第15話 : 探検隊はいよいよ出発する!その眼前に迫るは、小さき恐怖が集まる広大な森林だった!!
天才古生物学者の小平名香代ちゃんは、
暗黒竜デーギラという突然襲ってきて私にとって大事なフィールドワークをぶっ潰そうとしたクソトカゲに啖呵を切る事で、フィールドワークに出発できました。
「いやまさか、全員がそろって賛成するとは思わなかったぞ!?
ハーヴェスト殿達竜狩り騎士隊は全員あの『あの世行き川』へ行き始めるとは……!」
今、バートさんの装甲車の中にはアルトリーシャさんも含めて結構な面々がおります
「全員じゃないわよ、私はこっち」
「弟のダーラムがそちらのお世話になります」
と、『竜落の魔術師』の異名を持つエルフの魔法使いのフランツェスカさんに、『紫炎の魔女』こと青肌黒白目魔族のルーナさんに、
「……狭いぞ、特に巨人の娘!」
「ごめんとは思いますけど、肘おっぱいにあたってます!」
「ごめんそれ俺。わざとじゃないから折らないで、いや真面目に」
「…………」
と、あの場にいた冒険者御一行の皆さんまで。
「……しかし、結構無茶では?
例えば恐竜がいなくとも、この向こうはほぼ獣道の深い森林ですよ。
道の間違い、一部の地磁気異常による方角喪失……
昔、ちょっとそう言うとこで訓練させられたんですけど、地獄ですよきっと」
窓際で、装甲車の窓を開けて目的地を見る佐藤さんが言います。
「地図上での最短ルート距離なら、歩いてもまだ2時間以内に訪れる日の出までには抜けられます。
よね?アルトリーシャさん?」
「運が良ければ、な……はぁ」
「……運はいいと思うぜ。暗黒竜デーギラ相手に生きてた上に、今から向かう場所の経験者が二人いるからな」
ふと、割とギチギチなので床に座ってもらっているカイルさんがそう疲れた顔で言ってきます。
いや、疲れではないですね……怯え、が正確でしょう。
微かに震えて、顔を俯かせて……
「着くぜ、皆の衆。
……こりゃあ『小さい殺戮の森』って名前も案外ぴったりな雰囲気だぜ」
上のハッチを開けて、梯子を登って暗い外に顔を出す私です。
「…………雰囲気バッチリですね」
ライトの光のか細い希望を、貪欲に飲み込む黒い壁。
背の高い草もまばらな木もここまで。
あまりに綺麗な境目の向こう。
そこが、『小さな殺戮の森』。
最短ではなく、最長の部分を考えれば、小さいとは言えない深い森。
「名香代!」
ふと、エリーが渡してくるのは、多分こっちの世界の人からは変な双眼鏡をメガネにした様な何か。
受け取った『暗視ゴーグル』をつけて、スイッチを入れます。
黒と若干薄い黒の世界は、緑の中にくっきり影が映るものに変化します。
そして、見える見える白い点。
しかもすぐ近くにも!隣!?
「うぉ!?」
キシャア、と飛びかかってきたのは、まさかの!?!
咄嗟に殴って突き飛ばしたのは、鳥に似た姿にシックルクロー、そして小さな姿は間違いなく、
「どうしました!?」
「すごいのが追いかけてきてるんですよ!
ちょっとそこのタオル貸してです!!」
数匹いて、我先にと仲間同士噛みついたり突き飛ばして、おそらく私に襲いかかるのは超有名恐竜!!
飛びかかってきた……よっし!!
タオルを巻いた腕で噛みつきをわざと受けて、暴れて脚のシックルクローを振り回す彼を抑えながら一緒に中へ!
「捕まえちゃった……!
いやぁすっごいのが取れちゃった!」
「コレは……!!!」
「うわ、俺でも知ってるやつじゃないですか!?
ラプトルだ!!」
ギュワギュワ鳴いてちょっと暴れるけれど、どうしても彼は間近で見たかった。
「ただのラプトルじゃなですよ?
おっとっと……この意気の良さ!!
まさかのヴェロキラプトル!!」
もっと乾燥した地域にいると思ってた、誰もが名前を知っていて、だれも本当の姿を知らない伝説の恐竜!
ヴェロキラプトル。
ドロマエオサウルス科で初めて見つかり、ジュ◯シック・パークシリーズをはじめとした映画で『誰!?』と言いたくなる姿で名前だけ活躍している恐竜です。
「ちょっと目を見せてね……」
試したい事があるので……ちょっと動物実験じみてるので心が痛みますけど、この懐中電灯の様な装置をカチッとな。
キュエーッ!
「うわっ!?」「何!?」
……やっぱり反応しないか。ちょっと眩しい程度か。
おまけに、やっぱりアルトリーシャさんも反応しますか。意外な事にフランツェスカさんも。
じゃあ、ヴェロキラプトル君は外にリリースしますね。ぽいっと……ごめんねー!
「?
オイ、どうしたんだよアルトリーシャ?」
「み……見えなかったのか……?」
「見えませんよ、多分。
ここの人類に見える方々も、哺乳類に似た進化してたのは意外ですけど」
「それ……なんだ?」
この懐中電灯の様な物……実は大した物では無いんです。
なんなら……と皆さんに当てると、まぁなんらかの蛍光物質が光って見えるだけの、例のアレ。
「ブラックライト、っていう人間の目には見えない光を出すライトです。
普通は、なんらかの体液や蛍光する物質に反応してそれを光らせますけれど、今言った通り人間の目には映りません」
「……ちなみになんで我々の服がところどころ光るのだ?」
「返り血か、なんらかの体液が付着した後ですね。
洗っても意外な事に落ちないんですよこういうの」
「ああ……」
ドクロ顔の人こと、ナハトさんがうなづくと同時に、皆さん身に覚えがあるのか納得します。
「……皆、もしかして服の模様が見えてなかったのか……?」
「……アンタ、気づかなかったのね」
「とまぁ、恐竜類や一部のこの光を感知できる生物は見る事ができるのですが、さっきのヴェロキラプトルにはこの光がイマイチ見えてなかったというのが重要でして」
「……人間の本質が闇ということか?」
ふと、ナハトさんがそんな事を口走ります。
「オイオイ、闇属性なのお前らとかそこの魔族の姐さんだろ?」
「魔法的な意味合いは置いておいて、ナハトさんのいうことも間違いでは無いんです。
元々、哺乳類……人間の仲間は『夜行性』の生き物で、その結果かつては色が見えませんでした。
夜に動くなら景色に色は必要ないですからね」
「生物学と異世界ではいうらしいな。
人間も元は暗い洞窟に住んでいたらしいとはどこかの賢者が言っていた」
「で?目が悪いヤツらがなんか関係あるの?」
「これから行く場所は、夜によく見える恐竜達の住処。
言い方を変えれば、闇の住人の世界。
準備しておこうということです」
さて、紫外線ライトをしまって……次はこっち。
「待った。懐中電灯はやめた方が良いですよ」
ふと、佐藤さんがそんな事を言います。
「佐藤さん?」
「恐竜相手だけなら良いかもしれない。
ですけどね、我々を追いかけているのは人間か、それに準ずる生き物ですよ?
痕跡を消すか最小限にした方が良い」
「しかし、松明が無いと寄ってきますよ?
ヴェロキラプトルならまだしも、森の中にはクマサイズの小型恐竜で夜行性の個体はいます。
自衛無しで進めと?」
「……でも小平先生、ちゃんと懐中電灯も松明も使わないで森を抜けるための装置、
持ってきてましたよね?」
……ええ、まぁありますけど……
森の前でバートさんの装甲車は停車。明かりは最小限に
観念してバックから取り出す、頭に付ける双眼鏡というかそんな形の物々しい機械。
「暗視装置、一応持ってきてますけどこれ使いたく無いんですよね。
ドロマエオサウルスとかディロングとか会いたく無いんですよ?」
「そこは、恐竜の専門家にガイドを任せてますんで。
後ろから撃たれる方が怖い」
とか言って、明らかに軍用の暗視装置を頭に付ける佐藤さん。
性能いいやつ持ってるからって、ぷー!
「けど俺たち松明もないと見えないぞ?」
「オレ、偵察向きのシーフだから言わせてもらうけど、俺以外どうすんのさこの真っ暗」
「見えない…………」
「ダークエルフのアンタが見えないなら私もそうよ」
「そうですよ、たった二人の暗視装置で二人でこの暗闇をカバーしろって?」
「あー……
レンジャー魂を異世界に広めればなんとか!」
無理ですって、精神論走るの悪い癖ですよ日本人の。
「……ただ、そちらの異世界の軍人さんのいうことも正しいですね。
ここは、私がなんとかしましょうか」
ふと、そう言って出てきたのは魔族で魔女なルーナさん。
ふと、小さく呟いて周りの人達に何やら魔法をかけます。
「うわ……白黒だけど見える!!」
「星見の加護です。
わずかな光を増幅して見る魔法であり、昔は暗殺者がよく使っていました」
「魔族の魔法すごいな……発想っていうか」
……困ったな、このまま行くのか。
なんとか、せめて松明が欲しかったのに……
「……そんなに不服っすか?後ろから来るのは武装した人間で、異世界の戦闘員ですよ?」
「戦闘員は私達を餌とは思いませんよ?」
「ただし腹一杯でも殺す。
……見つからず、先に見つけ回避するが戦闘の鉄則です。
二手に別れるのもそれが理由で」
「見つかるのは当然、如何に襲わせないかの野生とは相性が悪い」
「ま、こっちも装備がクマ撃ち用の過激なやつなんでそこは」
さて、と車に駆け寄る佐藤さん。
「まず、バートさんとエリザベスお嬢さんと、あとでかいお嬢さんと骸骨の兄さんは車で別ルート先行を。
浜側の森の影に停車して待っててください」
「骸骨兄さん?フッ……若く見られて嬉しいよ」
「ナハトさん、でも私より年下だよね?
それで異世界の人間君?なんで私達はお留守番?」
「デカいと目立つ上に、置いてかれますしね。
それに、いざってときは頼りにしてます」
「で?
さっき渡した地図のどの地点に行けば?」
「ポイント5-F付近で」
「了解ですわ」
そう言って、私たちに向かい合う佐藤さん。
「先頭は先生に任せます。その後ろにアルトリーシャさん。先生の護衛を」
「分かった」
「次いで、確かシーフっていわば斥候だよな?えっと、」
「ジョセフだよ、サトーの兄さん。
ま、オレの職業はそういう認識でいいさ」
「よし、前方を頼む。
そっちの兄さんとエルフと魔族のお姉さん型は真ん中、いざってときは『火力支援』を」
「俺前衛側なんだけどな」
「ええ」
「ま、そのぐらいやってあげるわ?」
「それと、褐色の君。
悪いけど、俺と殿頼むよ。弓の腕は良い方かい?」
ふと、弓、辺りの所で弓を引き絞って、ヒュンと放つダークエルフさん。
バスン、と当たった箇所には……げ、ディロング!?
2mはある!地面に当たった矢に驚いて逃げてはくれましたけど!
「暗闇だから、昼間ほどじゃないけど」
「……頼もしいな」
「…………行く前にこれだけは言っておきます」
さて、頼もしいけど、私はあるものを懐から出します。
秘密兵器の一つ……黒い筒の手榴弾。ただし殺すためのものではないです。
「M84スタングレネード!?」
「全員分あります。念の為に、持ってきておきました。発煙筒も」
冒険者の皆さんにも、スタングレネードと発煙筒を渡しておきます。
「これは、投げると凄まじい音と光が放たれる爆弾です。
ピンを抜いた上で、手を離して2秒で破裂します。目を閉じて耳を塞ぎながら口を開けて姿勢を低くして耐えてください」
「……似た非殺傷用魔法がありますね。
こっちは魔力を使わずにできますけれど」
「良いですか?
後ろから来る敵の方々がどれほど強かろうと、この森の中では皆等しく『獲物』です。
私達もそう。
だから、たとえば急に前にいた私が消えた。
例えば隣の人が消えた、前の人が消えた、とにかく……自分が危ない。
そう感じたら即、光と音を出して全力で周りを脅してください。
自分の存在をアピールしてください。
自分を大きく見せてください」
「それは、」
「黙って聞いてくださいね。
我々は幸い、この森の中では大型生物です。
そして直立歩行する不気味な生き物です。
ディロングも、ドロマエオサウルスも、ヴェロキラプトルも、体格は同じです。
餌としては良いサイズかもしれませんが、同時に手痛いしっぺ返しを必ず食らうサイズです。
だから、襲う事は滅多にない。
ただし、相手はずっと追いかけてくるでしょう。
ラプトルは群れません。幸いディロングも群れたりしません。
でも、単騎でずっと追いかけてくる。
静かに進む道を選んだ時点で、なめられてる。
周りに音を立てず進むという事は、弱いから隠れてると認識される。
そういう道を、そういう生物相手に、そういう仕草で向かう。
この危険性を理解した上で、進みましょう。
そう、そんな暗闇で生きていた恐竜時代の哺乳類の気持ちで」
軍にもいたプロには申し訳ないですが、
こっちもチビちゃんの頃に野生動物相手に行動生物学のフィールドワークやってんです。
ここが小さい殺戮の森と言われているだけあるのは、もうとっくに見て理解できるほどになっているんですよ?
頭の暗視装置が、幾つもの白い二つ並んだ点を見せている。
あれは、少なくない数が……夜行性の肉食恐竜達の視線。
「とっくに『かくれんぼ』は失敗してます。
ここからは、タッチされたら
肉が無くなる『鬼ごっこ』を夜が明ける前に終えなきゃいけない」
内心、相手はちゃんと松明を持ってくるのが羨ましいと思ってます。
ここはダメだ。
明かりがなきゃ、死ぬ。
そこを明かりなしで突っ切れ、とは……
バッカじゃなかろうか?
「…………ただ、運が良ければ追っ手は脚が速い代わりに、きっとそう言った松明などは持ってこないでしょう。
私達が死へ向かうなら、相手もそうなるはず」
ふと、ルーナさんがそう言葉を漏らします。
「アンタと同じ魔王軍だろうし、なんか情報があるって訳かい?」
「……私があのデーギラなら、『夜血の眷属』であるアンシールとその孫のアリーヤを向かわせるでしょうね」
「やけつ……?」
「マジか!夜血の眷属まだ生き残ってたか!?」
「さすが滅ぼした側の反応は違いますね」
……なんです?有名なんです?
「その人らはなんかマズいんですか?」
「異世界人の方に平たく言えば、」
***
一方その頃デーギラがいる白亜の村では、
「お前ら、敵だけど同情はするよ……
まぁ、保身のためって思われても良いから体拭きなよな」
「うぅぅぅ……なんだよあの化け物……!!」
デーギラ配下の負傷者が、村の皆に介抱されていた。
船は、ティロサウルスに破壊された一隻や、穴が開きながらなんとか浜にたどり着いた一隻など、無事な方が数少ない有様だった。
島に攻めただけで、すでに負傷者が多数いた。
「………………頭に来る物言いの異世界人のメスだったが、言うことが正しいことが余計に腹立たしいな。
アレが、竜の名を持つモノだと?
品性と品格とを全て捧げた野生の力、もはや見事と言う以外に他はない」
その様子に、言葉とは裏腹に頭が冷え切ったという様子で、静かにそう言うデーギラがいた。
「ふむ……どうしますかな、主人よ?」
その横にスッと現れる、配下である「鮮血の刃」の二つ名の仮面の老人アンシール。
「予定通りヤツらを追い立てるとして、あの異世界人のメス。
ヤツは捕獲しておこう。何か、この様子のおかしい島の秘密を知っているみたいだな」
「……夜が明けるまで、2時間と少し。
ならば、我らの出番でしょうな。
アリーヤ」
「はい、お祖父様!」
彼の孫であり、『天武の剣聖』とも言われる少年のアリーヤが返事と共に現れた。
「部下達と共に追いかけるとしようか。
日の出が近い、念の為深淵の加護を皆に持たせ行こう」
「はい!」
瞬間、シュバっという勢いで、黒い装束の部下達が現れる。
「そんな訳だから、皆急ごう!
日の出には気をつけて!」
「御意」
そして、現れた時のように、一瞬で皆の姿が消えた。
***
「『吸血鬼』っていうんでしたっけ?
馬より早く動いて、牛を引き裂く怪力で、日の光が呪いとなる種族です」
…………流石ファンタジー世界。
***




