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一港人の試練と青春とそれから  作者: 毛利 光玖
小学生編 第一章

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2/7

二話 BP発電体験会①


 家でご飯を食べる時はいつもテレビをつけている。レンジでチンした水っぽいチャーハンは、そうでもしないと殆ど味がしなくて食えたもんじゃない。


 テレビではアナウンサーが日常でしゃべる声とは程遠い、はっきりとした声を出してニュースを読み上げている。


 昨日起きた事件に、今日の天気に、昨日のBP(ビーピー)発電の戦闘で得られた電力量、勝った選手。


『昨日、行われましたBP発電の戦闘で、一凪(にのまえなぎ)選手がまたしても快挙を成し遂げました』


 テレビに映し出された母さんは、家ではたまにしか見ることのない怒った時みたいに険しい顔をしている。


 テレビ画面には対戦ゲームみたいに、それぞれの名前の横に横長の棒が三分割された体力ゲージが表示されている。


 ゲージが三分割されている理由は、先に三回体に攻撃が入った方が勝ちだからだ。


 これがないと、どちらが勝っているのか分からない上、仮想空間でしている戦闘が人間同士の殺し合いに見えてしまう。



 それくらい再現度が高い。



 全身が黒い剣道の服を思わせる戦闘着は、ダボついていなくて足元は絞られ、スッと勇ましく見える。


 母さんに威圧されて怯えている相手も同じ服装なのに、向こうは格好が悪いとさえ思ってしまう。


 そんな相手の剣の色はまばら、反対に母さんの剣は青い一定の光を放っている。それはまるで強さを表しているみたいだ。


 相手を探るように剣先がカツカツと音を鳴らし、次の時には相手の胸元に痛恨の一打が入る。


「うっしっ! 入った!?」


 ゲージを確認すると一つ減っている。



 拳を空に突きだした。



 倒れた相手は起き上がれず、滅多刺しにされ、画面が終わった。


 急所を正確に突かれると、その箇所が痺れて動くのが難しくなる。けどそれがフリだった場合、近くに寄った際に隙を突かれる。


 倒れたら滅多刺しにするのが基本戦法と母さんが言っていた。


 勝利インタビューを断る母さんは家ではほとんど見ない顔をしていて、その険しさは俺でも肝が冷える。



『歴代初の女性MVP。 楽しみですね』



 取りつくろうように明るくアナウンサーが放った言葉はもう聞き飽きた。そのセリフ以外なにかないのかと、いつも問いたくなる。


 ニュースが終わる頃。


 普段なら、スイミングに、ピアノに、塾の夏期講習もある。けれど今日は特別にその三つがない。




 だって今日は——




「ゾーン発電体験会……俺も母さんと同じことができるんだ」


 体験会が行われるのは学校の体育館。


 だけどいつもとは違う場所へ向かうみたいで、ワクワクしながら準備をした。


 テーブルに置いてあった、白い封筒に入った参加費は一万円。それを確かに鞄に入れて二ノ宮家に走る。




 二ノ宮家からは市華ちゃんと朔臣のお母さん・一葉(かずは)さんが二人をせかす声が聞こえてくる。それが余計に慌ただしさを引き立たせる。


「ほーら朔ちゃんっ! ハンカチにティッシュ、また忘れてるわよっ!  って、あんた、まーだ着替えてないの!?


明日着る服は前日に準備しなさいってお母さん言ったじゃないっ! あーちょっと市華ー。 やること終わってるなら手伝いなさいっ」


 俺が縁側から中を覗き見て、「おはようございます」とよそよそしい声量で声をかける。


 鬼気迫る表情をした一葉さんと目が合い、今度はしっかりと「おはようございます!」と声を出した。


 一葉さんの顔つきはコロッと晴れやかな顔つきに変わり、


「あら港人くん、おはよう。 ごめんねー、(さく)ちゃん、まだ準備終わってないの。 市華(いちか)と外で待っててくれるー?」


 と声をかけると、今度はお金を計算し始めた。


 ほんの少し待つだけなのに足がそわそわする。家から出てきた市華ちゃんは、俺が昔使っていた小さなナップサックを持っている。俺は早くこの楽しみな気持ちを話したくて、彼女の側に駆け寄った。


「市華ちゃんっ! やっと体験会の日だねっ! VR空間ってどんな感じなんだろー!」


 自分でも分かるくらい声が弾んでいる。彼女からも同じか、それ以上の声が返ってくると思っていた。けれど、目の前の市華ちゃんはシュンとしている。


「市華ちゃん、どうしたの?」


「あのね、私は見学なんだ……。 参加ね……したかったんだけど、あのね……えーっと……そのー」


 とモゴモゴ話している。


 後ろからは朔臣のバタバタ走ってくる音がする。


 玄関を勢いよく開け、参加費が入った封筒をジャラジャラ鳴らした朔臣。


「えーい! 港人ー! 早くいこーぜ!」


「おうっ!」


 市華ちゃんを引きずるように、三人で駆け出した。


 後ろからは一葉さんが「お金早くしまいなさーーい!」と叫んでいる。





––––





 荒地を過ぎ、住宅街が見えてきた。遠くに見える光環タワーが、今日はなんだか近くに見える。



 仮想空間での戦闘が楽しみで仕方なくて、俺は自分の知る限りのVR戦闘についてをひたすら語っている。


「戦闘着の下には黒のボディースーツを着てて、剣が当たったら痺れるんだって。 相手の急所をいかに正確に剣で突くかが難しくって面白いんだって」


 と、口がよく回る。市華ちゃんと朔臣は熱心に頷きながら聞いてくれるから、二人にゾーン発電のことを話している時は楽しい。




 家で父さんにこの話をしようものなら、お前はやったことないだろの一点張り。ろくに話を聞かず、話題は宿題や習い事の話になる。父さんとは大違いだ。




「あっ。 なー港人ー。 BP発電ってつまりさー、頭から電気取って発電すんだろ?」


 朔臣からの問いに、フンと鼻が上がる。


「そう。 VR装置を付けた状態で仮想空間に入って、戦闘している時に出る微弱な電流を大きな電気に変える発電」


「じゃあ俺も今日、敵と戦うってことだよな!? 友達の家でゲームやりまくった成果を見せてやるぜ!」 


 朔臣は「うおー」と言って指でゲーム機を必死に押す動作をしている。俺がそうじゃない、こう。と剣を振る仕草をしようとした。


 けれど、後ろから来た朔臣の友達がバッと彼を奪う。



 中途半端に上げた手をぎこちなく下ろす。



 目の前では、さっきまで俺と話をしていた朔臣と、朔臣の友達たちがワイワイと声をあげている。


 話している内容は今日の体験会の話。漫画の話でも、アニメの話でもない。その話なら、俺の方が詳しいのに——



「あ。 ねーねー港人くん。 今日って早見(はやみ)先生がくるんでしょー? どんな人ー?」


 市華ちゃんからの問いに、昨日母さんから電話で言われた事を思い出す。



『名前を聞かれたら二ノ宮港人って言って』



「さぁ、俺も知らない。 でも気難しい人なんだって」


 市華ちゃんは「ふーん」と返事をし、辺りを見回している。気付けば周りには、今日の体験会に参加する子供たちが沢山いた。


 背格好からして上級生が多い。小学四年生の中では背が高い俺でも、上級生と比べたら小さく思える。


「港人くん、今日は一人もお友達いないかも。 始まるギリギリまで一緒に居てもいい?」


 市華ちゃんがチラチラっと送る視線の先には、朔臣より落ち着きが無い男子がいた。友達を殴るような真似をしたり、ランドセルもボコボコ、服もダボダボで髪も不恰好に伸びている。


「いいよ、俺の陰に隠れてな」


 市華ちゃんはホッとしたように顔をほころばせた。俺もその顔を見るとなんだか安心してしまう。知らないうちに離していた手を、市華ちゃんの方から繋いでくれた。



 思わず顔を背ける。



 手が熱い……



 そういや今日は、最高気温を更新と予報が出てた気がするーー





 体育館からは、外からでも子供たちの放つ歓喜の声が聞こえてくる。でも体育館に入った次の瞬間、自分も同じ声を出していた。


 体育館の後方にバスケのハーフコートを埋める程の、大きな白い真四角の箱があった。


 そして、その白い壁にプロジェクターで映されているのは、青く光る剣を持ってスーツを着た男性が剣を構えている。


 動かない敵は人の姿形をしていて無個性な出立ち。仮想空間にいるスーツの男性はテレビで見るのとは服装が違うし、動かない敵はなんだか奇妙だ。


 白いブースの中から、さっきまで剣を握っていた男の人が出てきた。


 スーツ姿で眉間に深い皺を寄せている人が、今度はパソコンで何かやってる。電話をかけ、そいつの放った言葉に体が固まった。


「高橋です。 早見教授、問題なく作動しています。 もう一度テストプレイをして……」



 早見……。



 周りの奴らは未だに騒がしい声を上げているのに、俺はこの場で静かに立っている。母さんが苗字を言わないで言った奴と今日は会うのかと思うと、めんどくさい気持ちでいっぱいだ。


 スーツを着た男がまたブースに入った。白い壁に、プロジェクターで芝生の上にあるステージが映し出された。そのステージ上にいるスーツの男と仮想の敵。


 仮想の敵に向かって剣を振り下ろす、バシンという大きな音が体育館中に響き渡る。その臨場感溢れる映像に、気がつけば口が半開きになっていた。


 スーツの男が仮想の敵を倒すと、体育館は「わー!」という大歓声に包まれた。



 俺は隣にいる市華ちゃんとハイタッチして、その冷めない熱狂に浸った。


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