第六話「眠れない夜、寄り添う温もり」
エルネシアに来て、一週間が過ぎた。
春人は少しずつ村の生活に慣れてきていた。
朝はフィアの作る朝食を食べ、昼はリーファと森を歩き、夕方には村人の手伝いをする。
最初はぎこちなかった挨拶も、今では自然に交わせるようになった。
「おはようございます、春人さん。」
「おはよう。」
「今日も頑張ろうね。」
そんな何気ない言葉が、春人には嬉しかった。
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しかし、その夜。
春人は眠れずにいた。
窓から見える満月を眺めながら、小さく息を吐く。
「……父さん、母さん。」
異世界で過ごす毎日は楽しい。
温かい人たちに囲まれ、笑顔も増えた。
それでも、地球に残してきた家族のことを忘れた日はなかった。
「今頃、心配してるよな……。」
自分は突然姿を消した。
事故に遭ったと思われているかもしれない。
探してくれているかもしれない。
そう考えると胸が締めつけられた。
気づけば、目には涙が浮かんでいた。
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コンコン。
小さく扉が叩かれる。
春人は慌てて涙をぬぐった。
「はい。」
扉を開けると、フィアが立っていた。
湯気の立つ木のカップを両手で持っている。
「眠れないのかな、と思って。」
「え……。」
「温かいハーブティーです。」
「気持ちが落ち着きますよ。」
春人は恐縮しながら受け取る。
「ありがとうございます。」
フィアは「少しだけ、お話ししませんか?」と穏やかに微笑んだ。
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二人は宿のテラスへ出た。
夜風が心地よく、森では虫たちが静かに鳴いている。
「このハーブは、悲しい気持ちを和らげると言われています。」
「美味しいですね。」
「ふふっ、よかった。」
しばらく静かな時間が流れる。
やがてフィアが口を開いた。
「故郷を思い出していましたか?」
春人は少し驚いた。
「……分かりますか?」
「分かります。」
「私も昔、大切な人を失って、毎晩眠れませんでしたから。」
春人は初めて知った。
いつも笑顔のフィアにも、つらい過去があったことを。
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「春人さん。」
「はい。」
「無理に笑わなくてもいいんですよ。」
「……。」
「悲しい時は悲しんでください。」
「寂しい時は寂しいと言ってください。」
「私たちは、そのためにいます。」
その言葉を聞いた瞬間、春人の肩から力が抜けた。
「……ありがとうございます。」
小さな声だった。
でも、その一言には感謝が詰まっていた。
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フィアは夜空を見上げる。
「エルフは長生きです。」
「だから、お別れにも慣れていると思われがちなんです。」
「でも、本当は違います。」
「大切な人を失うのは、何百年生きても悲しいんです。」
春人は静かに頷いた。
「だから。」
フィアは優しく笑う。
「今、一緒にいられる時間を大切にしたいんです。」
その笑顔は、まるで家族のような温かさだった。
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その頃。
世界樹の根元では、エリシアが一人祈りを捧げていた。
「世界樹様……。」
金色の葉が一枚、ゆっくりと舞い落ちる。
それを受け取ったエリシアの瞳が揺れた。
「そんな……。」
世界樹から届いた啓示。
そこに記されていた言葉は、あまりにも残酷だった。
> 『世界を書き換える者は、元の世界へ帰ることはできない。』
エリシアは唇を噛む。
まだ春人には伝えられない。
彼がこの世界を好きになり始めた今、その真実を告げることはできなかった。
彼女は静かに胸の前で手を組む。
「どうか……。」
「もう少しだけ、この穏やかな日々が続きますように。」
夜空には満天の星が輝いていた。
しかし、その星々の向こうでは、春人の運命が少しずつ動き始めていた。
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第六話 終




