第16話 : 後方に吸血鬼、前方はラプトルの群れ!探検隊の死闘が始まる!!
「森を進む上で気をつけなければいけないことってなんだと思います?」
ふと、天才美少女古生物学者兼フィールドワークという名のサバイバル経験者の小平名香代ちゃんが問いかけます。
「前と横だけじゃなく上を見ること」
「道は自分で切り開くしか無いってこと」
「後、こんだけ蒸し暑いと汗で水分も消費してっけど、塩も舐めとけってこと」
「さすが冒険者。その通りです」
現在、夜の森を松明なしで一直線に進んでいる最中です。
私とアルトリーシャさんとでナイフで道を切り開いていく様は、ぶっちゃけほぼ道路工事です。
「コンパスはみんな持ってますね?向かう先はほぼ真北なのが幸いです。
これ以外を信じないで。
逸れたとしても、道を探さないでコンパスに従うように」
水は、まだ良いか……と思う辺りで一口飲んでおかないと。
にしても蒸し暑い。流石は恐竜時代のような島です。
……私は、松明ありで光を持って進むべきと思いましたが、正直頭の暗視ゴーグルは正解だったかもしれません。
真昼間でも、奥まで見えない。
上は生い茂る木。目の前は背丈ぐらいあるシダ植物。
草刈機持ってきた方がいい気がする。
なんて、乾かない服の汗の湿気でつい思ってしまいます。
「あちぃ……」
「ジョセフさんでしたっけ?ジャングルは初めてで?」
「そうなんだよなぁ……こんな森初めてだ。
普段の森は、確かに暗いけどここまで重苦しく暑苦しくねぇ……」
「基本的にやや寒冷な気候の大陸でしたね、皆さんの暮らす場所は。
ここはほぼ熱帯なですからね」
「……ジョセフだったな、お前。今度は兜を被って行ってみろ。
蒸し風呂に入れるぞ?」
「俺戦士職じゃないんで」
とはいえ、軽口叩く余裕見せながら、視線は周囲を警戒するのをやめない。
この島にアタックして生き残れたっていうのも分かる目ですね。
「……なぁ、ナカヨ先生?」
「ええ、ずっと見られてますね」
とはいえ、ここは部が悪いですね。
……周りに光る点がいっぱいです。
見られている……何か達に。
「後方。未確認存在、数3。
距離一定、彼我を追従中」
後ろの方で、佐藤さんが短く報告します。
……やっぱり、追いかけてきてるか。
「……ドロマエオサウルスか、さっきのディロングか。
サウロルニトイデスかシノヴェナトルかも……いやでも柔らか肉専門のトロオドン科が襲うかな、我々を?」
「やたらいっぱいいるな……」
「やたらいっぱいいるのよねさっきから」
「そりゃあ、やたらいっぱいいますよ。
ラプトルって言ったら、俺たちの世界じゃ狡猾に集団で攻めてくる恐竜の代名詞ですし」
「……ラプトルは、実は集団戦を仕掛けることはありません」
佐藤さんの言葉は、一応訂正しておかないといけないでしょう。
「その証拠になったデイノニクスという恐竜の集団死の化石は、しかし彼らは群がりはするもののその行動に連携の文字はなく、ただ死肉をお互い奪い合ったという証拠でしか無いというのが今の見解です。
小型種の肉食恐竜は、基本的に死肉かあるいは同サイズ以下の獲物を狙う事が大半なんですよ。
自分より大きなサイズに際限が無いですからね……
なにより、こんな密集した森林でそんな大型の獲物は滅多にいません。
いたとしたら、この森ごと食い尽くすような超巨大竜脚類のみ。それは『大型で群れる』恐竜の獲物です」
ここまでが、一般常識。
「……先生、」
「追われてますよね、やっぱり」
さて、ここからが本題です。
「姿がなんとなく分かる奴が3、後方。
……でもアレはワザとくさい動きですね。
伏兵がいるな」
「なんとなく見えるけど……野盗とかゴブリン……いやレッドキャップみたいな追いかけ方。
知ってなきゃこの暗さじゃわからない」
本職の佐藤さんと、なんかそういう経験のあるダークエルフのダコタさんが静かにそう語りますが……
私も、さっきからチラホラそんな気がしてるんですよね。
「……にしても魔力感知がうまく効かないわね。
森は私みたいなエルフのテリトリーのはずなのに」
「……というより、魔力の数が多いんです。
他の生き物に紛れてるというか、おかしな動きがいるのは分かってもうまく隠れている」
「アンタらみたいな奴がそこまでいうなら、中途半端野郎の俺はまず感知できねぇよな」
真ん中の魔法使えます組3人も、冷や汗混じりにそう言います。
「…………しょうがない。
プラン変更です」
私は、暗視ゴーグルを外して、夜の空の星すら見せないこの森の闇を直接感じます。
空気が暑く澱んでる……まさに嫌な森の途中で立ち止まります。
「先生?」
「小休止!
それと、火を使います!!」
ちょ、と言って、既にライターを取り出す私に駆け寄る佐藤さん。
「敵が来ますよ!?」
「来てもらうんですよ」
ありえないみたいな声を出す前で、早速適当に拾った手頃な木の先にバックから取り出した特製着火剤を燃えるガーゼで巻いて、火をつけます。
「何のつもりだ先生!?死ぬ気か!?!」
「このままだと死ぬのは我々なんですよ。
見て!!」
ぼぉ、と燃える松明を周りに照らした瞬間、周りに……あまりに近くにいた顔が映りました。
それは、面長で爬虫類……というよりはまさに映画の恐竜のような恐竜らしい顔、
もっと言えばラプトルらしい顔が、炎に照らされて目を細めて複数後退りしました。
四方八方……あらゆる場所から。
「な!?」
「すぅー……来るなァーッ!!!!
こっちに来たら殺す!!!!これで燃やすぞォーッ!!!!」
大声で叫び、松明を振り回す。
威嚇は通じて、相手が初めて威嚇の唸り声をあげて睨み出しました。
もう一丁……魔改造ライノ君をホルスターから抜いて、適当な木へ撃つ!!
ズガンッ!!
木が砕ける音で怯み、しかし中々こちらの包囲をとかない謎の恐竜達。
「何してんすか!?これじゃあ位置バレバレだ!!」
「バレたぐらいの方がいい!!
皆さんも大声出して、魔法なり何なりで適当に光って!!!
この恐竜は何か変なんです!!!!」
既に、見た目がおかしいんです。
私達をさっきから包囲しつつある恐竜は、まずラプトルじゃあ決してありません!!
腕が、太すぎる。
ドロマエオサウルス科、トロオドン科に代表されるようないわゆるラプトル達も比較的前脚は発達していますが、それにしたって太い!
何より指が……暗視装置抜きで松明で見えたあの指がありえない!
なぜ、3本のうち一本が、他の指に対して内側を向いているんです!?
人間のような親指のある恐竜!?
ありえない……見た事がない!!
「何より……賢すぎる」
ラプトルは、脳の容量こそ大きいとされていても、その実態はほぼ単独行動を取る同格かそれ以下の獲物を狩るタイプの肉食獣。
原生生物で言えば、キツネなどの代表されるような、群れたとして小規模な群れ以上は作らないタイプです。
オオカミのような集団連携をしてくるラプトルは、現在証拠がなくいないとされているはず。
それが……確認できるだけで、既に8匹。
もっといる可能性もある、そんな大規模な集団で、確実にこちらを包囲している。
ありえない。
そんなの、映画の中の『フィクションラプトル』でしかない。
なんでフィクションのラプトルが目の前にいるんですか!?!?!
キュロロロッ!
ふと、さっきまで黙っていたラプトル達が叫んだ瞬間、何かが私達の前にザザッと現れました。
「一体、どういう状況なんでしょうかね?」
あの時の少年の……えっと、
「あなたが先ですか、アリーヤ。
流石は夜血の眷属。闇の中では速い」
「ルーナ様!今は敵とは言え迂闊すぎます!!
なぜ目立つようなことを、」
「話は後!!!
喰われたくないなら武器を構えて!!!
このラプトルは変だ!!!私達を明確に獲物として狩ろうとしてるッ!!!」
話が長くなる前に、松明を振ってそう叫ぶ私。
「え……?」
「バカな。我らは夜血の眷属。
夜は我らの本領だぞ!」
「いや待て!クマ並みにデカいトカゲだぞ!
いくら何でも油断はするな!!」
「しかし、」
「待った!
…………どうやら、そっちの異世界の人の言う事は本当みたいだ、みんな」
なんか文句がありそうな人達を、少年……アリーヤっていう名前の彼が咎めます。
そして、周りをわずかに一瞥して……ふと、剣を引き抜いて剣呑な空気を醸し出します。
「殺気がないんだ」
「え?」
「殺し合いをする気が一切ないんだ。
というよりは、何かずっと待ってこっちを見ている。
いや……何を待っているのか分かったかもしれない。
タイミング、消耗……油断。
変だ。剣を抜いたのに警戒するそぶりがないよ。
剣自体の威力を知ってる、そんな感じだ!」
「……!」
「……流石は、天武の剣聖。
一眼で相手の実力を見抜くと謳われるだけはある」
「ルーナ様、もしボクらを罠に嵌めるなら、
なぜもっと制御できるようなものを使わなかったのですか?
殺気じゃなく、もっと嫌な鋭い感情を向けている。
……食欲だ。
飢餓状態の魔物よりも鋭く、理知的で貪欲で何より……機械的な……!」
言いたい事が嫌というほどわかる。
周りのヤツら、確実に餌が増えたと踏んでまた包囲を完了しつつある……
何日でも待つだろう。腹が減りすぎない限りは。
そんな雰囲気が漂います……そしてそういう狩りを得意としてるんでしょう、彼らは。
さっきから、ディロングをはじめとした同サイズ恐竜が逃げていたのは、コイツらを警戒していた?
「納得できかねますな!
たかがトカゲ如きに!!」
そして、警戒心を持てない人が一人……
「待て!!」
「1匹でも仕留めれば怯えて逃げ出すはず!!」
なるほど、夜血の眷属っていうのがどんな生物かは分かりました。
速いし、力強い。
一瞬で1匹の謎のラプトルに斬りつけて、その個体から血を流させました。
キュウキュウ、と弱々しい声で地面に蹲って……まるで血を這うように離れようとしてます。
「見ましたか!!
いささか手応えがないようですが、この通り怯えております!!」
そう言って、その男の人が近づいてわざわざ踏みつけて……
「すぐ離れて」
私は、そこで銃を構えてそうその人へ言いました。
「女!そんな武器で俺が脅せると!?」
「そっちを狙ってるんじゃあない!!
傷が浅いくせに、やたら弱いふりしているそこのラプトルを警戒しているんですよ!!!」
言葉が分かっているのか、それとも行動で判断したのか。
さっきまで逃げ出す真似をしていた個体が、鳴き声を止めて無表情でこっちを振り向いています。
「4mある爬虫類がその程度の怪我でビビるわけがない!!!
わざと出血して誘い出してる!!
1匹ずつ群れから逸れたやつを狙ってるんですよソイツは!!!戻って!!!」
「え?」
なんて危機感がない!強いせいか!?
瞬間、逸れたと判断された男が、真上から落ちてきた別個体にのしかかられる。
「グゲッ!?」
秒で首の骨を足で折られる。
手早く、動かなくなった男を掴み、囮役と共にひきづって森の奥へ。
戦慄が走る。
ええ、皆推し黙りますとも。
間抜けな末路からは想像できない、凄まじい手際。
何より……私は見てしまった。
やっぱりラプトルじゃない。
その足に……ドロマエオサウルス科やトロオドン科に存在するシックルクローが無かった。
それにさっきの上からの奇襲で気づいた。
コイツら……木の上にいる……!!
木登りが得意なあのサイズの恐竜は見た事がない……!!
「なんで……奴はどこに!?」
「狼狽えるな!!首が折れた程度なら治る!!
すぐにでも……!」
────ぎゃあああぁぁぁぁぁぁッッ!?!
すぐに、森の奥から凄まじい悲鳴が聞こえた。
────やめてくれぇ!!俺の、俺の腹を食わないでくれぇぇぇぇッッ!!ああぁぁぁぁぁ痛いぃぃぃぃぃぃッッ!!!
────助けてくれぇぇぇぇッッ!!食べないでくれぇぇぇぇッッ!!!めきょっ!?!
…………静かになりましたね。
皆、敵味方問わず怯えた顔を見せます。
もはや自然と、1箇所に固まって各自包囲する相手を見ます。
「アイツは……焦りすぎたんだ……
ただ……焦ってないからと言って、我らが喰われない保証はないな……?」
「……怯えてしまう。これは……戦いとはまた違う怯えだ……!!」
「情けねぇって言ってやりたいけど、じゃあお前ら夜血やら魔族やらより弱い人間はどうすりゃ良いんだって話だわな。
へっ……漏らしてないのは、褒めてくれるか?」
まずい。みんな心が落ち着いていない。
変な会話は、ストレス反応ですよ。
…………
「プラン1!みんなでまとまって一点突破!!
とにかく最短を目指す!!」
とりあえずそう叫ぶ私です。
「いきなり何を!?ボクらから逃げる気か!?」
「そのボクらと逃げてあげると言ってるんですよ。各個撃破がお好みなら、プラン2!!
こうなりゃ誰かが生き残れば勝ち!!
全員で散!!して目的地へ!!
誰かは森を抜けられるでしょうね!!
で、どれが良いです!?
私はできればプラン1で!!
プラン2は別名『自殺行為』って言うんで!!」
「貴様!!言うに事欠いてその態度は!!」
「落ち着け、夜血の眷属。
こちらの先生は、現状最もここにいる『恐竜』に詳しい大賢者殿であらせられる」
ふと、こんな状況でまだつっかかってきた人を遮るアルトリーシャさん。
「だからどうした!!我らに見つかる程度の知恵で!」
「その知恵で今お前達もピンチなわけだ。
巻き込んだいじょう生き残りたければ、巻き込んでやった大賢者に敬意を払え。
少なくとも、彼女はそうする。
こちらはもうヤケだ。今すぐプラン2をしてやっても良いんだぞ?
この森から、この化け物どもから逃げ切るまでは、
仲良くプラン1に従う方が……利口な行為じゃないのか?夜血の眷属ども」
「ぐ……!」
どうもアルトリーシャさん。
そりゃあ、ここまで言わなきゃ分かりませんよねこんな状況で。
一人食われて冷静な対処は無理でしょ。
まして、追ってる相手へ敬意なんて……
「…………生き残りたければ、敬意を……か。
…………敬意……!」
……ん?
敬意を払う…………そうか。そうか……!
「…………どうせダメでも二つのプランに移れば良いか」
……ありがとう、アルトリーシャさん。
今、馬鹿げた『プランC』を考えられました
とりあえず、荷物は下ろそう。
大物のライフルは良い、こんな森で振り回せない。
相方は、魔改造ライノだけ。松明も地面に刺す。
「先生?」
「何を……!」
数歩、わざと前に出る。
片手を掲げて、ゆっくり一体に近づく。
恐竜映画といえばあの映画の、4作目からの主人公がラプトルにしたように。
当然、相手は怪訝そうに警戒しつつも、寄ってくるはず。いや来ました、ね。
────例えば、人を食うクマはどうやって人に近づくのだろうか?
唸り声をあげて牙をむき出しにして駆け出してくるのでしょうか?
……違う。
クマは賢い生き物です。
わざわざ食う相手に、自分は今からお前を襲うと伝える真似はしない。
まず、無害なように、人懐こい風を装って近づく。
そして、油断したその喉元へ一撃。
これが最も怖い人食いクマの手口です。
むしろ、威嚇するぐらいの方がこちらを脅威と見ているために対処がしやすいほどです。
だから、目の前のコイツは端的に言って私のこと餌として舐めてるんです。
だから、こうやって静かにかざした手に頭を押し付けてくる。
敬意が無いなら、どうなるか、
理解させるには、脚に一発がいい。
────ヤンキーみたいな集団でオラついてきたのはそっちなんで、ヤクザの『敬意という言葉の授業』されても文句は言えませんよね?
私はそう思います、酷いとか非人道的とかそういう事は今は無視します。
だって暴力は獣にも通じる言語ですから。
ギェェェェッッ!??!?
いまだ。
足に一発撃たれて傾いた相手の首に手を回して飛び乗る。
4m対170cmでも、軽量化された恐竜類相手なら私の方が重くて密度が高い!
どさり、と地面へ倒れ込んだこの謎のラプトルの頭に銃を突きつける。
「暴れるな!!!」
鋭い爪が、寸前で止まります。
流石に分かったでしょう?上に乗ってる私はいつでもお前を殺せる。
片手で500S&W弾撃たせたんだから、この手の痺れ分は理解してもらわないと困ります。
さて、首を抑える手にナイフをなんとか落とさず掴ませて、ナイフを謎ラプトルの目の前にちらつかせながら上の別個体に銃を向けます。
「周りも!!
動くな!!!」
威嚇して飛びかかろうとした相手へ一発。
当たらないで欲しい願い通り、痺れた手でも絶妙な近さの木に当たって穴を開けてくれます。
コレで言葉の意味は分かりますよね?
「分かんないとは言わせない!!
動くな!!!動けばコイツを殺す!!!
分かるか!?!」
周りに、押さえ込んだこのラプトルの首をグイと持ち上げて見せつけて、ナイフで柔らかい喉元を少し切る。
血を見せれば流石に何言ってるかは分かってくれますよね、賢い映画の様なラプトルくん?
ここまでのあまりにも悪党なやり方こそ、たとえ言葉がわからない原始人でも分かる言語だと思って語りかけてるんですよ?
分かれ、アホボケ。
シィィィィィィ……!!
初めて、周りの個体が歯をむき出しに威嚇音を出し始めた。
やっと、目の前のヤツが餌じゃ無いと分かった様で。
バカと話すと疲れる。
「…………そ、そんな手を本当にやるとは……!!」
「…………剛毅だ。あんまりにも」
「しかも効いてる……マジかよこりゃ良いぜ!!」
「…………あの、皆さんもこの人質作戦手伝って?」
良い加減、この手負いのラプトルを抑えるのキツいので、お願いします。
少なくとも、森を抜けるまではコレを運ばないといけないんで!!
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