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奇妙なスライムモンスター

森の中、《ハングリーグリズリー》がけたたましい雄叫びを上げた。しかし対峙するカイトは少しも動じる様子はない。カイトの左方から後方にかけて滝があり、そこから勢いよく流れ来る水が立派な滝つぼを形成している。逃げ場はないということなのだろうが逃げるつもりもない。

 ゴアアァ

 再度、ハングリーグリズリーの威嚇するような叫び声が森に反響する。

「うるさいなぁ。滝の音とでも張り合っているのかよ?」

カイトはなおも余裕を見せる。目を凝らしモンスター見ると名前表記は赤色。つまり、デミホルンのデータ上では原生モンスターではなく討伐対象の《クライシス・モンスター》ということだ。

 腰ベルトに着けたデッキケースから2枚のカードを引き抜いた。

「いくぞ!召喚《ポラリス団の槍使い》」

カードを前方に掲げるとデータの粒子の光と新たなモンスターが現れた。布地の服に鋼鉄の胸当てとすね当て、その名の通り長めの槍を装備した戦士である。

 ポラリス団の槍使いAP12 vs ハングリーグリズリー AP13

 ハングリーグリズリーは右腕を高く振り上げ槍使いに襲いかかった。槍使いはその槍の突き攻撃で応戦しようとするが肝心のAPがあと1だけ足りない。いずれ隙を晒すことになってしまうだろう。が、カイトもそれは百も承知である。接近戦に入ったその瞬間に取り出しておいたもう1枚のカードを使った。

「スペルカード《魔物狩りの剣》発動!」

スペルカードは文字通り『発動者本人が魔法を唱える』カードである。今回のように仲間モンスターを助ける武器を形成することもあれば、戦況に影響を与える攻撃呪文や変化呪文を使用することもあるのだ。

〈魔物狩りの剣:戦士・騎士モンスターに装備可能。APを3ポイントアップさせる〉

 この効力にて槍使いもとい剣使いはAPが15になりハングリーグリズリーを一閃、撃破した。

「よし!倒したか!……やはりアイテムは残らないか」

クライシス・モンスターを倒してデータ分解されてもアイテムが出てくることはなかった。多くの狩人がそれらの討伐に出向いているがいずれもアイテムを入手したという話は一向に聞かなかった。

「もっと北へ進もう。きっと手掛かりは見つかるはずだから」

カイトは自分自身に気合を入れるように言った。北部にある《龍の都・アリーガ》が襲われ壊滅しその後に異常事態は各地に広まった。何かしらの出来事があった可能性はかなり高い。

 ――そして、どれほどの距離を来ただろうか。道中、かろうじて残った宿屋で寝泊まりし安全な湖畔の側で休憩を取りながら移動すること10日は経っただろうか。

 時にはモンスター力を借りて河を渡り丘を超え、また新たな森エリアに入った。

それまでの森エリアの何倍も広大な森だと先ほど丘に登った時には気づいていた。天を貫くのではないかと思わせるほど高く伸びた木々があちらこちらにそびえたつ。一度、方向感覚を失えば簡単には脱出することのできない《迷いの森》なのではないかとも思える。

 しかし、この森を抜けなければ北側にはかなりの距離を迂回することになるであろうこともわかっていたためカイトはそこに少しのためらいもなく入っていた。

「薄気味悪いなんて今に始まったことじゃない。それに今は1人じゃないんだ。俺にはカードが、仲間たちがいる」

――まったく音のない森に入ってしばらくすると上方の葉と枝がこすれ合う音が聞こえた。強風が吹いたわけでもない。数枚の葉っぱと同時に幅約50センチほどの楕円形《スライム型モンスター》1体がカイトを目掛けて落下してきた。咄嗟に避けて臨戦態勢を取る。

スライムの外見は虹色に絶え間なく変色するゼリー状の物質で、目や鼻や口といったものがない。いわば『のっぺらぼう』。

「ファンタジーゲームとかじゃ『スライム』なんて王道中の王道だがこの世界じゃまったく見なかったがな!……何?」

そのモンスターの名前表記は赤色なのでクライシス・モンスターに間違いはないのだが、《???》なのである。以前にキダンの街を壊滅させた暗雲型モンスターの時と同じ表示に加え、さらにはAPも?なのだ。その異形さと異常さにカイトはただならぬ不気味さを感じた。すぐさまモンスターを召喚する。

「現れろ《ステッキホビット》!」

魔法の杖を持ついたずら好きなホビット(小人族)が現れた。AP8のこのモンスターでまずは様子を見ようというのだ。

 ステッキホビットは杖を振り星形の魔法の力の塊〈魔力弾〉をスライム目掛けて数発打ち込んでいくが、スライムの俊敏性は高くことごとく躱されてしまう。

 ならばとカイトはスペルカードをデッキケースから引き抜いた。

「《ストーンウォール》のカード発動!」

〈ストーンウォール:石の壁を出現させ相手モンスターの行動を制限する。そのモンスターは攻撃することができず、攻撃を避けることができない〉

突如、スライムを囲むように出現した石の壁がスライムの逃げ場をふさいだ。

 ホビットの放った魔力弾が命中しスライムはデータ分解されていった。

「APが8よりも低かったってことだったのか?」

謎がいくつも残るモンスターだった。

さらにこの時、カイトはスライムのデータの粒子の一部分がストーンウォールの中に入り込みそのままスペルカードとして戻ったことを見落としてしまった。

さらに奥へと進もうとしたその時。

――「いやああああ」

突如、悲鳴が静かな森に響き渡った。


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