第十話「新しい居場所」
春人がエルネシアへ来て、一か月が過ぎた。
異世界へ迷い込んだ不安は、まだ完全には消えていない。
それでも今では、朝になれば自然と笑顔で宿を出られるようになっていた。
「春人さん、おはようございます!」
「おはよう。」
「今日は世界樹の実を収穫する日ですよ。」
フィアが籠を持って駆け寄る。
「手伝います。」
「ありがとうございます。」
そのやり取りを見ていた村人たちも笑顔になる。
「春人さんが来てから、村が明るくなりましたね。」
「子どもたちも毎日楽しそうです。」
そんな言葉を聞くたびに、春人は照れくさそうに笑うしかなかった。
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昼過ぎ。
収穫を終えた春人は、子どもたちに囲まれていた。
「お兄ちゃん!」
「高い高いして!」
「鬼ごっこ!」
春人は息を切らしながら笑う。
「一人ずつね!」
その様子を、エリシア、リーファ、フィアの三人が少し離れた場所から見守っていた。
「すっかり人気者ですね。」
フィアが微笑む。
「最初はあんなに緊張していたのに。」
リーファも頷いた。
「今では子どもたちの方から集まってくる。」
エリシアは静かに春人を見つめる。
「世界樹様……。」
「あなたは、やはり間違っていなかったのですね。」
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その日の夕方。
春人は世界樹の丘へ向かった。
一人になりたいわけではない。
ただ、この景色を見ると心が落ち着くのだ。
世界樹は夕日に照らされ、黄金色に輝いている。
「また来てしまいました。」
春人は苦笑しながら幹に触れる。
その瞬間。
柔らかな光が春人を包んだ。
「え?」
目の前に、一人の少女が現れる。
金色の髪。
白いワンピース。
透き通るような肌。
どこか神秘的な雰囲気をまとっていた。
「あなたは……。」
少女は優しく微笑む。
「私はルミナ。」
「世界樹の意思を伝える者です。」
春人は驚きながらも、不思議と恐怖は感じなかった。
「世界樹の……。」
ルミナは頷く。
「春人。」
「あなたは、この村をどう思いますか?」
春人は少し考えた。
そして、迷わず答える。
「大好きです。」
「ここへ来るまでは、自分に居場所なんてないと思っていました。」
「でも今は違います。」
「みんなが笑ってくれる。」
「名前を呼んでくれる。」
「一緒にご飯を食べて、一緒に笑ってくれる。」
「僕は……。」
「この村が好きです。」
ルミナは満足そうに微笑んだ。
「その答えを待っていました。」
「え?」
「あなたの心は、この世界を受け入れ始めています。」
「だから。」
「次の扉が開かれます。」
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光が消える。
気が付くと春人は世界樹の前に立っていた。
手の中には、小さな白い種が握られている。
「これは……。」
そこへエリシアたちが駆け寄ってきた。
「春人さん!」
「大丈夫ですか?」
「今、世界樹が強く光りました。」
春人は種を見せる。
「これを受け取りました。」
エリシアは息をのむ。
「世界樹の種……。」
「そんな……。」
リーファも目を丸くする。
「伝説でしか聞いたことがない。」
フィアは春人の手をそっと包む。
「きっと世界樹様が、春人さんを信じた証ですね。」
春人はまだ意味が分からなかった。
しかし胸の奥では、小さな期待が芽生えていた。
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その夜。
村の人々は何も知らず、穏やかな眠りにつく。
しかし世界樹の地下深く。
古代の扉がゆっくりと開き始めていた。
その奥には、数千年前から封印されていた巨大な神殿。
壁一面に刻まれた古代文字が青白く輝く。
その中心で、一人の黒衣の人物が静かに目を開いた。
「最後の管理者……。」
「ようやく、ここまで来たか。」
彼は敵意ではなく、どこか寂しげな表情で世界樹を見上げる。
「願わくば。」
「君が、私とは違う答えを見つけてくれることを。」
その言葉だけを残し、闇の中へ姿を消した。
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一方、宿へ戻る春人は、満天の星空を見上げていた。
「この世界に来て、一か月。」
「まだ分からないことばかりだ。」
「でも。」
「この村を守りたい。」
「みんなの笑顔を守りたい。」
その想いは、もう迷いではなかった。
それは、春人自身が見つけた「生きる理由」の第一歩だった。
こうして、穏やかな日々は終わりを迎える。
次なる旅は、世界樹が託した「白い種」とともに始まる。
そして春人は、世界の真実へと近づいていく。
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第一章 完




