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ヴェリタスの最終定理 PART1/エラーラ・ヴェリタス  作者: Wan Liyue
●第1章:主人公の消滅

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第3話:主人公の消滅(2)

王都は、僕の創り出した芸術によって完璧に支配されていた。

カレル警部は、僕という「最高の助手」を得て、存在しない犯人の尻尾を必死で追い続けている。実に滑稽だ。

だが、僕は、退屈し始めていた。

ただ一人ずつチマチマと殺す。こんなものはもう「芸術」とは呼べない。「作業」だ。

僕は、もっと大きなキャンバスが欲しかった。

もっと、壮大な「作品」を創りたかった。

その「インスピレーション」は、思いがけない場所から、もたらされた。


「……カレルさん。ここは?」


警察の地下保管庫。

カレル警部は、僕を、ある特別な区画へ連れて行った。


「エラーラ君の遺品だ。……例の『怪物』の襲撃の後、研究室の残骸から、かろうじて回収できた、いくつかの研究資料だ」


そこには、焼け焦げたノートやひび割れた魔導水晶が並んでいた。


「先生は、何を研究していたんですか?」


「……わからん。ほとんどが暗号化されている。だが、我々の解析によれば、どうやら『魂』そのものの構造について、研究していたらしい」


カレル警部は、ため息をついた。


「『魂の共鳴』、『魂魄増幅』……。我々には理解が及ばんよ」


その言葉を聞いた瞬間、僕の脳髄を電撃のような「歓喜」が貫いた。

これだ。

これこそが、僕の「芸術」に欠けていた、最後のピースだ。

肉体を壊すだけでは、三流だ。

魂そのものをキャンバスにする。

その夜。

僕は、カレルの書斎から鍵を盗み出し、警察の保管庫に忍び込んだ。

エラーラの遺品。その焼け焦げたノートを、僕は、貪るように読み始めた。


(素晴らしい!なんて天才だ、エラーラ・ヴェリタス!)


彼女の理論は、こうだ。


『魂は、固有の周波数を持つエネルギーである』


『特定の触媒と増幅器を用いれば、一つの魂の『感情』を他の魂に、強制的に『共鳴』させることが可能である』


僕は、もう一つの遺品に手を伸ばした。

それは、厳重に封印された、小さな黒い箱。

中には、ビー玉ほどの大きさの、黒く、しかし、虹色に輝く、美しい「結晶」が一つ入っていた。

ノートの最後のページに、走り書きがあった。


『観測失敗。私の魔力が高密度すぎた。暴走。封印。これは使ってはいけない。『力の断片』だ』


僕は恍惚として、その結晶をつまみ上げた。

これが、触媒。

エラーラの研究ノートが、教科書。

そしてこの王都全体が、僕の……キャンバスだ。

僕の「芸術」は、進化した。

僕は、カレル警部に、こう進言した。


「カレルさん。ヴォイド・カーヴァーは、次に、王都の『秩序』そのものを、狙うかもしれません」


「秩序?」


「はい。例えば……王都の『魔力供給炉』です。あそこを破壊されれば、王都は、機能不全に陥る」


「……ッ! ありえる!」


カレル警部は、僕の「天才的」な予測に基づき、王都の地下深深くにある古代魔導炉の警備を強化した。

もちろん、それが僕の「狙い」だった。

僕は、警備の「視察」という名目で、カレル警部と共に魔導炉の中枢へと足を踏み入れた。


魔導炉は、この街全体の魔力を集積して増幅させる、巨大な「アンプ」そのものだった。

僕は、カレル警部が部下と話しているわずかな隙に、懐から、エラーラの『力の断片』を取り出し、魔導炉の冷却水の流れの中にそっと落とした。

結晶は瞬時に、魔力の奔流に溶けて消えた。


街は変わった。

最初は、誰も気づかなかった。

人々は、ほんの少しだけ「感情的」になった。

酒場での口論が殴り合いに発展する率が、30%増加した。

恋人たちの痴話喧嘩が、広場での絶叫合戦になった。

人々は怒りっぽくなり、そして何よりも、「恐怖」に敏感になった。


「隣の家から悲鳴が聞こえた!」(実際は夫婦喧嘩)


「広場に怪しい花弁が!」(実際はただの花)


街は、エラーラの「力の断片」によって増幅された「恐怖」の感情に支配され始めた。

そして僕はその「恐怖」に、最後の「芸術」を加えた。

僕は、僕が殺した司教や衛兵たちの死体を使い、エラーラのノートにあった「禁断の魔術」を実行した。

「死体の再構築」。

僕は王都の中央広場で、僕の最高傑作を公開した。

それは、夜明けと共に現れた。

広場の中央に、それは、そびえ立っていた。

デミトリ、バルト、司教、衛兵たち……僕が殺した全ての「作品」が、まるで悪夢のパッチワークのように縫合され、一つの、巨大な冒涜的な「オブジェ」として組み上げられていた。

バルトの鎧は、デミトリの肉を詰め込まれ。

司教の法衣は、衛兵たちの骨で飾られ。

その頂点には、エラーラ・ヴェリタスの、あの「白衣」が、血染めの旗のように掲げられていた。

王都は、絶叫した。

「恐怖」の感情は、「力の断片」と「魔導炉」によって無限に増幅され、共鳴し、街全体を、一つの巨大な「発狂体」へと変貌させた。

人々は、狂った。


「怪物が!怪物が街の中に!」


「エラーラ先生の亡霊だ!」


「殺せ!殺される前に、殺せ!」


隣人が隣人を怪物と見間違え、殴り殺す。

衛兵が市民を化け物と誤認し、斬り捨てる。

王都は、僕が仕掛けた「恐怖の共鳴」によって内側から自滅し始めたのだ。


『ああ、美しい!これだ!これこそが僕の芸術だ!』


僕は、燃え盛る王都の教会の鐘楼の上から、その「地獄絵図」を恍惚として見下ろしていた。

カレル警部が、血まみれで僕を探していた。


「タイガ君!どこだ!タイガ君!」


僕は、彼の前に、ゆっくりと舞い降りた。


「……カレルさん」


「タイガ君!無事だったか! よかった……!さあ、逃げるぞ! この街はもう、終わりだ!」


「終わり?」


僕は、首を傾げた。


「違うよ、カレルさん。……『始まった』んだ」


「……え?」


僕は懐から、あの「水晶のロッド」を取り出した。

エラーラの血が、まだ、こびりついている。


「信頼は、警戒心を完全にゼロにする。この仮説はすでにエラーラ先生の死によって実証済みですが……あなたでも見事に証明されました」


カレル警部の顔が、恐怖と、絶望と、そして、最後の「理解」に歪んでいく。


「……タイガ君……まさか、エラーラ先生を……?」


「フム」


僕は、ロッドを振りかぶった。

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