第八話「世界樹からの贈り物」
祝祭から三日後。
春人はすっかり村の暮らしに馴染んでいた。
朝はフィアと一緒に朝食を作り、昼はリーファと森を巡回し、夕方には子どもたちの遊び相手になる。
「春人お兄ちゃん!」
「今日は鬼ごっこ!」
「こっちこっち!」
「待って、そんなに走ったら捕まえられないよ!」
春人は笑いながら子どもたちを追いかける。
額には汗が浮かんでいたが、その表情は地球にいた頃とは別人のように明るかった。
遠くからその様子を見ていたフィアが微笑む。
「本当に、子どもたちに人気ですね。」
エリシアも頷いた。
「世界樹様が春人さんを選んだ理由が、少し分かる気がします。」
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その日の午後。
エリシアは春人を世界樹の根元へ案内した。
巨大な幹は近くで見ると、まるで山のように大きい。
「今日は特別な日なんです。」
「特別?」
「はい。」
「世界樹様は、ごく稀に贈り物を授けることがあります。」
「贈り物?」
春人は首を傾げた。
「私?」
「春人さんにです。」
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世界樹の前に立つ。
森の風が止まる。
鳥の声も消える。
世界が静寂に包まれた。
「世界樹様。」
エリシアは静かに祈る。
「この者へ、あなたのお導きを。」
その瞬間。
一本の枝がゆっくりと揺れた。
金色に輝く葉が一枚。
ひらひらと舞い落ちる。
葉は春人の胸元へ降り立つと、柔らかな光に包まれ、小さなペンダントへ姿を変えた。
「これ……。」
透明な水晶の中央に、金色の葉が閉じ込められている。
「綺麗だ……。」
エリシアは驚きで目を見開いていた。
「世界樹の護葉……。」
「そんな名前なんですか?」
「はい。」
「世界樹が認めた者だけに与えられる、お守りです。」
春人は胸にペンダントを下げる。
すると胸の奥が温かくなった。
「不思議だ……。」
「安心する。」
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村へ戻る途中。
リーファが駆け寄ってきた。
「春人!」
「どうしたの?」
「それ!」
ペンダントを見るなり、目を丸くする。
「世界樹の護葉じゃない!」
「知ってるの?」
「もちろん。」
「村でも持ってる人はほとんどいない。」
「そんなに珍しいんだ。」
「うん。」
リーファは少し羨ましそうに笑う。
「世界樹に好かれたんだね。」
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夕方。
フィアが宿へやって来た。
「春人さん。」
「はい。」
「これ、受け取ってください。」
手渡されたのは、丁寧に編まれた腕輪だった。
緑色の糸で作られ、小さな白い花が編み込まれている。
「私が作りました。」
「え?」
「世界樹の護葉だけでは寂しいかなって。」
春人は思わず言葉を失う。
「僕のために?」
「はい。」
「似合うといいなと思って。」
春人は腕輪を受け取り、ゆっくりと腕にはめた。
「ありがとう。」
その一言だけで、フィアは嬉しそうに微笑んだ。
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その夜。
春人は部屋でペンダントと腕輪を眺めていた。
異世界へ来るまで。
誰かから贈り物をもらう機会なんて、ほとんどなかった。
「僕なんかのために……。」
胸が熱くなる。
「本当に……優しい人たちだ。」
その時。
窓の外で世界樹が再び輝いた。
ペンダントも淡く光を放つ。
春人は窓を開ける。
風が部屋へ吹き込んできた。
そして、かすかに声が聞こえた。
――その心を忘れないで。
――誰かを思いやる、その心こそ。
――新しい世界に必要な光なのだから。
春人は静かにペンダントを握りしめた。
「……僕に何ができるか分からない。」
「でも。」
「この村のみんなを悲しませたくない。」
その決意はまだ小さかった。
しかし、その想いは確実に世界樹へ届いていた。
世界樹の最も高い枝では、一輪の白い花が静かに咲き始める。
それは数百年ぶりに咲いた、「希望の花」だった。
一方、その光を遠く離れた塔から見つめる黒衣の人物が、低くつぶやく。
「世界樹が……希望を選んだか。」
「ならば、私も動く時だ。」
静かだった世界は、ゆっくりと大きな運命の渦へと向かい始めていた。
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第八話 終




