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キダンの街とゴブリンのおっちゃん

カイトは生活の拠点としている小規模の街 《キダン》に帰投した。

広さは10キロ平方メートル程で街の中は《獣人型モンスター》たちが生活を営んでいる。

特にメインの大通りは昼時ということもあり露店がいくつも並び、多くのモンスターでごった返していた。


何やら武器屋で客と交渉しているドワーフ、訓練場で弓を引くエルフ、広場で談笑しているハーピィなどモンスターのタイプは様々だ。

カイトもその光景を目の当たりにした時は衝撃を受けたものだが不思議とモンスターたちの言語が日本語として理解できた。

かつこちらの言葉も相手に通じ意思疎通を取ることができるのは幸いであった。


生前、家族旅行で諸外国に行った際に家族と離れ迷子になった経験があるが、あの時の言葉が通じない怖さといったらなかった。その時よりは言葉が通じるだけまだマシだと思えたのである。

大通りを進み、目的のよろずやの前に着いた。


「よう、カイトじゃないか」


モスグリーンの体色に、大きく突き出た鼻、顔と同じくらい大きな耳が特徴的な〈ゴブリン〉の商人だ。命そのものが博打のチップでありその日その日を精一杯楽しむ、そんなゴブリンの特性を反映してか売れる物なら何でも売るというスタンスの店だ。

デミホルンにてカイトが右も左もわからなかった時に「お、ここらじゃ見ねえ顔だな」と初めて気さくに声をかけてくれたのもこのゴブリンモンスターであった。


「おっちゃん、これこれ!」


カイトは誇らしげに《ベリーボアの肉》を見せる。


「お!ベリーボアの肉か!こいつめ、今じゃすっかり腕の立つ狩人になっちまって!」

「おっちゃんが〈売れるアイテム〉とかそのモンスターの出現場所とか細かく教えてくれたからだよ!」


本当にこのゴブリンには感謝している。

デミホルンでの生き方を教えてくれた張本人だ。

拾得したアイテムやらは基本的に何でも買い取ってくれ通貨の《オヴィー》を手にし、飲食物を購入し宿屋に泊まることもできている。


「ベリーボアの肉なら300オヴィーでどうだ?」


キダンの宿屋の宿泊料は一晩35オヴィーだ。そう考えればカイトにとって300オヴィーは大金である。


「よおし、その値段で売ったぁ!本当にいつもありがとう!」

「いいってことよ!最初お前さんを見かけた時は普通の旅人かと思ったが、まさか立派な《召喚士》だったなんてな」


カードの力を使い様々なモンスターを使役しスペルカードにより魔法効果を扱えるカイトはこの世界では職業:召喚士と扱われるのだ。


しばらく世間話していると黒い修道着を身にまとった二足歩行の猫が会話に入ってきた。

キダンにある教会の牧師である。

なんてことない買い物をしに来たようであるが、その会話の内容にはただ事ではない様子だった。


「北の方角から野生の鳥型モンスターたちが一斉に南下するのをエルフの遊牧民たちが目撃したそうです。いや、鳥だけじゃない。あらゆるモンスターがまるで《何か》から逃げるように……」

「あの噂、本当なんですかい?――魔王(・・)が現れて北の《龍の都・アリーガ》が襲われたって話」


楽しめりゃ死ぬことさえもかすり傷、そんな心意気をいつも見せてくれるゴブリンが声を若干震わせたように感じた。

 カイトもアリーガの事件は噂でしか耳にしたことはないし、キダンからどれほど距離があるかわからない遠方で起きたことと一種の都市伝説なのでとせせら笑う者もいた。

 猫の牧師は急に青ざめた表情を作り緊迫した口調で続けた。


「私は毎日、神に祈りを捧げていますが嫌な予感は日に日に増すばかりです。……邪気がすぐそこに迫っているのではないか……」

 フォンッ


 風の音が微かに鳴り、それに運ばれて何か嫌な空気が体に当たった気がした。大通りの中から悲鳴が上がったのはその直後だった。


「なんだあれは!!」

「そ……空が!!」


見上げると北の方角から空が暗く黒と濃紺と深緑のグラデーション、不気味に染まっていくのが見えた。


「まだ夕方でもないのに……」


それは恐ろしい程の速さでキダンに迫った。

遂にキダンの街の上空をすっぽりと覆うと暗雲が立ち込めた。

すぐさまゴゴゴと雷鳴が轟くと稲妻の矢が街に降り注いだ。


 ズガガガァ

衝撃が地を打ち、砂埃や吹き飛んだ露店の残骸が火の粉をまとい大気中に高く舞い上がる。


「うああああ」「ひいいいい」「た……たすけ……」


大通りは阿鼻叫喚の騒ぎとなり、カイトも吹き飛ばされ気づいた時には地面を舐めるように倒れこんでいた。


 ゴゴッゴガアアアア

逃げ惑うモンスターたちをあざ笑うかのように稲妻は降り注ぐ。

 粉塵の中、カイトが何とか目を開け暗雲を見やると《???》と表示された。


「んなッ、あれはモンスターだってのか?」


???ではあるがデミホルンのデータ上で名前表記が確認できるということはモンスターであることに間違いはない。

 ならばこちらもモンスターで応戦できるのではないか。

手持ちの最強カードは《ユナイト・ドラゴン》AP25なのだが致命的な問題があった。

この世界に来て唯一このユナイト・ドラゴンのみ召喚できないのだ。

原因がカイト自身にあるのか、そのカードに召喚条件が(もうけ)られているのかすらもわからない。

 だが、カイトが真に絶望するのは次の暗雲型モンスターのAPが見えた瞬間だった。


「!!APが……35だと!そんなバカな……」



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