リィズとの出会い
「それで仲間たちとはぐれ、森に迷いこんでしまった後あのスライムに襲われたんだね。」
大き目の瓦礫に腰掛け少女の話を詳しく聞いた。仲間たちと旅をしていたというならば、少女をその者たちも今必死に探しているはずではないのか。しかし、少女の願いは打って変わっていた。
「私は北を目指さなければなりません」
「北!?なぜ?……君、竜人族なんじゃ?」
「そ……それは……」
何か言えない理由があるのか。少女はためらいを含みつつも答えてくれた。
「……はい、お察しの通り私は竜人族です。私の質問にも答えてくれますか?《あのドラゴン》はどこで使役したのですか?」
あのドラゴンとは間違いなくユナイト・ドラゴンのことだ。
「カードだよ」
そう言ってカイトはユナイト・ドラゴンのカードを取り出して見せた。
「カード?」
それを見た少女が首を傾げる。
「理解できないかもしれないし俺もうまく説明できないからありのままを話すとね、前世で手に入れたカードを持ってこの世界に……んと、転生したんだ」
少女がしばらく沈黙する。
「こっちだって聞きたいよ。なぜ俺がドラゴンのカードを持っているってわかったんだ?」
「それは……そう、同じ竜の仲間ですから……」
もっともらしい回答だがその声のトーンと曖昧さの乗った表情を見て、それが取ってつけたような理由だとわかったが、カイトは頭を掻きながら言った。
「ま、素性を詳しく話せないのは俺も同じか。実は俺も北を目指しているんだ。この世界がおかしくなっているのはなぜか。情報が欲しい」
「そうでしたか……お願いします、一緒に行ってくれませんか」
どの道、このまま放っておけるはずもなかった。
「行こう、俺はカイトって言うんだ。君の名前は?」
これから行動を共にするのだ、呼び名くらい知っておきたい。
「リィズ。リィズと呼んでください」
「リィズよろしくな!まずはこの森を抜けなきゃ、またあのスライムがでてきたら厄介だ」
「その心配はないと思います」
リィズはその瞳に余裕を浮かべて言った。
「え?どうして?」
「皆の言う《クライシス・モンスター》はドラゴンを警戒します。ドラゴンの叫びを聞いたこの辺りのモンスターはしばらく寄り付かないでしょう」
それを聞いてカイトはそっと胸を撫で下ろした。
――森をまたしばらく進んだ。リィズの言う通りスライムはおろか一匹のクライシス・モンスターも現れなかった。厳かで薄暗い獣道をただひたすらに進んでいく。
「わかっちゃいたがどこまで続くんだこの森?ユナイト・ドラゴンに乗って、ひとっ飛びなんてできないのか?」
「カイト。あなたのドラゴンはまだ《未熟態》です。あり余る力に体内のエネルギー生成が追い付いていない。短い間隔でそう何度も呼び出せませんし、長時間活動させるのも無理でしょう」
「もしかして、ドラゴンって燃費が悪いのか?」
「ネンピ?」
「なんでもないよ」
それまで他の誰かと組んで行動することはまったくなかった。キダンの街でもカイトはゴブリンの商人の顔もあり、ほとんどの街のモンスターたちと友好的な関係を築けていたが一部からは「怪しげな妖術使いなのでは」と奇異の目で見られることもあった。
気づけば浅瀬の水域にたどり着いていた。
成り行きとは言えこうして誰かと共に旅をすることも悪くないのだなと感じつつ、前世の記憶が蘇る。高校生活で修学旅行に参加することも叶わなかった。その年の行先は沖縄だった。病室の中で妥協して動画サイトで「沖縄 旅行」と検索してみた。中でも《マングローブ》という森に魅力を感じた。その水域はまさに写真で見たマングローブの森そのものだった。思わず感動が声になる。
「マングローブの森って実際はこんな感じなのか。あの大木なんて水の中にたこ足みたいに張った根を動かせて……。は……木が動いている!?」
よく見ると《ウィップ・ツリー》と表示された。クライシス・モンスターではなく《原生モンスター》だ。その枝や根を鞭のようにしならせウネウネと動いている。
ウィップ・ツリーはAPは5と高い数値はないのだが、その数に驚愕した。視認できる数だけでも軽く二十体はゆうに超えていたのだ。
「カイト、後ろ!」
後方からもう一体のウィップ・ツリーの鞭攻撃が迫った。リィズの声掛けに即座に反応し彼女を抱え回避行動を取った。咄嗟に水辺の方へ跳ぶ。足の付け根くらいまで浸る深さだ。
ウィップ・ツリーは二人を獲物と認識し取り囲むように、意思を持ち動いていた。
「くそ、迂闊だったか。囲まれた」
足から感じる冷たさと裏腹に、額に汗がにじみ出たのがわかった。




