第五話「笑顔を守りたい」
朝日が森を優しく照らしていた。
小鳥のさえずりと、風に揺れる木々の音。
春人は宿の窓を開け、大きく深呼吸をした。
「……気持ちいい。」
地球にいた頃は、朝が嫌いだった。
目覚ましの音で起き、慌ただしく支度をして仕事へ向かう。
毎日が同じことの繰り返しだった。
しかし、この村へ来てからは違う。
朝日を見るたびに、「今日も一日が始まる」と自然に思えるようになっていた。
コンコン。
扉が軽く叩かれる。
「春人さん、起きていますか?」
聞き慣れた声。
「はい!」
扉を開けると、フィアが笑顔で立っていた。
両手には木で編まれた小さな籠がある。
「朝食ができましたよ。」
「ありがとうございます。」
「今日は畑で採れたばかりの果物もあります。」
フィアは嬉しそうに微笑んだ。
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食堂へ行くと、村の人たちが春人へ笑顔で挨拶をしてくれる。
「おはようございます、春人さん。」
「昨日は眠れましたか?」
「今日も元気そうですね。」
まだ数日前に来たばかりなのに。
みんなが自然に話しかけてくれる。
春人は少し照れながら頭を下げた。
「お、おはようございます。」
その様子を見て、フィアがくすっと笑う。
「少しずつ慣れてきましたね。」
「え?」
「最初の日は、緊張で顔が固まっていましたから。」
「そ、そんなにですか?」
「はい。」
春人は恥ずかしくなって頬をかく。
周囲から笑い声が上がる。
その笑いには悪意がなく、温かさだけがあった。
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朝食の後。
リーファが春人の前に立った。
「今日は暇?」
「え?」
「森を案内する。」
「本当ですか?」
「昨日の続きを見せたい場所がある。」
春人は嬉しそうに頷いた。
「お願いします。」
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村の外れへ向かう途中。
リーファは森に生えている植物を一つひとつ説明してくれる。
「この花は薬になる。」
「こっちは食べられる木の実。」
「この草は触るとかぶれるから気を付けて。」
「覚えられるかな……。」
春人が苦笑すると、リーファは少し笑った。
「最初はみんなそう。」
昨日まで警戒していた彼女とは思えないほど、表情が柔らかくなっていた。
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しばらく歩くと、小さな広場へ出た。
そこでは幼いエルフの子どもたちが遊んでいた。
「リーファお姉ちゃん!」
子どもたちが駆け寄ってくる。
「今日は誰?」
「人間さん?」
春人は少し緊張しながら膝をついた。
「こんにちは。」
「こんにちは!」
元気いっぱいの返事。
一人の小さな女の子が春人を見上げる。
「お兄ちゃん。」
「はい?」
「また遊びに来てくれる?」
その一言に、春人は思わず笑顔になった。
「もちろん。」
「約束だよ?」
「約束。」
小さく指切りをする。
その様子を見ていたリーファが、優しく目を細めた。
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帰り道。
リーファがぽつりと話し始める。
「……ありがとう。」
「え?」
「子どもたち、最初は人間を怖がると思ってた。」
「そうなんですか。」
「でも、あなたにはすぐ懐いた。」
少し照れくさそうに笑う。
「春人は……安心する匂いがする。」
「匂い?」
「うん。」
春人は苦笑した。
「初めて言われました。」
二人は思わず笑い合う。
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夕方。
村へ戻ると、広場で困っている人たちがいた。
荷車の車輪が壊れ、大きな木材を運べなくなっていたのだ。
春人はすぐ駆け寄る。
「手伝います!」
「でも、人間には重いですよ?」
「やってみます。」
春人は力いっぱい荷車を持ち上げる。
決して大きな力ではない。
それでも、一生懸命支える。
その姿を見た村人たちも次々と集まり、力を貸してくれた。
やがて荷車は動き出す。
「ありがとう!」
「助かりました!」
春人は照れながら笑う。
「僕一人じゃ無理でした。」
すると年配のエルフが言った。
「一人ではなくてもいいのですよ。」
「困った時は助け合う。それがエルネシアです。」
その言葉に、春人の胸が熱くなる。
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夜。
宿へ戻る途中。
春人は村を見渡した。
笑い声。
温かな灯り。
穏やかな時間。
そして、自分を迎えてくれる人たち。
「……守りたいな。」
自然と、その言葉が口からこぼれた。
「この村のみんなの笑顔を。」
その瞬間。
遠くにそびえる世界樹が、淡く金色の光を放つ。
まるで春人の決意に応えるように。
しかし、その光を遠く離れた遺跡から見つめる、一つの黒い影があった。
「ついに……世界樹が応えたか。」
その人物は静かに姿を消す。
世界の歯車は、誰にも気づかれぬまま、ゆっくりと動き始めていた。
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第五話 終




