「ドラゴンを呼んで」
カイトは反射的に悲鳴の聞こえる方角へ走った。
「なんだなんだ?」
悲鳴はまぎれもなく女性のそれだ。
「どこだ!?どこなんだよ!?」
声を出して悲鳴の主とコンタクトを取ろうとした。
「うあああ。こ、こっち!」
お相手も叫んで返してくれた。
その声を頼りに進むと森林を抜け、景色がガラッと変わった。
森の中には変わらないのだがやや開けた場所に城……とはもう言えまい、損壊した廃墟が出現した。
瓦礫の陰にチラリと見えるのは獣人型モンスターの少女だった。
それが虹色のスライム三体に追いかけられていたのである。
「さっきのスライム!複数体いたのか!」
カイトは自らの右腕で勢いよくスライムを払うように飛び込み、すかさず少女を抱き寄せ距離を取った。その存在は桜色の髪にレモンイエローのシンプルなワンピースをまとい、体格も小さくとてもか弱い存在としてカイトの目に映った。
「まずはコイツらをなんとかしないと」
カイトがデッキケースに手をかけようとした瞬間、一枚のカードが意思を持ったように飛び出した。
「うわっ、なんだ!?」
それはスペルカードのストーンウォール。
光が発せられ強制発動されたのだが、現れたのはゲル状に変化しつつある《石の何か》であった。
先ほど使用した石の壁は、倒したはずのスライムのデータの粒子に侵食されていたのである。
「……お、おい。どうなって……」
状況がまったく理解できないカイトをよそに、石の何かにスライム三体も加わり融合を果たそうとしている。
カイトはたまらずカードを手に取った。嫌な予感がする。
「来い!《アーマード・ファルコン》攻撃だ!」
機械化された隼が突進攻撃を試みるが一歩遅かった。
ゲル状にあった敵は石の性質を模倣し、硬質化された新たなモンスターと変貌を遂げていた。
それは上半身のみではあるが虹色に光る眼に高さ3メートルはゆうに超える巨大な体躯、まさに《石の魔人》とでも言うべき恐ろしいモンスター。
かろうじて原型を留めていた廃墟を破壊しながらまるで一体化するように姿を現した。
直後、アーマード・ファルコンは魔人の勢いよく振り下ろされた右腕によって迎撃撃破された。
「くっ、ファルコンが……」
目を凝らすとそのAPは22と表示された。
「AP22だと!?」
そう簡単に超えられる数値ではなかった。
カイトが逃げるしか道はないのかと考えた時、自身の背中越しに少女が叫んだ。
「ドラゴンを……ドラゴンを呼んでください!」
「ドラゴン!?」
ドラゴンカードなら《ユナイテッド・ドラゴン》がデッキケースの中に確かに入っているが、今まで召喚に成功できたことはない。しかし、召喚することができるならユナイト・ドラゴンのAP25の力でこの状況を打破できるだろう。
「ダメなんだ。召喚できないんだ」
上半身だけの魔人といっても移動能力がどこまであるかもわからない。
そもそも、逃げられるのかもわからない。魔人が右腕を振り上げた。
「ドラゴンを、ドラゴンを呼んで!!」
再度、少女の叫びが耳をついた時カイトは覚悟を決めデッキケースからユナイト・ドラゴンのカードを取り出した。
魔人の平手打ちがカイトたちに迫る。
「ええい、頼む!《ユナイト・ドラゴン》」
カードを前方に放つと今までで最も強い光がそれから溢れるように発され、データの粒子がその神秘的な姿形を形成し漆黒の龍を出現させた。
ユナイテッド・ドラゴンが魔人の腕を負けず劣らずの巨躯で受け止めた。
「しょ……召喚に成功した!?」
驚いてばかりでもいられなかった。
カイトは間髪を入れずドラゴンに攻撃命令を出す。
ユナイテッド・ドラゴンAP 25 vs 石の魔人AP 22
「攻撃だ!ユナイテッド・ドラゴン!」
グオアアアア
とドラゴンは雄叫びをあげた。
その音は超振動破となり石造りの魔人を削り取っていった。
その中にスライムも跡形もなく消滅していくのを視認し、戦闘は終わりを迎えた。
ストーンウォールのカードは消滅し失ってしまった。
ドラゴンがカードの中に戻った後。
さすがのカイトもしばらく呆然としていた。
なぜ今まで何度試しても不可能だったドラゴンの召喚に成功したのか、いまだ自分の背中越しで体を震わせているモンスターはなぜこんな森の中で単独で行動していたのか。
「だ……大丈夫かい?ケガは?」
この期に及んでそんな当たり障りのないことしか言い出せない自分がもどかしく感じる。
「……大丈夫です、その……助けてくれて感謝します」
察するに前世の基準で言えば小学生ぐらいじゃないか、やけに落ち着いた大人びた言い方をする子だなと思う。
……良く見ると鋭い歯に長い尻尾、そして体の複数個所に見られる鱗。
もしやこの子は……竜人族なのではないか。




