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ヴェリタスの最終定理1:魔導士エラーラ・ヴェリタスの日常【改修中】【2位】  作者: .
短編RE:地獄の雪山から令嬢を救出せよ!【ホラー】

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第2話RE:白の屠殺場は赤に染まった!

氷牙のウルフェン。

その名は、この極寒の地に伝わる最悪の捕食者を意味していた。


「ブリギッタさん。あの足跡……」


捻挫した足を引きずりながら、カサンドラが青ざめた顔で報告する。


「獲物を求めて、谷底から上がってきたんだ!」


ブリギッタは、リーダーとしての威厳を必死で保とうとしていたが、その声は緊張で強張っていた。


「そう。奴らの目的は食料だ。しかし、先行隊を捕食して間もない。今は威嚇が目的のはずだ。くれぐれも騒ぐなよ?」


私はゆっくりと、しかし、一切の怯えを見せずに、ウルフェンが潜む岩陰に向かって歩き出した。


「エラーラ!何をする!?戻れ!」


ブリギッタが叫ぶ。

私は、岩陰から数メートルの地点で立ち止まると、拾っていた石を、近くの別の岩肌に、力任せに叩きつけた。

甲高い、無機質な音。

岩陰の奥で、巨大な影が動く気配がした。

私は構わず、火花が散るほどの勢いで石を叩き続ける。

獣は、無機質な音と、火の気配を嫌う。

やがて唸り声は遠ざかり、気配は消えた。


「…行ったか…」


ブリギッタが、その豊かな胸をなでおろし、座り込む。

ヨハンナとカサンドラも、恐怖で腰が抜けそうになっていた。


「……あの獣が戻る前にここを離れる。立て!」


一行は、ウルフェンのテリトリーであった岩場を抜け、森林限界を超えた。

一歩足を踏み出すごとに、肺の中の空気をすべて吐き出す。

強烈な圧力をかけて息を吐き、強制的に酸素を取り込む。


「……エラーラちゃん、すごいね……そんな小さな体で、私たちと同じ荷物、平気なの?」


カサンドラが、ゼエゼエと息をしながら、淡々と同じペースで登り続ける私に声をかけた。


「効率の問題だ。お前たちは、その無駄に大きい肉体を維持するために、私より30%以上多く酸素を消費する。」


カサンドラの長い耳が、不満げにピクリと動いた。


「それを言ったら、その……あなただって大きい『胸』、あるじゃないの?」


カサンドラは、私の豊かな胸元を指し、意地悪く笑った。


「カサンドラさんのイジワル! 」


ヨハンナは、私の背中を抱きしめるように押した。

ブリギッタが、呆れたように笑う。


「エラーラちゃんが可愛いなら、じゃあ、ミラ様は私が頂くからな!」


「「ええっ!?」」


ヨハンナとカサンドラの声がハモる。


その、次の一瞬だった。

まるで、それまでの地獄が嘘だったかのように、天候が劇的に回復した。

空は、一点の曇りもない、吸い込まれそうなほどの青。

凍てついた大気が、地平線から射す太陽の光を無数に乱反射させ、生きているかのように、吐息のように煌めきながら舞っている。

眼下には、雲海が広がり、まるで世界の上に立ったかのようだった。

目指す頂が、神の領域のように、青く、青く、澄み渡っていた。

ブリギッタは、リーダーとして最も誇らしい瞬間を迎えていた。


「これが、ヌル・ヴァイスホルンの本当の姿さ。ちっぽけな悩みなんて、全部どうでもよくなる」


彼女は、私の肩を優しく抱いた。

私は、その物理的な接触を振り払わなかった。


「よーし!もうすぐだな!……先に祝杯だ!」


ブリギッタが、ザックから保温水筒を取り出す。

中身は、甘く煮詰めた薬湯だ。

4人は、その絶景を前に、束の間の休息を取った。

恐怖から解放された3人の女たちは、途端に饒舌になった。

話題は、自然と、もちろん、この長旅の目的、令嬢ミラのことだった。


「ねえ、ブリギッタさん」


ヨハンナが、頬を赤らめながら切り出した。


「私、この山から帰ったら、ミラ様にプロポーズしようと思うんすよ!」


「おやーあ?気が早いね」


ブリギッタがニヤリと笑う。


「だって!私に『君のその野性的な強さこそ、あたくしが守られたい唯一のものですわ』って!私がいないとダメなんですよ!」


ヨハンナは、その屈強な体躯に似合わず、乙女のように頬を染め、その豊満な胸を誇らしげに張った。


「ふふ」


それを聞いたカサンドラが、理知的なエルフの仮面を崩し、艶っぽく笑った。


「ダメよ、ヨハンナ。ミラ様は、あなたの『力』にじゃなくて、私の『知性』に惹かれているんだから」


「はあー!?」


「彼女は私に言ったわ。『カサンドラの知性に触れるたび、あたくしは本当の自分になれる。あなたのその頭脳こそ、あたくしが愛する全てだ』って」


カサンドラは、自分のボーイッシュな服の胸元を、挑発的に少し開いてみせた。


「二人とも、ずいぶん彼女に夢中だねえ」


ブリギッタが、二人の会話に割り込んだ。


「だがね!最後はこの、『包容力』だよ」


ブリギッタは、自らの圧倒的な胸を、ポンと叩いた。


「ミラ様は、私のこの胸でしか安らげないのさ。『ブリギッタ……あなただけが、あたくしの帰る場所だ』って、泣きそうな顔で言ってたからね」


「「なんですって!?」」


女たちの間に、火花が散る。


(非合理的なリソース競合。しかも、この極限状況下で……)


「ね!エラーラちゃんはどう思う!?」


「やっぱり『力』だよね!?」


「いいえ! 『知性』よ!」


「二人とも黙りな。結局は『母性』さ!」


「……」


私は、甘ったるい薬湯を吐き出すように飲み干した。

その時である。

カサンドラが、腰の通信端末を握りしめてチラチラと見ていることに、ヨハンナが気づいた。


「カサンドラさん?それは……」


カサンドラは、端末を落としそうになる。

端末のランプが、微弱な電波を捉えていることを示していた。


「ミラ様からの信号だ!」


ブリギッタが、自分の端末を慌てて取り出す。

ヨハンナが、高山病の恐怖も忘れ、真っ先に端末を開く。

彼女たちは雪にまみれた指で、必死に端末を操作する。


「おかしい……なぜこの3人は、魔力通信が繋がらない場所で、『今から助けだす女』に連絡を取れるのだ……?」


3人の端末が、ほぼ同時に、通知ランプを点した。

受信トレイが、一斉に更新される。

最初に、ブリギッタが息を呑んだ。

彼女の端末に、ミラからのメッセージが届いていた。


『私の婚約者、ブリギッタ。あなたがいないと寂しい。早く帰ってきて。』


ブリギッタの顔が、喜びと安堵に緩む。

だが、その視界の端に、隣のヨハンナの端末が映り込んだ。

ヨハンナの端末にも、ミラからのメッセージ。


『私の婚約者、ヨハンナ!あなたの強さが恋しい。あなたが帰ってきたら、ずっとそばにいて。』


「……え?」


ブリギッタの笑顔が、凍りついた。

その時、一番か細い声が、二人の間で響いた。

カサンドラ。

彼女の端末にも、ミラからのメッセージ。


『私だけのカサンドラ。あなたの知性に焦がれている。無事に帰れたら結婚しましょう。世界で一番愛してる。』


3人は、互いの画面を見つめ合った。

同じ「ミラ」という差出人名。

同じ時間に送られた、3人それぞれに向けた、甘い愛の言葉。


「……え…」


「……あんたも?」


「ミラ様と!」


ブリギッタの地を這うような声。

ヨハンナの獣のような唸り声。

カサンドラの、エルフの甲高い叫び声。


次の瞬間、青空は、瞬く間にどす黒い雲に覆われ始めた!


山の天候が、彼女たちの憎悪に呼応するかのように、豹変したのだ!


エラーラは、その光景を見ていた。

彼女は、ピッケルを握り直し、3人の女たちから距離を取った。


(リソース競合は、群れの生存確率をゼロにする。)


静寂は、一秒も続かなかった。


「てめええええええ!!」


最初に動いたのは、獣人のヨハンナだった。

彼女の思考は、獣の本能に直結している。


裏切りを認識した一秒後には、その屈強な体がブリギッタへと射出されていた!


「ミラ様は私のものだ!この泥棒猫が!」


「どの口が言うか!」


ブリギッタは、その突進を、歴戦の登山家としての経験で、最小限の動きで回避する!


二人は雪の上にもつれ合い、憎悪のままにぶつかり合った!


「落ち着いて!あの女に騙されたのよ!」


カサンドラが、エルフとしての理性をかろうじて保ち、二人を止めようとピッケルを構える!


「あんたも同じだ!」


ブリギッタが、ヨハンナを蹴り飛ばしながら叫ぶ!


「『知性』ですって!?あの方は、私みたいな『母性』を選ぶに決まってるだろうが!」


カサンドラの理性が、その侮辱によって焼き切れた!


そこから先は、ただの殺戮衝動のぶつけ合いだった!


ヨハンナが、ブリギッタの懐に潜り込む!


その手には、ブーツに隠していたナイフが握られていた!


ブリギッタは、愛用のピッケルで、そのナイフを弾き飛ばす!


金属音が、薄い空気の中で甲高く響いた!


「あんたみたいな脳筋女が!」


ブリギッタが、ピッケルの鋭い先端を、ヨハンナの顔面めがけて振り下ろす!


ヨハンナは、雪豹の瞬発力でそれを避け、ブリギッタの脇腹に、アイゼンを装着したままの蹴りを叩き込む!


「二人ともそこまでよ!」


カサンドラが、その間に割って入った!


彼女は、二人の戦闘を瞬時に解析し、ザイルを投擲!


ブリギッタのピッケルを絡め取り、動きを封じる!


「小賢しいよ!」


「ミラ様は、私と結ばれるの!」


カサンドラは、エルフの俊敏さでブリギッタの拘束を解き、今度は地質調査用のハンマーを、ヨハンナの側頭部めがけて振り抜いた!


三人の女たちは……狂っていた!


彼女たちの凶暴なまでの戦闘は、奇妙な均衡を保っていた。

その高身長と豊満な肉体が、極寒の尾根の上で、憎悪を燃料にして舞う。

凄まじい光景だった。

彼女たちが愛した「少女」への独占欲が、彼女たちを醜くさせていた。

ピッケルが空を切り、アイゼンが火花を散らし、ナイフが風を裂く。

だが、誰も致命傷を負わない。

全員が、この極限環境のスペシャリスト。

互いの実力を知り尽くしているからこそ、決定打を与えられない。

彼女たちは、ほとんど無傷のまま、地獄のダンスを踊り続けていた。


「やめろッ!お前たちの行動は、生存確率をゼロにする!」


私は、疲労困憊の体に鞭打って、叫んだ。

だが、次の瞬間。

ブリギッタが弾いたヨハンナのナイフが、エラーラの足元の氷に突き刺さった。


「ッ!」


私は、近寄れなかった……。


(なんてことだ……観測対象の回収は、失敗……)


その時だった。

風の音の中に、異質な音が混じった。

地を這うような、低い唸り声。

殺し合いを続けていた三人の女たちが、同時に動きを止めた。

尾根の向こう、吹雪の中から、複数の影が現れた。


ウルフェンだ。

一匹、二匹……いや、五匹。

先頭に立つのは、他の個体より二回りも大きい、アルファ個体。その口元は、先行隊のものであろう血で、黒く染まっていた。

狼の群れは、女たちの狂気に満ちた闘争の音に引き寄せられていた。


最初に動いたのは、ブリギッタだった。


「敵はこいつらだ!仲間割れしている場合ではない!仕留める!」


さっきまで殺し合っていた憎悪は、より強大な「死」の脅威を前に、一時的に凍結された。

三人の女たちは、即座に、互いの背中を守る陣形を組んだ。

アルファが咆哮し、群れが動いた。

三人の女たちは、凄まじい戦闘能力で、それに対抗した。


ヨハンナが、襲い来る一匹に突進を仕掛ける!


彼女たちは……強かった!


数分間、彼女たちは、ウルフェンの群れと、確かに、互角に渡り合っていた!


だが!


ヨハンナが、一匹を仕留めた瞬間だった!


彼女の背後、ブリギッタとカサンドラの死角から、別の二匹が同時に飛びかかった!


一匹が、ヨハンナの自慢だった屈強な腕に噛みつき、もう一匹が、その雪豹の尻尾に食らいついた!


倒れたヨハンナの喉笛に、アルファが、一瞬の躊躇もなく牙を突き立てた!


ゴリ、ゴリと、骨が小気味よく砕ける音!


カサンドラが、エルフの俊敏さで助けに入ろうとする!


だが、それは、陣形の崩壊を意味した!


彼女が背中を向けた瞬間、ロープから逃れたウルフェンが、カサンドラの背中に飛び乗った!


カサンドラは、その知性を使う間もなく、雪の上に串刺しにされ、そのまま内臓を啜り食われた!


残されたのはブリギッタ!


彼女は、ピッケルを振り回し、アルファに立ち向かう!


だが、アルファは、ブリギッタのピッケルを恐れなかった!


ブリギッタの懐に潜り込むと、巨大な顎で、ブリギッタの自慢だった豊満な「胸」ごと、胴体を噛み、そのまま両断した!


ブリギッタのピッケルが、力なく雪の上に落ちた!


ウルフェンたちは獲物を仕留めると、その場で、「食事」を始めた!


肉を引き裂く音!


骨を噛み砕く音!


内臓を引きずり出す音!


ヨハンナの腕が!


カサンドラの足が!


ブリギッタの頭部が!


面白半分に、四方八方に引きちぎられ、雪の上に散乱していく!


血が、雪原を、染め上げていく!


私は、恐怖で麻痺しそうになる思考を、必死で回した!


(私も、食われる……?)


案の定、アルファ個体が食事を中断し、顔を上げた!


アルファが、私に向かって、ゆっくりと歩き出すした!


私は……ピッケルを握りしめた!


だが、獣に向かってではない!


自分がいま、隠れている、巨大な岩盤!


私は最後の力を振り絞り、その岩盤の破断線にめがけて、全体重をかけて、ピッケルを突き立てた!


鈍い、重い音!


亀裂は、一瞬で尾根全体に走った!


アルファが、足元の異変に気づく!


だが、遅かった!


私が立っている強固な岩盤はそのままに、ウルフェンたちが集まっている尾根の先端部分の雪が、地響きと共に、大規模な雪崩となって、谷底へと崩落していった!


……数秒後。

そこには、轟音の余韻と、尾根が半分えぐり取られた、凄惨な光景だけが残されていた。

静寂が戻った。

地獄のような、静寂だった。


「……はぁ…はぁ…」


私は、その場に崩れ落ちた。


圧倒的な、疲労!


圧倒的な、寒さ。


そして……


圧倒的な……孤独!

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