第九話「この村で生きたい」
朝露が草花を輝かせる、穏やかな朝だった。
春人はいつものように宿を出る。
村の空気は今日も澄んでいて、森の香りが心を落ち着かせる。
「春人さん、おはようございます。」
畑で野菜を育てていたフィアが笑顔で手を振る。
「おはよう。」
「今日は収穫の日なんです。一緒にやりませんか?」
「もちろん!」
二人は並んで畑へ入る。
土に触れ、野菜を収穫し、笑いながら籠へ入れていく。
地球では土いじりをしたことなどほとんどなかった春人だが、フィアは一つひとつ丁寧に教えてくれた。
「これは力を入れすぎると折れちゃいます。」
「なるほど。」
「そうです、その調子。」
春人は夢中になって作業を続けた。
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昼食の時間。
今日の食卓には、自分たちで収穫した野菜が並んでいた。
「美味しい……。」
「自分で採った野菜は特別でしょう?」
フィアが嬉しそうに笑う。
春人は大きく頷いた。
「うん。」
「こんなに美味しいご飯、久しぶりだ。」
その何気ない一言に、フィアは少し切なそうな表情を浮かべた。
「春人さん。」
「はい?」
「地球では、一人で食事をすることが多かったんですか?」
春人は少し黙ってから答えた。
「……そうだね。」
仕事の帰りは遅く、コンビニの弁当を部屋で食べることも多かった。
テレビをつけても、部屋は静かだった。
「誰かと一緒に食べるって、こんなに楽しいんだね。」
その言葉を聞いたフィアは、優しく微笑んだ。
「これからは、一人じゃありません。」
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午後。
リーファと一緒に森を歩いていると、小さな子どもの泣き声が聞こえた。
「誰かいる!」
二人が駆け寄ると、小さなエルフの女の子が木の根元で泣いていた。
「どうしたの?」
「転んじゃった……。」
膝には小さな擦り傷。
春人はしゃがみ込み、そっと傷口を確認する。
「少し痛いけど、大丈夫。」
「ほら、一緒に立とう。」
春人が手を差し伸べる。
少女はその手を握り、ゆっくり立ち上がった。
「ありがとう、お兄ちゃん。」
その笑顔を見た瞬間、春人の胸に温かいものが広がる。
リーファが静かに微笑む。
「やっぱり。」
「何が?」
「春人は、人を安心させる力を持ってる。」
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夕方。
村の丘から夕日を眺める春人。
その隣にエリシアが座る。
しばらく二人は何も話さなかった。
オレンジ色に染まる森。
遠くから聞こえる子どもたちの笑い声。
それだけで十分だった。
やがて春人が口を開く。
「エリシア。」
「はい。」
「僕、帰りたいって気持ちはまだある。」
「……。」
「でも。」
「それと同じくらい、この村が好きになった。」
エリシアは静かに聞いていた。
「みんな優しくて。」
「毎日が温かくて。」
「ここに来るまで、こんな気持ちになったことがなかった。」
春人は少し照れ笑いを浮かべる。
「だから。」
「もし……。」
「帰る方法が見つかるまででもいい。」
「この村の役に立ちたい。」
「みんなの笑顔を守りたい。」
その言葉を聞いたエリシアは、胸の前で手を握りしめた。
彼女は知っている。
その願いが、やがて「帰れない未来」へつながることを。
それでも今は、その決意を受け止めたかった。
「ありがとうございます。」
「春人さん。」
「あなたがそう思ってくださるだけで、私は嬉しいです。」
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その夜。
世界樹は静かに輝いていた。
誰にも見えない世界樹の内部で、一冊の古い書が自然と開く。
そこに新しい文字が浮かび上がる。
> 『最後の管理者は、この世界を自らの故郷と認め始めた。』
> 『試練の時は近い。』
一方、村から遠く離れた古代遺跡では、黒衣の人物が世界樹の光を見つめながら静かに微笑む。
「計画は予定どおり進んでいる。」
「春人……。」
「君はまだ知らない。」
「君の選択が、この世界だけでなく、君自身の運命をも変えることを。」
静かな夜空には、再び一筋の流れ星が流れた。
その光は、新しい時代の始まりを予感させていた。
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第九話 終




