第三話「初めての朝食と、小さな居場所」
朝。
春人は目を覚ました。
見慣れない天井。
木の香り。
窓から差し込む柔らかな光。
一瞬、自分の部屋ではないことを忘れていた。
「……そうか」
昨日の出来事を思い出す。
光る森。
異世界。
エルフ。
女性だけの村。
「夢じゃないんだな……」
頬をつねる。
痛い。
「本当に異世界か……」
改めて考えると、恐ろしくなった。
帰る方法も分からない。
知っている人は誰もいない。
言葉が通じることだけが救いだった。
「どうしよう……」
その時。
お腹が鳴った。
「……」
春人は少し恥ずかしくなった。
すると、外から優しい声が聞こえた。
「春人さん?」
エリシアだった。
「朝食の準備ができています」
「あ……ありがとうございます」
扉を開けると、エリシアは微笑んでいた。
「眠れましたか?」
「はい……たぶん」
「たぶん?」
「色々考えすぎてしまって」
春人が苦笑すると、エリシアは少し寂しそうな顔をした。
「当然です」
「え?」
「突然、知らない場所に来たのですから。不安になるのは当たり前です」
その言葉が、春人の胸に響いた。
今まで。
「気にしすぎ」
「考えすぎ」
そう言われることはあった。
でも。
不安を理解してくれる人は少なかった。
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食堂へ向かうと、そこには多くのエルフたちがいた。
春人が入った瞬間。
視線が集まる。
「……」
やはり緊張する。
女性ばかりの場所。
しかも全員が美しい。
春人はどうしていいか分からず、立ち尽くした。
すると。
「春人さん、こちらです」
声をかけてくれたのは、一人の女性だった。
赤茶色の髪。
明るい笑顔。
優しい雰囲気。
「私はフィアです」
「料理を担当しています」
「昨日から何も食べていないでしょう?」
テーブルには見たことのない料理が並んでいた。
色鮮やかな野菜。
香草の香り。
焼きたてのパン。
「これ……僕のために?」
「はい」
フィアは当たり前のように答えた。
「困っている人に食事を用意するのは普通ですよ」
その言葉に、春人は少し驚いた。
地球では。
誰かが自分のためだけに料理を作ってくれることなんて、ほとんどなかった。
「いただきます」
春人が手を合わせる。
すると周囲のエルフたちが不思議そうに見た。
「それは何のお祈りですか?」
「あ……日本では食事の前に言う習慣なんです」
「素敵ですね」
フィアが微笑む。
「命をいただくことへの感謝……という意味でしょうか?」
「はい」
「あなたの故郷は、優しい文化がありますね」
その一言で、春人は胸が温かくなった。
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食事の後。
春人は村を歩いていた。
案内役はリーファだった。
昨日とは違い、少し警戒が薄れている。
「この村には何人くらいいるんですか?」
「約五百人です」
「全員エルフ?」
「はい」
「男性は……」
リーファは少し黙った。
「いません」
「……」
「私たちは、それが普通だと思っていました」
彼女は空を見る。
「でも、最近は違います」
「違う?」
「子どもが生まれる数が減っています」
春人は言葉を失った。
美しい村。
幸せそうに暮らす人々。
しかし、その未来には不安がある。
「だから……僕が来たことは関係あるんですか?」
春人が聞く。
リーファは答えなかった。
ただ、小さく呟く。
「世界樹様があなたを呼んだのなら……意味があるはずです」
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夕方。
春人は村の外れにある大きな木の前に立っていた。
昨日見た、巨大な樹。
世界樹。
近づいた瞬間。
胸の奥が熱くなる。
「……何だ?」
すると、一瞬だけ声が聞こえた。
――孤独を知る者よ。
――だからこそ、他者の痛みを理解できる。
春人は驚いて周囲を見る。
誰もいない。
しかし、その声は確かに聞こえた。
――あなたには、この世界に必要なものがある。
――力ではない。
――心だ。
光が消える。
春人は呆然と立ち尽くした。
まだ何も分からない。
でも。
昨日までの孤独とは違う。
ここには、自分を気にかけてくれる人がいる。
初めて。
「帰りたい」だけではなく、
「ここを守りたい」
という気持ちが芽生え始めていた。
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そして世界樹の奥では、長い眠りから目覚めた存在が静かに春人を見つめていた。
「ようやく……始まる」
「新しい世界への扉が」
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第三話 終




