第3話:同棲スタート
彼……もう彼女という事で納得することにした主人公と俺の目の前にいるのは、俺の恩人である十六月小夜さん。
白髪赤目で年齢と見合わない若い見た目の彼女は俺と朔夜の事情を知っている数少ない人物で……八年ほどの付き合いがある方だ。
彼女は「そろそろご飯ですよ」と気の抜けるような事を言いながらも、混乱する俺等から離れようとする。
「いやさ婆ちゃん! 一緒に住むのはいいんだけどよ、こいつやべぇの憑けてるんだって!」
「え、夏燐君にですか? 確かにとてもな蛆は憑いてますが、害はないので気にしなくて大丈夫ですよ」
「――は? いや、あんな悪霊に憑かれてて害ないってありえないだろ」
「そもそも、夏燐君は祓魔師なので大丈夫なんです。それに、ほら貴方に護衛を付けるって話したはずでしょう?」
さらっと……本当に軽く伝えられる護衛であるということ。
いや、待ってくれ……それ極秘事項とかじゃなかったっけ? え、俺がわざわざ隠した意味なんだよ。さっきの演技意味なくなったんだけど。
というか、騙したことには変わらないのだが……かなりの罪悪感を感じてしまう。
見れば彼女は震えているし、流石に怒ったのだろう。
「……てことはお前あの痴女見えてたのか?」
「あぁ、ほんと騙して悪いな、俺もアレ出てくると思ってなかったら焦って誤魔化した。あの場であんまり喋れなかったし」
最低限というか俺なりに謝って、一応の説明。
これも全部勝手に出てきた朔夜に非があるが、俺も彼女に説明してなかったのもあるので、八対二ぐらいで俺が悪いよな。
だけど、流石に怒らせただろう彼女に何もしないわけにもいかないのでもう一言謝ろうとしたんだが、彼女はなんというかほっと息を吐き。
「…………よかったー。マジで心配して損したぞ私」
「俺を責めないのか?」
「責めて欲しいのか? だって、アレが見えて放置してる祓魔師って事は制御できてるんだろうし、特に悪いことも無いんだろ? なら安心だ」
俺を責めるわけではなく、ただただ俺の身を案じている彼女。
それは、何度も思うが原作の徒花結月のまんまで……彼女が主人公ってのを納得してしまう。こういう奴だから、あの漫画の中でどこまでも真っ直ぐ戦えたんだろうと、そんな事さえ思う。
「どうしたそんな驚いた顔して」
「なんか結月らしいなって」
「――いや、初対面だろ私等。何が分かるんだよ」
「うーん、なんとなく感覚で……」
「いや、どんな感? というかずっと名前呼んでなかったのに、急に呼び捨てだな」
「……ダメだったか?」
無意識だったが、確かに俺は今日を通して出会ってから彼女の事を名前で呼ぼうとしていなかった。でも、なんかこの瞬間には自然にその名を呼べたのだ。
「はっ全然いいよ、そもそも私だって最初から夏燐の事呼び捨てだったしな」
「じゃあ、そういうことで……改めてよろしく?」
「あぁ、よろしくな夏燐!」
「ちょっと待って欲しいのだが主様よ、その娘に痴女と変態扱いされた上に蛆と呼ばれた妾を労う気は無いのか?」
そうして改めての自己紹介。
割と良いムードで和解? というより、挨拶を追えた俺等の元に入るツッコミ……というか不満。
明らかに不服そうな顔をした朔夜が、幽霊の姿から人の霊力を勝手に持って行った挙げ句に実体化し……俺等の前に姿を現した。
「散々放置ぷれいをされた挙げ句に、妾の事を悪くいわれたのに! 反論しない主様の薄情者ー!」
そしてそのままがぶっと……俺の首元に噛みついてきた大馬鹿鬼。
しっかりくっきり跡が付くほどに、強く噛みつかれて誰も止められないなか――次に響くのは耳障りのいい軽快ながらも鈍い音。
「ッゥ――妾、引きこもる!」
何があったかと言われれば、今まで黙認していた小夜さんが霊力で強化された新聞紙で頭を叩いただけ……なのだが、かなり痛かったのかたんこぶを作った彼女は涙目で敗走して俺の中に帰る。
完全に実体化したことが敗因だろうに、なんと哀れなと思いつつも……俺は救世主である小夜さんに感謝を伝える。
「ありがとうございます」
「いえいえ、あれも一緒って分かってたので常備するようにしただけですよー。結月も手伝ってくださいね」
「あいよーまぁ――なんだこれからよろしく頼むわ夏燐」
それが、転校初日の出来事。
これから色々な事に巻き込まれる俺の割と最後の平穏だった。
――――――
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妙に疲れたその晩にいつかの夢を見ていた。
朧気で消えてしまいそうな程に儚い夢を――忘れていた懐かしい記憶を。
『……お前、大丈夫か?』
『うっせ、どっか行けよ』
この世界での母親が入院した頃の話だ。そんな時に病院の子供用の部屋に偶然寄ったんだが、俺はそこで一人で遊ぶ灰色の髪の子供を見つけた。なんでかその子が妙に気になった俺は、そんな風に話しかけたのを覚えている。
『いや、なんか放っておけないし』
顔が暗いし擦ったのか目も赤い、泣いたばかりのようでとても放っておけるような状態ではなかった。
『……変な奴』
『変で結構、でどうしたんだ? なんかあったのか?』
『お前に関係ないだろ』
『いいやあるね、泣いてる奴を放置できるほど俺は薄情じゃないから』
このときの俺は、愛想笑いを得意にしてた……というか結構メンタルが死んでた時期だったけど、どうしてかこの子を無視することが出来なかった。何でだろう? と当時は思ったけど、多分似てたからなんだろうな。
『…………』
『とりあえず話せないならいいぞ』
『聞くのか聞かないのかどっちだよ』
『無理に聞いて拗れたら嫌だし、話せるなら聞く無理なら聞かないでいいだろ。でも、名前だけは教えてくれ、いつまでもお前じゃ嫌だしな。あ、俺は八雲夏燐』
『……いやだ、答えない』
『じゃあ名無しの権兵衛よ、何があったか知らないけどさ……お前は笑ってた方がいいぞ』
『……なんでだ?』
『そっちの方がお前に似合いそうだからだな』
こんな泣いたばかりの顔より、この子は笑っていた方が似合うだろうとそう思い俺は恥ずかしげも無くそう言った。
『本当に変な奴』
『だから変で結構』
『……はは、本当に変なの』
その時のその子の顔はとても綺麗だったのを俺は覚えている。
そんな事を夢に見て、俺の意識は浮上した。




