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ヴェリタスの最終定理1:魔導士エラーラ・ヴェリタスの日常【改修中】【2位】  作者: .
【エクストリーム人生論シリーズ】魔法が存在する世界の一般常識について!

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第2話:狂いの街角(2)

現場は、王都三番街の、安アパートだった。

すでに警官隊が周囲を固め、野次馬どもが遠巻きに事の成り行きを見守っている。


『犯人に告ぐ! 人質を解放し、大人しく投降しろ!』


拡声器を通したカレル警部の声が、緊迫した空気に響き渡る。


「警部!」


「おお、カザマか。……と、イヌカイ! 遅いぞ! ……それと、エラーラ。」


カレル警部が、俺たちの姿を認め、眉間に深いシワを寄せた。


「いやぁ、カレル君! 面白そうな『実験』が始まったと聞いてね! 私も参加させてもらうよ!」


「実験じゃあない!事件だ!」


「ヒヒヒ。警部、で? 状況は?」


イヌカイが、鼻を鳴らしながら尋ねた。


「犯人は、アパートの302号室に立てこもっている。名前はタケダ。無職だ。人質は、別れた妻と、その間の子供らしい。要求は……どうも、妙なんだ」


「妙?」


「ああ。タケダのヤツ、さっきから『犬を食った刑事を出せ』と、そればかり……」


カレル警部が、チラリとイヌカイを見た。

俺は、ハッとした。


「ま、まさか……」


「そうだ。カザマ、お前がイヌカイを確保した場所。……このアパートの目と鼻の先だ」


イヌカイが、焚き火をして犬を食っていた、あの場所。

あれは、この立てこもり犯・タケダの自宅の前だったのだ。


「……あァ? つまり、アレか? 俺が、アイツが探していた『飼い犬』を食っちまったってことか?」


イヌカイが、ようやく事態を呑み込んだ、という顔でぼやいた。


「そのようだ。タケダは、窓からお前の蛮行を見て、逆上した……と、そういうワケだ」


「ヒヒヒ……。チッ、ツイてねぇ。アイツの犬だったか。道理で、脂の乗りがイマイチだと思ったぜ。今から『死体(のこり)』を返しに行くか……?」


「テメェは反省する気がゼロか!」


俺が怒鳴ると、イヌカイは面倒くさそうに耳を掻いた。


「……しゃあねぇな。俺の不始末で起きた事件なら、俺が『ケジメ』をつけなきゃならねぇ」


イヌカイはそう言うと、カレル警部の制止を振り切り、アパートの入口に向かって、ノシノシと歩き出し、アパートの真下で立ち止まると、302号室の窓を見上げ、野獣の咆哮のようなダミ声で叫んだ。


「オイコラァ! タケダァ! 聞こえてんだろォ! 俺だ! さっきテメェの犬を焼いて平らげたモンだ!」


窓がピシャリと開き、タケダが顔を出した。血走った目で、魔導銃をこちらに向けている。


『テメェ……! テメェだな! ポチを! 俺のポチをよくも! 許さねぇぞ!』


「あァ? ポチ?テメェは、ステーキにいちいち名前をつけてるのか?ま、どうでもいい!不味い犬を出したテメェを、今からぶちのめす!自分から殴られに、下に降りてこい!」


イヌカイは、懐からドス黒い何かを取り出した。

それは、何本もの指が束になった、気色の悪い「塊」だった。


「タケダよォ?確かに、テメェの犬は、不味かった。あんな犬を客に出す店は、潰れて当然なんだ。だが、さっきは……悪かったな。テメェの犬とは知らずに焼いちまった俺にも、わずかに非はある。」


『バカかテメェは!お前が全部悪いだろ!それに!俺は昔は建築家だった!俺は犬の肉を出す店なんか開いたことは、ない!』


「ああ、木こりか?……だが、それはどうでもいい!今から俺は、この通り、詫びを入れさせてもらう!」


イヌカイはそう言うと、持っていたソレを、アスファルトに叩きつけた。

ビチャッ、と湿った音が響く。

俺は、目を疑った。

それは、人間の――指だった。

しかも、一本や二本じゃねぇ。

何本も、何本も。まるで、どこかの組の「落とし前」をまとめて引き受けてきたみてぇに、ゴロゴロと転がっている。全部で十本以上はありそうだ。


「……おい、イヌカイ……」


俺の声は、震えていた。

イヌカイは、タケダに向かって、ニヤリと笑った。


「こいつはよォ、俺の仲間の刑事の指だ。俺がさっき、テメェに迷惑かけた『お詫び』に、さっき、詰めさせてきた」


『……は?』


タケダも、俺たちも、イヌカイの言っている意味が分からなかった。


「だからよォ! 俺がテメェの犬を食った! その『ケジメ』として! 俺は、俺の仲間の指を詰めた! これで、文句はねぇだろ!おあいこだ! ……さっさと人質を解放しろや、コラァ!」


『狂って』やがる。


コイツの頭は、完全に、イカれてやがる。


「……ほぅ」


ただ一人、エラーラだけが、腕を組み、真剣な眼差しで、その狂気の「交渉」を観察していた。


「……『代替による贖罪』。しかも、その『代替コスト』が、対象とまるで無関係な第三者の身体だと? フム……実に、興味深い!」


エラーラのハスキーな声が、妙に現場に響いた。


『ふ、ふッざけるな! 俺のポチは帰ってこねぇんだぞ! 仲間の指だか知らねぇが、そんなモンいらねえんだよ!』


タケダが激昂して叫ぶ。その声は、悲しみよりも、目の前の狂気に圧倒された恐怖で震えている。


「あァ!? テメェ、まだ文句があんのか!なるほど?指の本数が足りねぇって言うのか!」


イヌカイは、心底ムカついた、という顔で、地面に転がった指を蹴り飛ばした。指は放物線を描き、野次馬の一人の額にベチャリと張り付いた。野次馬は白目を剥いて卒倒した。


「……分かったよ。テメェがそこまで言うなら、分かった。俺が悪かった」


イヌカイは、不気味なほど穏やかな声で言うと、ふらり、とアパートの影に消えた。

その背中は、次に何を食うか品定めしている獣そのものだった。


「おい、イヌカイ!? どこへ行く!」


カレル警部が叫ぶが、返事はない。


そして、数分後。

イヌカイは、戻ってきた。

その手に、腰の抜けた老人夫婦を引きずって。

二人はガタガタと震えている。


「……あ……?」


アパートの窓から、タケダの掠れた声が漏れた。


『……父さん? ……母さん?』


イヌカイが連れてきたのは、タケダの両親だった。

どうやら、このアパートの一階に住んでいたらしい。


「よォ、タケダ。テメェの親だ。……こいつらにも、『詫び』を入れてもらおうか」


イヌカイは、そう言うと、タケダの父親の頭を、何の躊躇いもなく、ぽかぽかと殴りつけた。

タケダの父親がよろめいた。

母親が、声にならない悲鳴を上げた。


『や、やめろ……! やめてくれ!』


アパートの窓から、タケダの絶叫が飛ぶ。


「あァ? いま何て?……早く降りてこい!」


イヌカイは、父親を突き飛ばし、背中を踏みつけた。

その靴の裏には、さっきの犬の脂がまだベットリと付いている。


「さっきの指じゃ、気が済まねぇんだろ? そうなんだろ?そ!う!いっ!た!よ!な!……タケダよォ。だから、今度はテメェの親に『詫び』てもらう。……そうだ。指だ。指が足りねぇんだったな?そうだな?」


イヌカイは、タケダの母親の腕を掴むと、その手をアスファルトに押さえつけた。


「おい、カザマ。そこの石、拾え」


「……なっ」


「早くしろや!今からこの女の指、潰すんだよ。タケダは、指のステーキが食いたいらしい。」


「?……?…ふざけるな! テメェそれでも警官か!」


俺が吼えると、イヌカイは舌打ちした。


「使えねぇなあ。……おい、カレル警部! カザマが命令違反だ! こいつの指も切り落としていいか?」


「貴様ッ! いい加減にしろ、イヌカイ!前々から思っていたが、お前の頭は……おかしいぞ!」


カレル警部がようやくイヌカイの異常性に気がつき、魔導銃を向ける。だが、イヌカイは意に介さない。この狂犬には、ボスもクソもねぇ。


『わ、分かった! 分かったから! 止めてくれ!』


タケダが泣き叫んでいる。


「……お? やっと話が通じたか」


イヌカイが、汚ぇ顔をニヤリと歪めた。


『指……指なんだろ? さっきの刑事の指、アンタ、本当に詰めたのか?』


タケダが、震える声で尋ねた。

狂気に呑まれ始めている。自分の犬の死よりも、目の前の「指」のことで頭がいっぱいになっている。

イヌカイは、待ってましたとばかりに、アスファルトに転がった指の束を指差した。


「当たり前だろうが。ほら、見ろよ、コイツを。美味しいぞぉ?な、食うか?」


『……え?』


「俺の仲間の刑事はよォ、なんと……指が十本しかねぇんだ。……だのによォ」


イヌカイは、地面に転がった、十本以上はありそうな指の群れを、悲痛な表情で、いや、明らかに作った顔で、涙を浮かべながら、見つめた。


「テメェが! テメェがよォ! 『詫びが足りねぇ』だのとゴチャゴチャゴチャゴチャ言うからよォ! あいつら、とうとう指が全部なくなっちまったじゃねぇか!」


『……は?』


「お前、どうしてくれんだ!コラァ!!」


イヌカイの、理不尽極まりない怒号が響き渡った。


「あいつらはもう、魔導銃の引き金も引けねぇ! 珈琲カップも持てねぇ! ……全部、全部、テメェのせいだ、タケダァアアア!!」


『い、いや、俺は……俺は、そんなこと……俺は何も言ってない……』


タケダは完全に混乱していた。

犬を食われた悲しみが、目の前の「指が多すぎる」という超常的な狂気によって上書きされていく。


「フム……?なるほど。罪悪感の『転嫁』か。加害者と被害者の立場を、強引な論理の飛躍で逆転させ、相手の思考を停止させる……。荒っぽいが、有効な『精神汚染系魔法』の一種とも言えるな。」


エラーラが、白衣のポケットからメモ帳を取り出し、何かを猛烈な勢いで書き込んでいる。あんた、ホントに何しに来たんだ。


「さあ、どうする、タケダ! 指のねぇ仲間の代わりに、テメェの親の指も全て詰めるか? あァ?」


イヌカイが、タケダの母親の手に、魔導銃の銃口を押し当てた。


『や……やめろぉぉぉぉぉっ!!』


その瞬間。

タケダが、アパートの部屋から飛び出してきた。

手には魔導銃。

その顔は、怒りか、悲しみか、恐怖か、それとも混乱か。もはや判別もつかねぇ、グチャグチャの表情だ。


「待ってたぜ。」


イヌカイは、待ち構えていた。

タケダが、階段を駆け下り、アスファルトに足を踏み入れた、その瞬間。

乾いた発砲音が、一発。

タケダの眉間に、小さな穴が開いた。

タケダは、何が起きたか分からねぇ、という顔で、ゆっくりと、スローモーションのように、仰向けに倒れた。

即死だった。


「…………」


現場が、静まり返る。

人質だった妻子が、部屋から飛び出してきて、タケダの亡骸にすがって泣き叫ぶ。

タケダの両親も、腰を抜かしたまま、声も出ない。

イヌカイは、魔導銃から立ちのぼる硝煙の匂いを、美味そうに吸い込むと、


「……あー、胸クソ悪ぃ」


と、吐き捨てた。


「イヌカイ……貴様……!」


カレル警部が、怒りに肩を震わせる。


「『魔術で、木の葉を指と誤認した犯人が、人質を連れて飛び出してきて、抵抗したため、やむを得ず射殺』。俺の判断に、法律上の一切の間違いはない。ま、報告書は、それで頼みますぜ。ヒヒヒ」


「て、テメェはッ!」


カレル警部がイヌカイに掴みかかろうとした、その時だった。


「いやぁ! 素晴らしい!実に素晴らしい『サンプル』だった!」


場違いな、弾んだ声。

エラーラ・ヴェリタスが、目を輝かせながら、倒れたタケダに近づいていく。


「おい、エラーラさんよ!近寄るな!」


「カザマ君。心配はいらんよ。……フム。確かに、脳幹は完全に破壊されている。生命活動は停止しているね!……よし!」


エラーラは、タケダの亡骸の横にしゃがみ込むと、白衣のポケットから、今度は小さな小瓶を取り出した。


「……何を……?」


「見ていたまえよ。これから、この世界で最も難解な魔法を披露しよう。」


エラーラはそう言うと、小瓶の中身、水銀のような液体を、タケダの眉間の穴に、躊躇いなく注ぎ込んだ。

そして、彼女は、タケダの胸に手を置き、ハスキーな声で、何か難解な古の言語を詠唱し始めた。

彼女の手が、淡い黄金色の光を放つ。

すると、信じられないことが起きた。

タケダの眉間の穴が、まるで時間が巻き戻るかのように、スルスルと塞がっていく。

死の灰色に染まっていた肌に、血の気が戻り始める。

そして、


「……ゴボッ」


タケダの喉が、鳴った。


「……ん……? あ……?」


タケダが、ゆっくりと目を開けた。


「「「「ひっ……!?」」」」


周囲の警官たちが、腰を抜かす。泣き叫んでいた妻子も、両親も、目の前の光景が理解できず、口をパクパクさせている。


「う、うおおお! 私は! 死んだはずじゃ……!?」


タケダが、勢いよく跳ね起きた。


「やはり私の理論は間違っていなかった! 『魂の定着理論』は完成したぞ!」


エラーラは、ガッツポーズを取り、子供のようにはしゃいでいる。


「……バケモノが……」


俺の口から、思わず本音が漏れた。

最強の魔法使い。その力は、とうとう、神の領域にまで踏み込んでやがる。


「……チッ。面倒なことしやがって」


唯一、イヌカイだけが、舌打ちしていた。


「……よし。タケダ。貴様は、人質を取って立てこもった容疑で逮捕する」


カレル警部が、我に返り、生き返ったばかりのタケダに手錠をかけた。

タケダは、何が何やら分からない、という顔で、大人しく連行されようとしていた。

事件は、一応の「解決」を見た。

いや、解決と呼んでいいのか、コレは。


イヌカイが、俺の横にフラフラと歩み寄ってきた。


「……おい、カザマ。さっきは悪かったな」


「……あ?」


イヌカイが、謝っただと?


「いや、テメェの親の指を潰そうとしたことだよ」


「俺の親じゃねぇ! タケダの親だ!」


「ああ、そうか。……どっちでもいいが……。だが、俺も男だ。これを返そう……」


イヌカイは、そう言うと、急に顔を青ざめさせ、その場に屈み込んだ。


「おえ……っ。ウゲェェェッ!!」


イヌカイは、アスファルトの上に、今日の昼間、腹に収めたモノを、盛大にブチまけた。

それは、まごうことなき、消化されかけた「犬」の残骸だった。


「う……」


俺も、さすがに吐き気を催す。


「おやおや?」


そこへ、エラーラが近づいてきた。

彼女は、イヌカイが吐き出した吐瀉物を、興味深そうにジッと見つめている。


「……なるほど!生命の『残滓』が、まだ色濃く残っているね!」


「な、何を言って……」


俺が言い終わる前に、エラーラは、その吐瀉物に向かって、スッと手をかざした。


「『回帰』したまえよね。君も。」


光は、ない。

詠唱も、ない。


だが、ソレは、動いた。

グチャグチャだった吐瀉物が、まるで粘土細工のように、意志を持ったかのように、ムクムクと隆起し始めた。

肉が形を成し、骨が組み立ち、皮がそれを覆っていく。


「……おい、うそだろ……」


数秒後。

アスファルトの上には、一匹のマルチーズだかポメラニアンだかが、キョトンとした顔で座っていた。


「ワンワン…」


手配書で見た、あの「ポチ」だった。


「……あ……ポチ……?」


連行されかけていたタケダが、その光景を見て、呆然と呟いた。


「そう。ワンワン……とでも言っておこうか。」


ポチは、やおら、その場でスッと立ち上がった。

……二本の、後ろ足で。


「……はあ?」


俺は、目を擦った。

犬が、二足歩行をしている。

それも、妙に堂に入った、人間のような歩き方で。

犬──ポチは、トコトコと手錠をかけられたタケダの元へ歩み寄ると、その顔をジッと見上げた。


そして、その小さな口から、信じられない言葉が飛び出した。

それは、どこかの組のチンピラみてぇな、ドスの効いた声だった。


「で、タケダ。てめぇ、こんなところで一体全体、なぁに、大ポカしてんだァ?」


『え?…ポ、ポチ……? え……?』


タケダは、自分の耳を疑った。


「俺様が、あの野獣の胃袋(ナカ)で焼かれた痛みに比べりゃあ、てめぇの悩みなんざ鼻クソ以下だ。いいか、タケダ?お前さん、ちと堪え性が足りねんだよ」


犬は、二本足で仁王立ちになり、タケダの脛を前足でパンパンと叩いた。


「俺は、スラムで迷子になった。こんなところで迷子になったら、すかさず乞食どものランチになるってもんだ。だから、イヌカイのおっさんは、あえて俺を食って、胃袋の中に入れて、俺を保護していたんだ。テメェのチンケな脳みそじゃあ、そんなこと、考えもつくわけねぇか。……まあ、さっさと、こんなところで落とし前つけて、娑婆(シャバ)でカタギとしてやり直しやがれ。てめぇの嫁さんもガキも、みいんなてめぇを泣いてんぞ。次にヘマしたら、今度こそ俺様が、てめぇの指から食ったるからな。分かったか、ゴラ?」


『は、はいぃぃっ!』


タケダは、二足歩行の犬に向かって、深々と頭を下げた。

ポチは、満足そうに一つ頷くと、クルリと背を向けた。

そうして、二本の足で、背筋をピンと伸ばし、堂々とした足取りで、夕暮れの街の雑踏の中へと消えていった。


「…………」


俺もカレル警部も、連行されていたタケダも、全員が呆然と犬が消えた方角を見つめていた。

その時、俺の隣で、異変が起きた。


「ひ……っ。ひぃ……っ!」


エラーラが、ガタガタと震え出していた。

あの、死者蘇生すらやってのけた最強の魔法使いが、顔面蒼白になっている。


「……な、なんだ、あの『現象』は!? 『蘇生術』に、こんな『副次効果』はプログラムされていない! 『二足歩行』!? 『言語機能の獲得』!? しかも、まず、しかも……大体、あの『人格』は、一体どこから来た!?」


エラーラは、自分の頭を抱え、その場にうずくまった。


彼女は、どうやら「理解できないモノ」「理論で説明できないモノ」が、何よりも怖いらしい。

最強の魔法使いの、意外すぎる弱点だった。

俺が、その狂乱ぶりにどう対応したものかと悩んでいると、横から、別の異音が聞こえてきた。


バリバリ……ゴリッ……。


「……ん?」


視線を向けると、そこには、イヌカイがいた。

エラーラが震えている、そのすぐ横で。


「……お前、腹減んないか?……」


イヌカイは、そう呟くと、どこからともなく飛んできた一羽の鳩を、手づかみで捕獲していた。

そして、躊躇いなく、その鳩の胴に、生(き)のまま、齧りついた。


「やっぱし酔っ払いのゲロを食ったハト畜生は、生が美味いぜ……!『羽』の歯ごたえが、まさに、たまんねぇ……」


血と羽毛を口の周りにベッタリと付け、恍惚と鳩を食らう野獣刑事。

その横で、「秩序が!」と泣き叫きながら震える魔法使い。


「……さて。カザマ君?」


泣きじゃくるエラーラが、涙目で俺を見上げた。


「署に戻ったら、珈琲でも淹れてくれたまえよ。今日は、朝から邪魔が入って、まだ一口も飲んでいないんでね……!」

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