第2話:原作崩壊あーるてぃーえー
ぎこちない動きで、俺は歩みを進めながら……教師によって言われた、問題の人物の横に座る。
この時の俺の気分は完全にブリキの人形。
それか糸が切れかけのナニカだろうが、それはそうと本当に待って欲しい。
隣の彼? いや、彼女なんだが……そいつは完全に俺に興味が無いようで未だ窓を見て黄昏れている。対する俺の気分は憂鬱、というか意味不明が強い。
「ん? 転校生? よろしく」
「あぁよろ……しく?」
「ってどうしたんだよ、そんな変な顔をして」
「そんな……顔してるか?」
「してるしてる――幽霊でも見たーって顔してる」
あぁ、幽霊だったらどれ程良かっただろう。
というか……え、待ってくれ?
こいつ本当に徒花結月であってる?
いや、うろ覚えだが俺が所属する事になったクラスで灰色の髪の奴なんて、そいつしか心当たりないけど……あれ、もしかして資料あんまり見なかった俺が悪い?
彼女の名前見た時点で全てを諦めた俺が悪いってことにしていいからさ、別人ってことにしない?
「まっいいや、私は徒花結月……一応隣の席だし、改めてよろしくな」
「ははっよろしく、俺は八雲夏燐だ」
あ……確定だ。
こんな珍しい名前の人間なんてそうそういないし、これ主人公だぁ。
自然と乾いた笑いが漏れた。普通に取り繕った方が良いのに、なんかもう限界でそうなった。
「え、どうしよう。主様がいつにも増して面白くて愛おしいぞ?」
そして問題が一つ。こんな限界ギリギリな俺を見て性格が終わっている朔夜が喜ばないor出てこない訳がなく。とても愉しそうな笑みを浮かべてそいつは体から出てきやがった。 種族としては鬼……だけど訳あって幽霊となって憑いているこいつ。
当然設定的にソレを見ることができる主人公様の反応なんて自ずと決まってくる。
「は、お前。なに、憑けてるんだ?」
ガタッと周りにバレないくらいの動揺。
小声で呟かれたその一言に、そこで初めて朔夜が彼女に意識を向けた。
「む、この娘は見えるのか?」
祓魔師の中でも幽霊などを見る力は希少。
妖怪や悪魔などは見えるが、霊魂を見る力は本当に珍しく……それがあるからこそ俺は朔夜を隠し通せていた。覚悟はしてた……こいつがいる時点で朔夜が見られることは――でもさ、ここで出てくるのは違うじゃん?
「ぴーすぴーすいえーい」
ちょっと調子乗って彼女の目の前でピースる馬鹿。
俺も見えてはいるが、絶対に面倒くさい事になるので何があっても朔夜にツッコミはいれない。ここは穏便に見えてない気付いてない体で行く。
「おい、夏燐だったか? ……あとで時間作れ」
冷たい声音。
俺が覚えている通りの性格だったらこうなるとは分かってはいた。
今回の俺のガバとしては朔夜にそのことを伝えなかったって事だろうが……それはそうと主人公が女になってると想定する方が無理だろうと俺は言いたい。
「理由はこの場で言えないし、初対面でどうかと思うけど信じてくれ頼む」
授業の合間、真剣な声音でそう言われる。
こいつの性格を知っているからこそ、彼女というか彼の軌跡をずっと追ってきた俺だからこそ、それを断るのは忍びない。
だけど、こんなにすぐ関わるというのは……不味いというか、極秘の護衛任務という事を考えると、俺の中の天秤が大変なことに……。
「……断らない方が良いよな」
「あぁ、頼む」
「……分かった。HR終わったらな」
それからは先生からの話を聞いたりと色々あり、皆が帰るまでの時間を軽く潰し……そして俺は、最後まで帰ろうとしない彼女と一緒に教室に残って帰路へ。
「なあ、お前は肩が重いとかずっと変な声が聞こえるとかあるか?」
「……たまにあるな、結構悩んでる」
とりあえず、彼女に着いていきながらも話を合わせる。
あとでバレるかもしれないとか置いておく以前に、一旦そうしなければ進まないと思ったからだ。
「単刀直入に言うが、お前にはマジでやばい霊が憑いてる」
「……まじか」
……初めて知るかのようなリアクション。
このまま演技で乗り切れば、祓魔師止めた後でその道に進めるくらいには気合いを入れよう。
「やばいとはなんだ! 妾ほどきゅーとで主想いの幽霊などおらぬぞ!」
「……しかもかなりうるさい幽霊だ」
「なっ無視するだけには飽き足らず……五月蠅いだと!? ねぇ主、やっていい?」
「さらに憑いてるだけのくせに主呼びする変態だな。格好も痴女でコスプレしてる」
「……そんなのが憑いてるのか、怖いな」
「なっ主!? そういうぷれいか!?」
改めてブチ切れている朔夜を見る。
俺より十二㎝ぐらい小さい身長の、少し際どい黒い着物を纏った銀髪の金瞳鬼っ娘。確かに妖怪の幽霊という稀な存在である彼女を初見で見たらそういう反応に……なるかは分からないが、格好だけ見たら鬼のコスプレしたやべぇ女ではある。
俺にはしごを外されたと思ったのか、彼女は見るからに頬を膨らませて俺の中に引きこもり初めてしまった。
「……今から、私の家に行って祓って貰うんだが時間取って本当に悪いな」
「いや、悩んではいたし心当たりもあるからいい。というか、そんなやばいのがいるんだな」
「本当はすぐ祓ってやりたいけど、私にその力は無いんだごめん」
真っ直ぐと嘘偽らずに思ったことを伝えて、困っている人を助け続けていた原作の彼。今は何故か彼女なこいつだが、それだけは変わっていないのだろう。
それに、何故か安心感を覚えつつも騙すことに罪悪感を持ってしまう。
「……っとついた、婆ちゃんと住んでる私の家だ。本当は今日から誰か他に住むらしいんだが、まだ来て無いっぽいしそれまでにやって貰う」
そんな事を伝えられながらも、俺は彼女と一緒に家の中に入り……迎えてくれた人を見て俺は絶句した。
……そこにいたのは白髪に赤目をした女性。
そんな彼女は、俺を見て俺とは別種の驚きを浮かべつつも、ゆっくりと優しい笑みを浮かべた。
「あれ、夏燐君じゃないですか。なんで結月と一緒に帰ってきてるんです?」
「……あれ、小夜婆ちゃんこいつ知ってるのか?」
「知ってるも何も、今日から一緒に住むんですよ? メール送っても返事ないから困ってたのですが……」
『……は?』
完全にハモったその呟き。
……確かにおっさんに住居は用意しているとは言われたが、知らなかったというか、知らされてなかったというか。本当にどういうバグなんだろう?
え、つまりというか――は?
なに、これって俺原作から逃げられないバグでも起こってるのか?
主人公との同居という、関わることから逃がさないとも言われている様なその現状――不具合修正まだかな? とか思いながらも、俺の感情は死んだ。




