼らとの戦いが『休戦』している間に、我々はどこか他所へ行って、続きをするべきです」
「…………」
そうです。
今は……この森を抜けるべきです。
実利もあるとはいえそれ以上に……
「……きっと、彼らは彼らの弔いの儀式がある。
その間には、何人も彼らの森に入ってはいけない」
無粋な考察です。
……ただ、そう納得してしまえば、歩けます。
「行きましょう。
……もうすぐ朝です」
切り替えましょう、ここからは時間との勝負です。
朝までに、いえ朝が来る前に『神隠し海岸』を抜けて、誰も知らない『未踏査領域』の森らしき場所へ飛び込まないといけない。
***
その後、なんの障害もなくたどり着いた海岸には、
「遅かったでは無いか」
最悪の光景が広がっていました。
「デーギラ!!」
「デーギラ様……速かったですね」
「貴様らが遅いのだ。
特にアリーヤ君。一応君はこの我の部下でありながら……ん?数が少ないな。やられたのか?」
見れば、近くにバートさん達が跪いてお手上げ状態。
装甲車は無事ですが、多分別の部下さん達に取り押さえられてます。
「追いついたぞ、さてどんな絶望の顔を見せてくれるのだ?」
暗黒竜デーギラの顔が私に近づいて、そう問いかけてきます。
そりゃあ、もう絶望しかない。
「…………最早絶望しか無いですよ」
「だろうな。この我をコケにした報いだ」
「あなたはどうでも良いんですよ」
そうです、敵が来た程度なんてあまりに些細な問題です。
最早、海岸は綺麗な砂浜と赤く反射する太陽に照らされた海とのコントラスト。
ここは血の海、三途の川。
あの世同然、『神隠し海岸』
「……何?」
「朝日が……登ってしまった……!
もうほぼ終わりだ……!!」
神隠し海岸は、昼間に出歩いてはならない。
ここには、
ハツェゴプテリクスが、いる
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