第17話 : 恐怖!この恐竜はなんだ!?そして、探検隊を襲うこの狡猾な罠は恐竜がする所業なのか!?
謎のラプトルの様な恐竜の高度な群れによる行動から来る包囲網を、前代未聞の一匹捕獲して人質として取る事で突破した小平名香代ちゃんと異世界のみなさま+元自衛隊らしい外務省の人の御一行でした。
「アンタ……気が狂ってるにしたってあまりにも気が狂ってるわよ。
とても普通の考えでやることでは無いわ。
有効だったからと言って、普通包囲する山賊ゴブリンとかオークを捕まえて人質にして山を悠々下山しようって考える?
アンタ、すでに気が狂ってるわよ。
人間性、って言葉は異世界にもあるはずよね?」
本気のドン引きをする、エルフの魔法使いのフランツェスカさんでした。
今、彼女と同じく魔法使いで青肌魔族のルーナさんと、魔法剣士のカイルさんのなんか拘束できる魔法でラプトルを運んでもらっています。
「私もそう思いました。
でも思ったんです。
今は要らないですよね、人間性なんて、正気なんて。
それで生き残れる可能性があるっていうなら」
考えてもみれば、上下左右いまだにあのラプトル達が襲ってくる状況で、まだ皆を見捨てない方法を選んだだけ、私はマトモだと思いたいです。
「…………ただですね、私も若いですしまだまだ元の地球のほんの一部しか見たことはありませんけれど、それでも思うんです。
ああ、人間が人間として正しく振る舞えるのは、
所詮人間が作った場所の中だけ。
自然においては、そもそも流れるルールが違う。
言うなれば生き残る方法が違うんですよ。
そうした時、人は二つの道を選ばざるを得ない、って」
「……その二つの道って?」
「ルールを理解して適応する、郷に入っては郷に従えを完璧にこなすか、
傲慢だろうと人間様のルールってやつをそこに叩き込んでやって貫くか。
コレしか無いです」
「…………異世界人として、比較的常識をわきまえている自分としては否定したいですが、
……元自衛官として、何も否定できません」
何かあったんですか、自衛官だった頃は佐藤さん?
「さて……」
私は、ふとずっと黙って睨んでいる謎のラプトル君……いや、多分違うこの異常な恐竜君のその口にナイフを突きつけます。
「何を?」
「口を開けてくださーい?
ほらほら、ちょっとで良いんですよ……そう!」
しゃー、と言った瞬間に口の中にナイフの刃を入れます。
「口閉じたら痛いですよ、ほら……とりあえずこの鏡とライトを開けたまま入れさせて〜?
……おぉ、ほほほほ……暴れてますけど、ああ……虫歯もこの可愛いD字歯もクッキリ……はい、ありがとうです」
最後、手だけでも道連れにしようとガチンと噛んできます。
元気だこと……撃たれた場所を治療してあげただけはある。
「……D字歯ってどこかで聞いたことがあるな」
「そりゃあ、アルトリーシャさんと同じく『ティラノサウルス上科』の特徴ですもん」
え、と流石に驚くアルトリーシャさん。
「ティラノサウルス?コイツがですか?」
「驚くことはないですよ佐藤さん。
ティラノサウルス上科並びにドロマエオサウルス科なだの原鳥類の仲間は皆コエルロサウルス類ですもの。
ニワトリとティラノサウルスが近いって話はあながち間違いじゃありません。
なにより、生物の形を決めるのは『環境』と『生活様式』です。
彼らは、我々が思い描くラプトルの様な生活をするために、ラプトルと同じ姿を手に入れた。
…………ただ、ティラノサウルス上科は幅広い系統です。
この発達した腕は、まるで『メガラプトル』の様ですが……
こちらは3本とも太く発達した爪と、異常に稼動力……つまり掴む力に特化した腕を持ってます。
これじゃあ……もし近いティラノサウルス上科の生き物をあげるとしたら……いやまさか……?」
環境が似てれば、別系統でも似た姿にはなるとはいえ、
コレって、飛竜人の特徴に似てるなぁ。
物を掴むことができ、木登りが得意な腕。
そして何よりこの知性。凶暴で粗野かもしれないけれど、我々を見る視線にある知性は……
「…………君の骨格標本が、正直欲しいなぁ」
「やっぱコイツ思っている以上に気が狂ってるわよ……!」
「目がマジじゃねーか」
「ちなみに何故彼女は骨を?」
「彼女は骨から生物の正体や食べてる物まで調べ上げる学者なのです」
後ろもひどい言われようだなぁ……
「にしても、人質効果は大きいですね。
コイツがそんなに重要って事ですかね?」
「いえ、佐藤さんそうじゃないですよ。
……例えこの個体は彼らにとっては嫌われる様な行動はしない、とても社交的で逆の立場でも追いかけてくるだけの善性がある。
そう彼らは知性と共に理性を、何より善性を持ってるんです。
だから、私達を許さない」
善性、と言う言葉に、皆さんキョトンとする顔を見せます。
「善人が、他者を襲うと?」
そして、アルトリーシャさんがまずそう素朴な質問を投げかけてきました。
……気持ちは、分かります。
「例えば飢えた仲間に為にその辺を歩いていたイノシシを殺すのは悪ですか?
そのイノシシが、我々の理解できない言語で会話し、高度な知性と社会性を持っていたとして、我々は飢えているんですよ」
「それは……」
「もしコレが『人間だけが思うこと』だなんて思うなら、それこそ何様なんでしょうかね?
我々は文明を持つと言う進化をしただけの動物にすぎません。
我々の善が他の生物の悪の様に、彼らの善は我々の悪だっただけです。
私は、私の事情でこちらの彼を人質に取った。
それは相手にとっては悪党による極悪な所業なのは、仕方ないんですよ。
まぁ、平和に狩りをしていただけの彼らの一人を傷つけとっ捕まえて脅して道を安全に進む。
そんな事してるのが、私は仕方ない事ではあっても正義であるとはとても言いませんけどね?」
「…………」
皆さん、どこかバツが悪そうな顔になります。
「あら?もしかして、何か正義になる大義名分でも必要でした?」
「…………そうだな。いや、そりゃそうなんだけどさ先生よぉ……
やっぱ、気持ちのいい物じゃねぇんだよ。
俺達……たしかに生きる為に、モンスターを殺す事だってあるけど……………………」
ふと、冒険者の皆様の方が、非常に奥歯に物が詰まった顔で、横のラプトル君を見ています。
「…………俺は、食餐魔法の為に、何種類か島の外のモンスターを殺してる。
肉も多少は食ったが、食餐に必要なのは心臓だけだ。
場合によっちゃ、人質取るより酷いことしたさ…………
それでも俺たちには必要なことだったんだよ……それが……正義じゃない、っての分かってる上でさ……
なぁ、アンタ……それでも平然としてられるか?
俺たちがやってること、身勝手な事でしかないんじゃないかって、言われて……
平然と『身勝手にやった事だ』って開き直れるか?」
「人類なんて、そんなもんですよ。
いや、生き物は基本そうですよ」
「けど……」
「……案外、育ちがいいんですねこの世界の人って」
は、とカイルさんがこっちを見てきます。
「私の世界の動物への虐待の歴史を見たら末端の人間がそこまで考えて彼らに同情するなんて、育ちが良すぎて我々の事を嫌いになりますよ。
この世界の宗教か何かは知りませんが、道徳的規範が相当に良いか、良くなったと言えるぐらいですよ」
「…………」
「…………まぁ、嫌いなままでしょうけど、今回はこちらの推定ラプトルっぽいティラノサウルス上科の子は生かして帰すだけ有情な方でしょうから。
今は気にしない方がいいですよ。
何より、実行犯も計画犯も私なので。
最悪罪は私になすりつけてください」
「いやそれこそ気もするだろ?」
「安心してください。
無罪は意地でも勝ち取るんで」
フッ、出るとこ出ようとも、こっちはどんと来いなんで。
「……やっぱアンタすっげぇわ。
静かに狂ってるわ」
「ははは、まぁ狂ってなきゃ古生物学者を20歳になる前になりませんって。
この学問、常識が常に変わる物ですしね」
一度見せてみたいですね、イグアノドンの姿の変化とか。
「……あの、」
所でふと、私達を追ってきた敵のはずの少年が私の服の裾を掴んできました。
「ん?なんです?」
「……あなたがこのモンスター……恐竜の専門家というなら尋ねたいことがあります」
……ふむ?
「どんなことでしょう?
答えられる範囲なら」
「…………そこのヤツ、さっきから喉を鳴らしているのに静かなんです」
─────え?
「その行動、問題がないことでs」
「全員止まって!!!」
大発見だぞ、少年!!
「どうしたんですか!?」
「それを確かめる為に、秘密道具を出します!!」
バッグを開いて……ちょっと奥だったかな……あった!!
それは、マイクが付いた機械こと、『音波測定器』でした。ちょっとお高いヤツ。
スイッチオン…………
「…………やりやがったなコイツ……!」
47kHzの音波が観測されてる……しかもちょっとお高いヤツのおかげで、それが断続的かつ複雑な……!
「何がどうなってるんです?」
「……聴きますけど、エルフ、魔族、吸血鬼じゃなくって夜血の眷属でしたっけ?
耳は良い方で?」
「は?エルフが耳悪いわけ無いわよ!」
「魔族はそうでも」
「ボクたちは目もいいですし結構……それが?」
「じゃあ、全員『高周波』は聴こえないタイプって事ですか。
やられた……!」
「どうしたんだ先生?」
改めて、このラプトルモドキの信じられない能力を知りました。
「超音波という概念があります。
私達が普段は会話に使う声の周波数……要するに空気を振動させる回数によって音がだんだん高くなり、ある一定の高さ以降になるとどんな大爆音でも聞こえなくなるんです」
「……まさか!?」
「そのまさかですよ!!
迂闊でした、爬虫類は哺乳類と比べて音に対しては鈍感だという常識で動いていた!!
常識が揺らぐなんてあり得る事なのに!!
このラプトルモドキ君は、超音波が出せる上に聞き取れる!!」
その時、ラプトルがこちらを見てきました。
そして、今がまだ太陽が出ていないから、そして直接このラプトルに触れていた私ですら気づかなかった信じられない特徴をコイツは見せつけてきました。
最初は、エリマキ、に見えました。
あの悪名も功罪も大きな古典作品『ジュラシック・パーク』のディロフォサウルスの様な歪んだ印象のような。
でもすぐにそれが、襟巻きではないと気づきました。
アレは、『耳』だ。
正確には、『耳介』や『耳殻』という、耳を思い浮かべる形のアレ。
コイツは、何故かそれを開閉式にしているのだと気づきました。
必要な時に音を聞く為に。
超音波を聴く為に。
「何かする気です!!
ずっと作戦を練るために秘密の会話をしていた!!
今終わって返事が来たんだ!!!
何かを仕掛けてくる!!!」
コンパス、進んでいる方角はあってる!
距離、歩けば日の出前までにはまだ辿り着ける!
このタイミングで……一体何を仕掛ける!?
ライトを消して、松明も消して暗視ゴーグル越しに周囲を見る中……
ふと、悍ましい肉の塊がドサリと降ってきました。
「!?」
それは、あまりにスプラッターな死骸でした。
上半身しかなく、顔も半分剥がされて、
何よりその苦痛で叫んだままの顔で死んでいました。
さっき食べられた……そこの夜血の眷属の仲間の一人でした。
「……ぁぁぁ……!!!」
まさにそのお仲間の一人が出した喉から搾り出した様な叫びは、叫びたいのに極度の緊張で喉が絞られたまま出た様な声でした。
「惨い……!!」
「う、う、うぉぉぉぉぉ!!!
野郎、ぶっ殺してやるぅぅぅぅぅ!!!」
「やめろ!!お前もこうなりたいのか!?」
「俺の友だったんだぞ!?
お前も!!!お前の友だったんだぞ!!!」
「まずは、警告。と言うより宣言ですか」
正直言って私も気分悪くなりそうですけれど、隣でここまで大発狂してもらったお陰か冷静になれました。
まずは……その人の見開かれた残っている方の目を閉じさせます。
「お前らもこうしてやる、と。
……だとしたら、手段はなんです?
君は知ってます?」
今、この惨劇を引き起こした仲間である人質のラプトル君にあえてそう指を刺して尋ねてみる。
すると、どうやら察してくれた様で「フン」と鼻を鳴らして……器用に唇の端を曲げてきました。
嘲笑。
爬虫類で初めてそんな事ができる個体を見た気がするんです。
「このトカゲ畜生めがぁぁぁッ!!」
「辞めろ!!!殺したら即俺たちもこうなるぞ!!」
「だったらコイツの腕を斬り落とす!!
そして奴らに投げ返して!!」
「辞めましょうよ、これ以上会話していると、そろそろ理解されそうです」
私は、興奮している人を宥めて、改めてこの捕まえたラプトルモドキ君を見ます。
正確には見返す、ですかね?
だってずっと見てますもんね彼。
「言葉が分かるというのか、奴らは?」
「理解はしてなくても、何言ってるかはもう分かるでしょう。
顔で、荒げた声で、動作で。
観察をしている。やはり、他の恐竜よりもずっと頭がいい」
まるで霊長類、それもチンパンジーなんかの高知能な生物に近いような。
「貴方、何者なんです?」
つい、そう問いかけたくなる。
「……グワァ……ァア……ア、アナ、タ、」
そして、今日また驚いた出来事の驚きが更新されました。
口を開けたラプトル君が、喉を……恐らく鳥と同じ鳴管を鳴らして……!
「ア、アナ、アナタ、ナ、ニモノナン、デス」
声真似をしてきたんですもの。
……流石にゾッとしました。
「……な、何も驚くことはない……よね?
声真似なんて……鳥でも出来る……から……」
「…………意味もある程度理解していると仮定したほうがいいですよ」
敵を甘く見積もらない方がいい。
まして、まだ笑う余裕がある相手に対しては。
そしてドサリと、今度は足が飛んできました。
「クソ!!
奴らなんのつもりだ!?」
「脅してるんだろうよ!そうやって追い詰めて!」
「……ふむ。
なんで貴重な食料をわざわざ脅しに使うんでしょうね?
こことかだいぶ肉残ってるのに」
偏食家な恐竜はいます。
とはいえ、人間の可食部は少ないとはいえここまで残っているのも何か不自然な。
そして、再びドサリと何かが投げられてきます。
「!?」
でも今度は死体じゃなかった。
クルル……キュウ?
それは……平たくいえば『哺乳類』でした。
体長は、70cmぐらいの……イタチに似た様な、大きなやつです。
……ヤバい。
「なんだ?とうとう死体がなくなってそこら辺の動物でも投げたのか?」
その哺乳類は、警戒を解いた夜血の眷属の方が片手を差し出すと、クンクンと鼻を鳴らして匂いを嗅ぐ様な仕草をします。
「おぉ、随分ずんぐりむっくりしたやつだが、可愛いじゃないか。
どうした?お前も奴らに虐められたか?」
「離れて」「離れろ」
私はコイツを知っている。
そして、恐らくカイルさんもだ……この島に一度破れた冒険者だからこそ知っている。
ヤツら、なんて『怪物』をここに投げつけたんだ……!!
「今度はなんだ?
こんなチビスケに殺されるとでも、」
「殺されてんだよ!!
俺の仲間は少なくともそいつに!!!」
真っ先に声を上げたカイルさんですが、そいつはずんぐりむっくりした……極めて筋肉質な身体でそそくさと、夜血の眷属の方の差し伸べた手に登り始めました。
「早く振り払って!!
そいつはレペノマムスだ!!!
自分より大型な恐竜を喰い殺す化け物みたいなヤツなんですよ!!!」
そして、首元に食らいつく。
一瞬でした。
何が一番一瞬かといえば、恐ろしいことに首の骨を折り一瞬で彼を仕留めてしまうその手際が、ということになります。
殺された側の顔も、痛みや苦しみではなく疑問の顔のまま、身体ごとドサリと地面へ落ちてしまったんです。
「何も反応できなかった……!!」
レペノマムスは、なおも死体を食い続けています。
そう、自分よりもずっと大きな人間の様な体を、全部くらい尽くすつもりみたいに。
「……え?」
ふと、近くの死骸が動いています。
そして理由を見て、納得と恐怖が襲ってきました。
もう一体、レペノマムスが死骸に食らいついている。
いつの間に……そしてまた別方向にも。
「まさか、
レペノマムスを、わざとこちらに!?」
ラプトルモドキ君は、どうやら相当怒っている。
私たちにとにかく苦しんだ上で、仲間を返してほしいらしい。
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