第二話「初めて見たエルフの村」
「……人間?」
目の前の少女は、警戒したまま弓を構えていた。
春人は慌てて両手を上げる。
「ま、待ってください! 僕は怪しい者じゃありません!」
自分でも何を言っているのか分からなかった。
突然、知らない森に放り出されて、目の前には耳の長い美しい女性。
普通なら混乱する。
だが、それ以上に春人を驚かせたのは、その少女の表情だった。
怖がっている。
警戒している。
でも同時に、どこか信じられないものを見るような目をしていた。
「……本当に人間なの?」
「え?」
「あなたのような存在が、この森に現れるなんて……」
少女はゆっくり弓を下ろした。
「私はリーファ。エルネシアの森守です」
「エル……ネシア?」
聞き慣れない言葉。
春人は周囲を見渡す。
やはり、ここは日本ではない。
植物も、空気も、何もかも違う。
「僕は春人です」
「ハルト……」
リーファは、その名前を小さく繰り返した。
まるで大切な記憶を確認するように。
「あなたは、どこから来たのですか?」
「どこからって……」
春人は言葉に詰まる。
異世界から来ました。
そんなことを言って信じてもらえるだろうか。
「……日本っていう場所です」
「ニホン?」
リーファは首を傾げる。
その反応で、春人は確信した。
ここは自分の知っている世界ではない。
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「リーファ!」
森の奥から声が聞こえた。
数人の女性がこちらへ向かってくる。
春人は思わず息を止めた。
美しい。
それが最初の感想だった。
金色の髪。
銀色の髪。
青い瞳。
緑の瞳。
全員が人間離れした美しさを持っている。
そして全員、長い耳をしていた。
「エルフ……」
春人が呟く。
すると、一人の女性が驚いた。
「今……エルフと言いましたか?」
「え? あ、はい」
「その言葉を知っている?」
女性たちはざわめいた。
その中で、一番落ち着いた雰囲気を持つ女性が前に出た。
白い衣をまとい、優しい瞳をしている。
「私はエリシアです」
「初めまして……」
「あなたのお名前は?」
「春人です」
エリシアは静かに目を閉じた。
そして、まるで祈るように呟く。
「……世界樹様」
「え?」
「ついに……現れたのですね」
春人には意味が分からなかった。
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村へ案内される途中。
春人は何度も周囲を見回した。
そこは絵本の中のような場所だった。
巨大な木の中に作られた家。
花で飾られた道。
水晶のように輝く川。
そして、歩いているのは全員エルフの女性。
「ここが……村?」
「はい。エルネシアです」
エリシアが微笑む。
「この村には、長い歴史があります」
「すごいですね……」
「ですが、一つだけ問題があります」
エリシアの表情が少し曇った。
「問題?」
「はい」
彼女は静かに答える。
「この村には……男性のエルフが、数百年生まれていません」
春人は驚いた。
「え……?」
「私たちは女性だけの一族です」
その言葉の意味を理解するまで、少し時間がかかった。
美しい村。
優しい人々。
しかし、その裏には大きな孤独があった。
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夜。
春人は村の宿で一人、窓の外を眺めていた。
星空が広がっている。
地球では見たこともないほど、綺麗な星空。
でも。
胸の奥には不安があった。
帰れるのか。
家族はどうしているのか。
自分はこの世界で何ができるのか。
「……僕、本当にここで生きていけるのかな」
その時。
扉が軽く叩かれた。
「春人さん」
声の主はエリシアだった。
「眠れませんか?」
「……はい」
少し沈黙が流れる。
するとエリシアは、小さく笑った。
「不思議ですね」
「何がですか?」
「あなたは突然現れたのに……」
「?」
「ずっと昔から、この村にいたような気がします」
その言葉に、春人は少し驚いた。
そして初めて。
この異世界で、自分を受け入れてくれる人がいるのだと感じた。
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その夜。
世界樹の奥深くで、巨大な樹が淡く光った。
長い眠りから目覚めたように。
そして、誰にも聞こえない声で呟く。
――異界の魂よ。
――あなたが、この世界の未来を選ぶ時が来た。
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第二話 終




