9.公爵邸 一日目の深夜──1人反省会
公爵様に手を握って貰って眠りについてから、どれほど経ったのか、メイドさん達もそれぞれのお部屋に戻って、私にあてがわれたお部屋は静かである。
ベッドサイドの灯りも落とされて、現代日本と違って、窓の外も暗くて、本当に真っ暗だ。
しんしんと冷えと寂しさが漂い、お空は満天の星だ。昨日よりお月様はちょっとだけ遠くなってるみたい……
だけど、それが色々と、楽しいことよりも悪い事をぐるぐる考える環境をも産み出す。
「明莉、じきに好うなるから……大事にしたる、可愛がったるからな」
灯りのない山中の、木々から覗く黄色い月。
困ったように笑いながら、遠回しに干したままの下着を回収するよう促してくれるジュードさん。
手作りのチーズを焼いて、保存用堅パンに乗せて振る舞ってくれたジュードさん。
「最初は優しぃに、ゆっくりじっくりしたるからな」
まったく識らない人のように豹変して、ヤヤを破裂させたり、私が未経験者だと知ると急に優しく?なって嬉しそうに、しかし強引に躰を押し開こうとしたジュードさん。
「そっか。俺が、勇者かぁ……」
照れ笑いで、表情を緩めながら眠りについたジュードさん。
山の管理小屋の扉を開けて、警戒しながら、私を頭のてっぺんから爪先までじろじろと観察するジュードさん。
「信頼はしてるのに、気ぃと体は赦さへんてか?」
見た事ない怖い表情で、私の上に乗り上がったまま睨みつけるように見下ろしてくるジュードさん。
私の歯を磨きながら、なぜか頰を赤くして視線を反らすジュードさん。
「やっぱ、そうか! アンタ日本人やんな? しかも、関西か」
すっごく嬉しそうに、抱きつきそうな勢いで前のめりに叫んだジュードさん。
たったひとりで、言葉も習慣もまったく違う異世界で、どれだけ心細かっただろう。
久し振りに出会った日本人が、育った地域まで近いと知って、嬉しそうに話し込む姿は、実年齢の31よりもずっと若くて、楽しそうに見えた。
私はどうすれば良かったのだろう。
私の何が、彼を傷つけ、歪めてしまったのだろう。
私は男では無いし、ジュードさん本人でも無い。
考えても、本人に訊いてみない限り、正しい答えは出ないのかもしれない。
ジワジワと彼を誤解させたのかもしれない。
「イケると思ったのに……」
そう思わせる態度だったと言う事だよね?
こんな関係になってしまって、もう元通りに話は出来ないと諦めてたのに、最後連行される時、お前のせいだとも責めず、元気でなと励ましてくれて。
自分は犯罪者だと認定されてしまった事を、どうして諦めてしまったのだろう。
なんだか、連行される事をホッとしてるようでもあった。
やっぱり、あの夜は何か変だった!
勿論、私がきっかけを作ったのだろう。
たぶん、甘えてきた事、任せっきりにしてた事、頭や歯を磨かせたり会って3日の人とは思えないほど距離感を詰めてた事などが影響してるのだろう。
それらが積もりに積もって、寒さに負けてくっついて眠った事で、堰が切れちゃったんだ……
それに、ヤヤとネネが、妖魔みたいなものだって言ってた。
あんなにたくさん居たし、他にも、魔力ではなくて、精神や夢を食べる、貘みたいなものだって居たかもしれない。
あの時のジュードさん、ちょっと変だったもの。
言葉を覚えて、皆さんに恩返し出来るようになったら、ジュードさんの事、調べて貰えるよう頼んでみよう。
公爵様──ルーシェさんは、優しそうな人だったし、なんなら、子供だと思われてるのを利用しちゃうよ!
色仕掛けしろって言われたら無理だけど。精神的にも、体のポテンシャル的にも、お顔の偏差値的にもね。
子供好きの優しい領主様に、可哀想な子供だと思われてる内に、ジュードさんの事、頼もう。
そこまで考えて、少しスッキリしたら、再び眠気に誘われて、柔らかくふかふかなベッドの中で、小さく丸まって眠りについた。
次回 第10話
公爵邸 二日目の朝──オーマイゴッド




