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ヴェリタスの最終定理1:魔導士エラーラ・ヴェリタスの日常【改修中】【2位】  作者: .
短編RE:閉じ込められた探偵たち!【ミステリー】

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第1話RE:処刑場に集まる知性!

雨が、降っていた。

王都北部山岳地方特有の、重く、冷たく、思考そのものを鈍らせるような雨だった。

私は、探偵アガサ。

この陰鬱な長旅の理由は、一通の招待状。


『真実(ヴェリタス)を追う者よ。その類稀なる慧眼を拝借致したく』


差出人の名は、なかった。

インクの滲みを許さない、ゼランティア産の高価な羊皮紙だけが、この招待の裏にある、並々ならぬ意図を物語っていた。

馬車が停止し、私は、重い石造りの館の前に降り立った。

分厚い扉は、私が手を触れる前に、自動で開いた。

内部は、外観に反して明るかった。

高い天井からは、巨大なシャンデリアが吊り下がり、大理石の床を白色に照らしている。

大広間には、すでに大勢の男女が集まっていた。


「アガサ。君も呼ばれたのか」


その声に、私は張り詰めていた息を小さく吐き出した。


「アラン?」


アラン・グレイ。

王都警察の嘱託探偵であり、私の数少ない友人だ。


「壮観だねえ」


アランが苦笑混じりに周囲を示す。


「これだけの『探偵』が一堂に会するとは」


私は、集まった顔ぶれを値踏みする。


鷲鼻の厳格そうな老人、ヴァレリウス卿。

王都ソフィア大学の論理学教授。

「歩く法典」と呼ばれる男だ。


全身を鎖帷子で覆った屈強な女騎士、ブリジッタ。

荒事専門の賞金稼ぎ、兼、探偵。


絹のドレスをまとった妖艶な美女、セラフィナ。

魔力探知の専門家。


壁際で分厚い書物を読みふける青年、コーヴァス。

彼はあらゆる文献を記憶している。


腰のベルトに無数の工具を吊るした小柄な男、サイラス。

罠の解除を得意とする。


常に薬品の匂いを漂わせる教授風の男、フィニアス。

毒物分析の権威。


ホールの影に佇む、性別不詳の人物、ノクターン。

情報収集の専門家。


大声で持論を振りまいている恰幅のいい紳士、マグナス。

尋問術の達人。


そして、腕を組んで全員を眺めている男、ルーク。

魔術無効化の専門家だ。


私、アラン、そして今挙げた九人。


これで十一……。

招待状には「十二人の探偵」とあったはず。

その時、私は気づいた。

彼ら「探偵」の輪から少し離れた窓辺に、その女は立っていた。

十二人目。

褐色の肌に、白銀の髪。

何より目を引くのは、その服装だった。

私たち探偵が皆、正装であるのに対し、彼女はまるで……医師が着るような、白衣を身につけていた。

そして、理不尽なまでの豊満な胸と……腹の起伏。


誰なんだ?


私の視線に気づいたのか、女がゆっくりとこちらに向いた。

息が、詰まった。

その瞳には、恐怖も、緊張も、社交辞令の笑みもない。

ただ、知性と、純粋な好奇心だけが輝いていた。


その時だった。

低い地響き。

次の瞬間、入り口の扉が、凄まじい速度で閉じた。

館全体を揺るがすような閉鎖音と共に、扉の縁が青白い魔力の光を放ち、古代文字が浮かび上がった。


「なにっ!?」


ブリジッタが剣の柄に手をかける。


だが。


白衣の女、エラーラ──と彼女は後にいった──は、探偵たちには目もくれず、青白く光る扉に近づいた。


「フム……。高密度の魔導障壁だね!術式の基盤は古代言語。物理的干渉は無意味。実に興味深い!」


そのエラーラが、ホールの中心を指差した。

そこには、先ほどまで存在しなかったはずの黒檀の書見台が、いつの間にか出現していた。

そして、その上には一冊の分厚い本が置かれている。

アランが恐る恐る近づき、その背表紙を読み上げた。


「『十二人の探偵』……?」


不吉な題名。集められたのは、私たち十二人。


「馬鹿馬鹿しい!」


ロード・ヴァレリウス卿が、怒りに顔を赤くして書見台に近づいた。


「こんな子供騙しの脅しに、この私が怯えるとでも?」


彼はそう言いながら、乱暴に本の表紙を開き、第一章の冒頭を読み上げ始めた。


「『第一の犠牲者は、傲慢な老賢者。その知恵は、天から降り注ぐ『光』によって潰される。大広間のシャンデリアの下、砕け散った水晶と共に、彼の論理も……」


その言葉が、最後まで紡がれることはなかった。

天井から、金属が引き千切れるような、嫌な音が響いた。

巨大な水晶のシャンデリア。

その根本を支えていた鎖が、弾け飛んだ。

水晶の塊が、轟音と共に落下する。


「危ないっ!」


アランが叫ぶ。

だが。

凄まじい衝撃音。

大理石の床が砕け、無数の水晶片が四方へ飛び散った。

私の頬を破片が掠める。

埃がゆっくりと晴れていく。

そこには、無残に砕け散ったシャンデリアの残骸と、その下敷きになり、大理石模様の一部と化した、ヴァレリウス卿の姿があった。


「ひっ……!」


セラフィナが口元を押さえる。


「呪いだわ……」


彼女が、震える声で呟いた。


「本に書かれた通りのことがおきた!つまり、これは呪いよ!」


「いいや。呪いではないね!」


その声は、エラーラだった。

彼女は、恐怖に震える私たちとは対照的に、瞳を輝かせ、天井の鎖が繋がっていた基部の残骸を見上げていた。


「探偵諸君。『呪い』と断定するのは、あまりに早計……とは、思わないのかね?」


彼女は、ヴァレリウス卿の亡骸を一瞥した。


「見たまえよ。これは音響式の魔導罠だ。特定の『鍵』によってのみ留め金が外れるよう設計されている。そして、その『鍵』とは……」


彼女は、ヴァレリウス卿の最期の言葉をなぞった。


「おそらく、『単語の組み合わせ』と『周波数』こそが、トラップの起動キーだったのだろう。この小説は『予言書』などではない。被害者の特定の行動を誘導するための、『指示書』なのだよ」


私たちは、エラーラの論理に絶句した。


「ふざけるな!」


沈黙を破ったのは、女騎士ブリジッタだった。

彼女は、怒りを剥き出しにしていた。


「こんな、子供騙しの罠、私が叩き壊してやる!」


「待て、ブリジッタ!」


アランが制止する。


「一人で動くな!犯人の思う壺だぞ!」


「なら、お前たち軟弱者は、ここで震えていろ!」


彼女は私たちを振り切り、ホール西側にある、小さな鉄の扉に向かった。そこには、古代文字で書かれた防御術式が刻まれている。


「これは警備兵用の抜け道だ!私の腕力でこじ開けてやる!」


ブリジッタは、その鋼鉄の篭手で鉄の扉を掴み、全身の力を込めた。

その瞬間。

凄まじい放電音と共に、ブリジッタの全身から青白い電光が迸った。


「み……っ!?」


彼女は、悲鳴を上げることすらできず、鎧を赤熱させ、黒焦げになってその場に崩れ落ちた。


「……雷!?」


コーヴァスが、震える声で呟いた。

私たちは、ホールから『十二人の探偵』を持ってきた。第二章のページ。


『第二の犠牲者は、屈強なる腕。その剛力は古の守護になすすべなく、西の回廊にて雷に呑まれる』


「……記述通りだ……!」


対魔術師のルークが、警戒しながらブリジッタの死体に近づき、眉をひそめた。


「しかし、おかしい。扉の古代文字は防御術式だ。致死性の『雷』を放つ効果はない。これは、何か別の……」


「『回路』さ」


いつの間にか、エラーラが私たちの後ろに立っていた。

彼女は、ブリジッタの死体には目もくれず、周囲の壁と床を丹念に調べている。


「この術式自体は『雷』じゃあない。それは、彼女が『触れる』ことを期待されて設置された『スイッチ』に過ぎない」


エラーラは、壁の継ぎ目から剥き出しになっていた、一本の古い魔導線を指差した。


「犯人は、この回廊の主電源を、この鉄の扉に直結させた。そして、この床石に、アースとは逆相の魔力を流した」


彼女は、紅い瞳で私たちを見据えた。


「これだけでは何も起こらない。だが、そこに『彼女』が入ってきた。全身を『鎧』という、極めて伝導率の高い物質で覆った彼女が。そして、『金属の靴底』で帯電した床に立ち、『金属の手』で、帯電した扉に触れた。つまり、回路だ。」


ブリジッタの「剛勇」の象徴であった「鎧」そのものが、彼女を殺すための最適な「導線」として、犯人に見定められていたのだ。


一瞬にして、二人が死んだ!


残るは、十人!


恐怖が、ホールを支配した!


その時!


マグナスが、エラーラを指差した!


「貴様!」


「フム?」


「貴様だ、エラーラ!貴様は、この異常な状況を理解しすぎている!まるで、自分が仕掛けた罠の成果を確認するかのように……貴様は、軽々とトリックを暴いてみせた!」


その言葉に、私たちはハッとした。

そう、彼女の知識は異常だ。

アランが、私を庇うように一歩前に出た。


「マグナス議員の言う通りだ。君はこの中で、唯一誰とも面識がない。そして、君はこの惨劇を『興味深い』と言った。『興味深い』となあ!つまりだ。……君が、犯人なんだろう?」


十人の探偵の、疑念と敵意に満ちた視線が、エラーラ一人に集中する。


白衣の女は、この状況下ですら……楽しげに口元を歪めた!


「なるほど。確かに、私が犯人であるという仮説。蓋然性は、確かに高いね!」


「はああああ??……貴様、認めるのか!?」


「いやいや。私の専門分野は『真実(ヴェリタス)』の解読だ。そしてこの館は、私がこれまで出会った中で、最も美しく、最も知的な『謎』だ!」


彼女は、私たち一人一人を順番に、品定めするように見つめた。


「この『霧中館』は……おそらく、壮大な『劇場』だ。犯人は、我々がいかにしてこの『死の迷路』を踏破するかを、最前列で観測している。フフフ!……だからこそ。だからこそだ!私もまた、犯人を、最前列で観測させてもらうよ……!」


「劇場だと!」


私は、彼女の非人間的な感性に戦慄した!


彼女の冷たい笑み!


それは、私たち生存者全員に対する、宣戦布告のように思えた……!

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