第七話「世界樹の祝祭」
エルネシアの朝は、いつもより賑やかだった。
村の広場では色とりどりの花が飾られ、大きな木には金色のリボンが結ばれている。
子どもたちは笑いながら走り回り、大人たちは料理や飾り付けの準備に追われていた。
「今日は何かあるんですか?」
春人がフィアに尋ねる。
フィアは大きく頷いた。
「今日は一年に一度の**『世界樹の祝祭』**です。」
「祝祭?」
「世界樹へ感謝を捧げる大切なお祭りなんですよ。」
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昼になると、村中の人々が広場へ集まった。
歌声が響き、楽器の音色が森へ広がる。
春人は目を輝かせた。
「すごい……。」
地球の祭りとはまったく違う。
魔法で光る花びらが空を舞い、小さな精霊たちが踊っている。
まるで夢の中の世界だった。
「春人さん!」
エリシアが手を振る。
今日は白い巫女服ではなく、青と銀を基調にした祝祭用の衣装を身につけていた。
長い銀髪には花冠が飾られ、その姿は神秘的な美しさをまとっている。
春人は思わず見とれてしまった。
「……きれい。」
その一言に、エリシアは少し頬を赤らめる。
「ありがとうございます。」
「春人さんも、その服とても似合っていますよ。」
フィアが用意してくれたエルネシアの民族衣装。
森を思わせる深緑色の上着は、不思議なくらい春人の体に馴染んでいた。
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祭りが始まると、村人たちは順番に世界樹へ祈りを捧げていく。
春人は静かにその様子を見守っていた。
「エリシア。」
「はい?」
「僕も祈っていいのかな。」
「もちろんです。」
「世界樹様は、誰の祈りも拒みません。」
春人は世界樹の前へ立つ。
大きく息を吸い、静かに目を閉じた。
「帰る方法はまだ分からない。」
「でも……。」
「この村のみんなが笑っていられますように。」
「それと。」
「もし僕にできることがあるなら……。」
「みんなの力になりたい。」
その瞬間だった。
世界樹全体が柔らかな金色の光に包まれた。
「えっ?」
村中がざわめく。
「世界樹が……。」
「光ってる!」
「こんなこと初めて……。」
エリシアは驚きの表情で春人を見つめた。
世界樹は、まるで春人の願いに応えるように枝を揺らしていた。
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その日の夕方。
祭りの最後には、伝統の踊りが始まる。
リーファが春人の前へ来た。
「春人。」
「はい?」
「一緒に踊る。」
「えっ!? ぼ、僕が?」
「祭りでは、一人でいる人を作らない。」
「それがエルネシアの決まり。」
春人は慌てる。
「で、でも僕、踊れないよ。」
「大丈夫。」
リーファは優しく笑った。
「私が教える。」
そう言って、そっと春人の手を取る。
温かい手だった。
春人の心臓は、どくんと大きく鳴る。
「じゃあ、ゆっくり。」
「……はい。」
ぎこちない足取り。
何度も踏み間違える。
そのたびにリーファが笑う。
「ふふっ。」
「また間違えた。」
「ご、ごめん。」
「謝らなくていい。」
「一緒に笑えば、それでいい。」
その言葉に春人も笑った。
祭りの音楽に合わせて、二人はゆっくりと踊る。
周囲からは温かな拍手が送られていた。
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夜。
祭りが終わると、エリシアが春人を丘へ誘った。
村を一望できる場所。
満天の星空の下、祭りの灯りが宝石のように輝いている。
「今日は楽しかったですか?」
「うん。」
春人は迷わず答えた。
「こんなに笑ったのは、本当に久しぶりだった。」
「そうですか。」
エリシアも嬉しそうに微笑む。
「この景色を見ていると。」
春人は静かに言う。
「帰りたい気持ちはある。」
「でも。」
「この村を離れたくないって思う自分もいる。」
その言葉を聞いたエリシアは、小さく目を閉じた。
彼女の胸には、世界樹から告げられた「帰れなくなる未来」がよぎる。
しかし今は、そのことを口にしない。
「春人さん。」
「はい。」
「この村は、いつでもあなたを歓迎します。」
「ありがとうございます。」
二人は並んで夜空を見上げた。
その時、一筋の流れ星が空を横切る。
春人は気づかなかった。
その流れ星が、世界樹の運命が動き始めた合図だったことを。
遠い遺跡では、古代の石碑に新たな文字が浮かび上がる。
> 『最後の管理者、覚醒の時が近づく。』
静かな祝祭の夜は、世界を変える物語の序章に過ぎなかった。
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第七話 終




