表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
装甲騎士アルマティス 永劫不変のレクイエム  作者: 瑛斗流
レイトルニア帝国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/17

13話 それぞれの想いを賭けて

俺たちは、己の棺となるそれぞれの機体へと歩みを進めた。


 漆黒の重装甲機『バルパレス』の冷たい操縦席に身を沈め、メインシステムを起動する。首の後ろの金属端子から伸びた極太のケーブルが、生身の神経と機体の中枢を直接接続リンクしていく。


 ──ズンッ、と。


 強烈な情報流が脳髄を直接殴りつけた。体内に宿る魔力(エクスマター)を媒介に、機体の無機質なセンサー網と俺の魂が融解し、混ざり合っていく。


全長一七メートルの圧倒的な鋼鉄の質量が、まるで自分自身の拡張された手足のように知覚できた。


『両機とも、準備は整ったか?』


 通信回線からガトニック教官の声が響く。


格納庫の分厚いゲートが開き、目の前に星の海へと続く電磁カタパルトがせり出した。


「「了解」」


『マーテェルナビスから十分に距離を取り、指定宙域のデブリベルトで模擬戦を行え。


機体のシールドが完全に破壊された時点で勝負ありとする。……出撃!』


 号令と共にカタパルトのロックが爆音を立てて解除され、内臓がひしゃげるほどの強烈なGが俺の肉体をシートに深々と押し付けた。


 漆黒の『バルパレス』と、白銀の『スペルチオ』。


 二機の機体は、絶対零度の宇宙空間へと、一筋の光の尾を引いて飛び出していった。


 指定された小惑星帯(デブリベルト)に到達した瞬間だった。


 前方を飛んでいたスレアのスペルチオが、常識外れの速度でスラスターを反転させ、慣性法則を完全に無視して急停止した。


『──いくよ、兄さん!』


 音声通信ではない。神経接続を通じた【同調思念(リンク)】による、脳髄に直接響く冷ややかな殺意。


 アラートが鳴るよりも早く、スペルチオの右腕に握られたエネルギーアサルトライフルから、怒涛の閃光が放たれた。


 毎秒六発。装弾数三十発の通常モードによる、息もつかせぬ弾幕の嵐が、一条の光の線となって俺のコックピットを正確に穿ちにくる。


「当たるかよッ!」


 俺はバルパレスの【重力制御バインダー】を起動した。


 背部のジェネレーターが低く唸りを上げ、自機の周囲に局所的な高重力場を展開する。降り注ぐビームの軌道が、重力の干渉を受けてぐにゃりと曲がり、装甲の表面を虚しく掠めていく。俺は身を翻し、直径数十メートルはある岩塊(デブリ)の裏へと滑り込んだ。


 ──フッと、視界を白く焼き尽くしていた光の奔流が途絶えた。


 岩塊を砕く無慈悲な破壊音が止み、一瞬の静寂が落ちる。


(今だ!)

 スペルチオのライフルが排熱とパワーセルの入れ替えを行う、わずか数秒間の絶対的な死角。


 俺は重力のベクトルを反転させてデブリの陰から急加速し、右腕に構えた六銃身のエネルギーショットガンを突きつけた。


『甘い!』


 だが、スレアの戦術は俺の予測を上回っていた。


 彼女は機動性で散弾を回避しながら、銃の冷却という『致命的な隙』を埋めるため、肩部装甲を展開した。


 放たれたのは、両機に標準装備されている『多段式マイクロミサイル』。


弾倉(マガジン)が極めて限られた貴重な実弾火器だ。


それを彼女は、牽制ではなく「リロードの合間を完全に補うための牙」として惜しげもなく放ったのだ。


 無数の熱源が、デブリの合間を縫うように複雑な軌道を描いてバルパレスへと殺到する。


「くっ……!」


 俺も間髪入れずにショットガンのトリガーを引きつつ、自身の弾切れとパワーセル換装時に生じる『五秒間』の隙をカバーするように、肩部のハッチを開いて迎撃ミサイルを全弾射出した。


 宇宙空間で幾百ものミサイルと散弾が交差する。次々と着弾し、炸裂する光の華。


 煙幕のように広がる爆炎を切り裂き、排熱を終えたスペルチオが肉薄してきた。


 ライフルの銃身が展開し、六発分のエネルギーを圧縮した高出力の『空間断裂弾』が放たれる。音もなく極太の閃光が小惑星を空間ごと両断し、バルパレスの左肩のシールドを含めた装甲の一部を抉り取った。


「ぐぅぅッ……!」

 装甲の損傷が、疑似的な痛覚となって俺の神経を焼く。


 俺は奥歯を噛み砕く勢いで痛みを堪え、大質量実弾の弾倉へと換装したショットガンを放つ。重力操作を付加した追尾式炸裂弾頭。


 黒紫の弾頭がスペルチオの直前で起爆し、強烈な重力崩壊(爆縮)を引き起こす。周囲のデブリが吸い寄せられ、機体の姿勢が大きく崩れた。


『どうして分からないの!?』


 リンク越しに、スレアの悲痛な叫びが俺の脳を揺らした。


『兄さんのその無意味な優しさが、いつか兄さんを殺すのよ!』


『違う! 心を殺してただの部品として生き延びたって、それは死んでいるのと同じだ!』


 ミサイルはとうに底を尽き、銃身のエネルギーセルも残り僅か。これ以上の射撃戦はただの消耗戦にしかならない。


『……もう、終わらせる』


 伝わってきたのは、スレアの氷点下の決意だった。


 彼女の生体バイタルが急激に跳ね上がる。それと同時に、スペルチオの装甲の隙間から、異常なほどの蒼い光が漏れ出し始めた。


「スレア、お前……まさか!?」


 俺は血の気が引くのを感じた。


 それは、機体との同調を強制的に加速させ、搭乗者自身の生体魔力(エクスマター)を直接吸い上げてジェネレーターの出力へと変換する、禁断のシステム。


 『魔力臨界同調エクスマター・レゾナンス』。


 機体のリミッターを解除し、能力と出力を飛躍的に向上させる代わりに、エクセラーの命の源である体内の『魔力(エクスマター)』の消費量を極限まで跳ね上げる。機体がパイロットから強制的に吸い上げ、肉体に致命的な負荷を強いる「命の前借り」だ。


『私が完璧な兵器になって、兄さんのその甘い夢をここで断ち切る!』


 彼女の悲鳴のような思念と共に、スペルチオの機影がフッと宇宙空間から「消失」した。


 直後、背筋に強烈な悪寒が走る。


 臨界同調(レゾナンス)によって爆発的に強化された彼女の能力。


それは、単なる高速移動ではない。空間そのものを縫い合わせる『空間跳躍(ショート・ワープ)』だ。


 空間が歪み、俺の真後ろの絶対的な死角に、突如として白銀の悪魔が姿を現す。


 パージされたライフルの代わりに、その腕には高出力の蒼いエネルギーブレードが握られていた。


『これで、終わりっ!』


「させないッ!!」


 『魔力臨界同調エクスマター・レゾナンス』起動。 


 ドクンッ、と。自らの心臓が握り潰されるような激痛と共に、体内の血液が沸騰するような感覚が全身を駆け巡る。


 引き換えに、バルパレスのジェネレーターが限界を超えた咆哮を上げる。


重力圧壊(グラビティ・フォール)ッ!!」

 俺を中心とした空間に、疑似的なブラックホールとも呼べる超高重力の井戸(ウェル)が発生する。


 背後に転移してきたスペルチオのブレードが、見えない泥沼に囚われたように軌道を捻じ曲げられ、俺の装甲を紙一重で掠めた。周囲の小惑星が重力場に引きずり込まれ、音もなく粉々にすり潰されていく。


「おおおおおおおッ!!」


 俺は弾き返されたスレアに向かってエネルギーショットガンを投げ捨て、両腕から紫電を纏った高密度の重力エネルギーブレードを展開した。


 そこからは、人間の動体視力を置き去りにした、神速の近接戦闘だった。


 空間を跳躍し、上下左右のあらゆる死角から蒼い刃を突き立ててくるスレア。


 対する俺は、自身にかかる重力を極限まで軽くして機体を羽のように舞わせ、時にはデブリの重力を操作して盾にし、紫の刃でその斬撃を真正面から弾き返す。


水色と紫の閃光が、星の海で無数に交錯する。

 剣戟が交わるたびに、互いの魂の叫びがリンクを通じて流れ込んでくる。


『どうして! 感情なんてバグを持っていれば、いつか兄さんは戦場で迷って死んでしまう! 失いたくないから……心を殺して兵器になってってお願いしてるのに!』


 それは、兵器の仮面の下に隠された、ただの「妹」の痛切な叫びだった。

 純粋な兵器になれという強要は、優しすぎる俺の死を誰よりも恐れるがゆえの、ひどく不器用で悲しい『祈り』だったのだ。


「分かってる、スレア! お前が俺を守ろうとしてくれてることは!」


 俺は重力推進を最大に絞り、空間跳躍の出現位置を先読みして、紫の彗星となって突進した。


「でも、心を殺して部品として生き延びたって意味はない! 人間として誰かを想う心こそが、お前を守り抜く本当の強さになるんだッ!」


 スペルチオが空間の裂け目から姿を現した瞬間。


 互いに限界を超えた機体が、最後の一撃を振り被る。


 彼女の空間を断裂させる蒼い刃と、俺の重力を叩き潰す紫の刃が、真正面から激突した。


(ガァァァァァァァァァァンッ!!)


 光が、すべてを白く染め上げた。

 二つの極限の力がぶつかり合ったことで空間が弾け飛び、二機は互いにシールドを完全に喪失して、錐揉み回転しながら宇宙空間へと吹き飛ばされた。


 ……ピー、ピー、ピー。


 耳を劈くアラートが鳴り響く中、俺は荒い息を吐き、血を流しながらモニターを見た。


 バルパレスは機体各部からスパークが散り、操縦桿は完全に沈黙している。対するスペルチオもまた、右腕を半壊させ、宇宙空間に力なく漂っていた。

 

 物理的な勝敗はつかなかった。


 俺の想いも、彼女の願いも、平行線のまま交わることはなかった。


 だが、互いの「想いの強さ」だけは、痛いほどに伝わっていた。ただの兵器のシミュレーションでは絶対に発生しない、生身の魂と魂のぶつかり合い。


『……そこまでだ。両機とも、シールドロストを確認。実戦レベルの出力テストはクリアとする』


 教官の通信が、俺たちの間に降りた熱を強制的に冷ましていく。


『機体を回収・修復次第、アースニアへの降下作戦を開始する。』


 俺は動かなくなった操縦桿を、血に濡れた手で力強く握りしめた。


 分かり合えないまま、俺たちは最前線へと向かう。


 だが、俺はもう迷わない。人間として、あの星でジンの夢を守り抜く。そしていつか必ず生き延びて、スレアに「心を持って生きる美しさ」を証明してみせる。


 だが、この時の俺はまだ知る由もなかったのだ。

 人間として生きようとした俺のその純粋な決意が。

 降り立ったアースニアの血塗られた大地で、俺自身を最も残酷に打ち砕く『呪い』へと変わるということを。

挿絵入れたかったのですがロボット同士のバトルシーンが破綻が多くかなり苦戦しています……追加するならコックピットのシーンになりそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ