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ヴェリタスの最終定理1:魔導士エラーラ・ヴェリタスの日常【改修中】【2位】  作者: .
短編RE:地獄の雪山から令嬢を救出せよ!【ホラー】

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第3話RE:救援隊を惨殺した令嬢!

私は、ゆっくりと立ち上がった。


(お前たちの死を、無駄にはしない)


その言葉は、本心なのか。

あるいは、自分を動かすための呪文なのか。

私には、もう、分からなかった。


山頂付近。

そこは、ヌル・フィールドの震源地。

空気が澄み切り、魔力の気配が完全にゼロの世界だった。

私は、最後の力を振り絞り、信号が示す氷の洞窟へとたどり着いた。


「フム、これかね?」


洞窟の入り口には、先行隊のものらしき、凍りついたテントの残骸と、風化した装備が散乱していた。

そして、その奥。

何人もの凍死体が、折り重なっていた。

さらに奥へと進む。


その時、私の「眼」が、ありえないものを捉えた!


魔力がゼロの、この空間で、明らかに「魔力」によって維持されている、異常な空間の歪み!


洞窟の最奥!


そこには、この世の物とは思えない……白銀に輝く、滑らかなドーム型の「魔導テント」が、静かに鎮座していた……!


外の地獄とは無関係に、それは、暖かな空気を周囲に撒き散らしていた!


中に、彼女はいた。

令嬢、ミラ。

彼女は、ふかふかとした毛皮の寝袋にくるまり、湯気の立つスープを飲みながら、優雅に寛いでいた。

枕元には、「観測ロガー」が、無造作に転がっている。


「…あら?」


ミラが、スープのカップを置き、私を見上げた。

その瞳には、何の感情も浮かんでいない。


「どちら様ですの?人のテントを勝手に開けるなんて、無作法ですわ」


その瞬間、それまで静かだった山の天候が、再び牙を剥いた。

凄まじいブリザードが、洞窟の入り口から吹き込んでくる。

私は、テントの中へと一歩踏み出した。


「救助隊だ。吹雪が止むまで、中に入れたまえ」


「嫌ですわ」


ミラは即答した。


「汚いから。第一あなたは誰ですの?……ああ……見るからに、下賤の民の匂いがしますわね。私は伯爵の娘ですわ。ですから、私の自由を侵害する権利は、あなたにはありません」


「私は、君の父であるヴァルトハイム伯爵の依頼で来た救助隊だ。だから……」


「ああ……」


ミラは、心の底から面倒くさそうに頷いた。


「あの役立たずたちのお友達ですの?……まあ、よろしいでしょう。入りたければ、どうぞ。ただし」


彼女は、テントの入り口を指差した。


「そこの隅で、私に触れず、私と同じ空気を吸わないように、息を潜めていなさいな」


私は、その指示された「隅」に、崩れ落ちるように座り込んだ。

テントの中は、異常なほど快適だった。

外の地獄が、まるで嘘のように、暖かく、静かだった。


「まったく、父も心配性ですわ。この『魔道テント』さえあれば魔力も熱も食事も完璧なのに。わざわざ役立たずを寄越すなんて」


「まて!『魔道』だと!……妙だねえ。なぜ、ヌル・フィールドで機能するんだい?」


「あら、ご存じないの?」


ミラは、私を笑った。


「これは、ヌル・フィールドに発生している『魔力停止』という逆位相のエネルギーを更に反転させて動く、魔導規制局の試作品ですのよ!」


「なるほど。……それで?」


ミラは、私を、まるで召使いのように見下ろした。


「それでって……。あなた、命令されないと何もできない、本物の役立たずなのですね?では、私のためにお茶でも淹れてちょうだい。茶葉がなかったら、今から街へ行って買ってらっしゃいな」


「…………」


私は、動かなかった。


「無視ですの?……お父様に言いつけますわよ?」


ミラは、不快そうに眉をひそめた。


「外にいる役立たずたち。彼らは怖い獣が来るとか言って、私をこのテントに押し込んで、自分たちだけ逃げ出したのよ。本当に、本当に、役立たずばかり」


「…………」


「あなたも、どうせ、同じように仲間を見捨てて、自分さえ良ければと、仲間を見捨てて生き残ってきたのでしょう?」


ミラは、残酷なほど無邪気に、確信を持って言った。


「汚らわしい。卑怯者。そんな人間、いっそ、死んじゃえばいいのよ」


パァン!


乾いた音が、快適なテントの中に響き渡った。

私の鉄拳が、ミラの頬を打ち抜いていた。


「……え?」


少女は、何が起きたか分からず、その場に崩れ落ちた。

スープがこぼれ、高価な毛皮を汚す。


「フフフ……。君は今、『死ね』と言ったようだが……間違いないかね?……先行隊は、逃げたのではないよ。君をこのテントに避難させて、自分たちは『囮』になるために外に出て、君を守るために、あの洞窟の入り口で、必死で、獣の群れと戦い抜いて、そうして凍死したんだ。……わからないのかい?」


「はああああ?あのガイドたちは、自分でその仕事をしたくてしたのでしょう?自己責任ですわ!」


「フム?…………やかましいんだよッ!!!!」


私の声が、激昂で震える。


「君を助けるために私の来たあの3人の女たちも!あの女たちが、どれだけ必死に戦い、そして、どれだけ惨たらしく……獣に食われたか!」


私はミラの胸ぐらを掴み、無理やり引き起こした。


「君は何も知らないで!何も感じないで!高台に座り込んで……そうしてスープを飲んでいた!なんだ君は!なんなんだよ君は!」


「は、離して……!」


「『死ね』だと?ならばともに死のうじゃないか!消滅魔法を、今ここで喰らわせてしまうぞ!」


ミラは頬を押さえ、生まれて初めての痛みと恐怖……ではなく、なんと、激しい憎悪に顔を歪めた!


「よくも叩いたわね!この下賤の民!あのガイドたちが死んだ?当たり前ですわ!それが奴らの『仕事』でしょう!あの女たちが獣に食われた?それは奴らが『弱かった』からですわ!下賤の民は、自分たちの都合の悪いことを、すぐ、上流階級の責任と言う!あなた方には責任感というものがないのですか?何故、守ってもらって当然という態度しか取れないのですか?そんな破廉恥な生物(いきもの)は、死んで当然ですわ!むしろ、私を守る盾として食い殺されたのですから、光栄に思うべきですわ!恥を知りなさい!!!!」


「…………?」


私は言葉を失った。

会話が成立しない。

救いがない。

このサンプルは、修復不可能なレベルで、致命的に「壊れている」。


ミラは、憎悪の瞳で私を睨みつけた!


「あなたも同じ!私を助けに来たですって?何を……!?……いったいなんてことを言うのですか!あなたたちは、私たち『貴族』の金が欲しいだけの、ただの……汚い『悪人』じゃないの!出てけ!私の『聖域』から出ていけ!出ていけ!!!!…… そうして、獣に食われて死ねばいい!私は……あなた方のような卑劣で卑怯な蛮族が……のうのうと、この、美しい王都に生きていること自体が……悲しいッ!!!!」


ミラは、大粒の涙をその目に浮かべ、心の底から私を憐み、泣き出した!


私は、掴んでいた手を、ゆっくりと離した。


激昂は、急速に冷却していく。


残ったのは、ブリザードよりも冷たい……虚無だった。


「……なるほど?それならもういい!了解した!すまなかったね!………………!……」


吹雪は、丸一日続いた。

一言も、交わさなかった。

やがて、風が止む。

ミラは、何事もなかったかのように、手際よく『聖域テント』を畳み、小さなカプセルに収納した。


「行きますわよ、下賤の者。私を父の元へ送り届けなさい。それがあなたの『仕事』でしょう?」


「フム!そうだね!」


私は立ち上がった。

下山は、順調だった。

我々は、互いの憎悪とは無関係に、生存のためだけに、その知性を機能させた。


「さあさあ!そこは雪崩の危険地帯だ!左に避けたまえ!」


私が斜面を指差す。


「ええ。分かってますわ。私の計算でも、そこの傾斜角は危険ですもの」


迫り来る雪崩の危険地帯を避け、崩落する氷橋を回避し、そして生還した。


ヴァルトハイム伯爵が、娘のミラを抱きしめる。


「おお、ミラ!私の天使よ!無事だったか!」


「ええ。ですが、この下賤の者が……」


その時、町の住民たちが、もう一人の生還者である私を取り囲んだ。


「エラーラさん!あの3人は!?」


「あの屈強なブリギッタさんたちは、一体!?」


(…真実を、説明するか?あの女たちが、令嬢レティシアを巡って狂っていたと?そして、醜く殺し合い、雪崩に巻き込まれ、獣に食われたと?)


私は集まった人々を見回し、いつもの調子で、平坦に言った。


「フム……任務『は』完了した。3人は、最期まで立派に戦い抜いた」


嘘は言っていない。

私の言葉を聞き、人々は察した。


「そうか。あの3人はミラ様を庇って……」


「なんと立派な最期だ!」


「フロストガルドの英雄だ!」


私は、彼女たちの勝手な解釈を……訂正しなかった。

私は「英雄」たちの名誉を守った。

観測ロガーのデータは、ミラが退屈しのぎに上書きした、意味不明な愚痴と、彼女の写真で汚染されていたが、そんなことはもはや、どうでもよかった。


「フフフ……!この町のコーヒーは、味がしないね……」


私は、この救いのない町を、一刻も早く立ち去る準備を始めた。

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