荒野の宿屋 エルフの戦士たち
カイトはリィズに急いで駆け寄り抱え上げた。
「リィズ、本当にすまない」
呼吸が荒くはなっているが命に別状はなさそうだ。
「ファルコン! すまないがもう一仕事頼む!」
左腕でしっかりとリィズを抱きしめ右腕でアーマード・ファルコンの脚に掴まり、丘の上からハングライダーの要領で滑空していった。
「くそっ、俺がもっと用心していれば良かったんだ……リィズ……」
荒れた大地を一つの風となって吹き抜けるように滑空速度を増していく。
やがて荒野にポツンと建てられた木造の一軒家を見つけた。下降するとそれは宿屋だった。
「早く……早くリィズを休ませてあげないと」
リィズをおぶせた状態でカイトは扉を壊さんばかりにバタンと力強く開け放った。
「すいません、この子を休ませてあげたいんです! なにか薬ありませんか?」
感情が高ぶって動揺していることは自分でもわかっていた。
「なんだい? 騒々しいねぇ」
宿屋の奥の方から女将のゴブリンが何事かと出てきた。
「部屋空いてませんか? この子を助けてあげたいんです」
カイトはリィズを入口近くの椅子に座らせ、女将ゴブリンに駆け寄り圧強めに必死に願い出た。
「部屋はたくさん空いているけどねぇ。ん? あんた、その首飾りは?」
次の瞬間、カイトは女将ゴブリンにいきなり胸ぐらを掴まれた。
「ゲホ、なにするんだよ!」
カイトは素早くその腕を振りほどいた。
こんなことしている場合じゃない。
その気持ちが余計にカイトを熱くさせた。
「その首飾りはウチの亭主の一点物じゃないかい!」
「え!?」
カイトの身に着けている首飾りはキダンの街で命を落としたゴブリンの商人の形見である。
カイトはキダンの街で起きた暗雲からの雷攻撃、その凄惨な事件、ゴブリンの商人が自らの恩人であることを話すと女将ゴブリンは唖然とした表情を浮かべつつリィズのための部屋を用意してくれた。
「さっきはいきなり悪かったね。この薬、竜人のお嬢さんに効き目あるかわからないけど飲ませてみるかい?」
「ありがとうございます。今は良く寝ているので起きたら本人に聞いてみますよ」
まだ完全に回復はしていないだろう。
しかしリィズがベッドで穏やかな寝顔を作っているだけでもカイトは安堵の気持ちで満たされた。
「……そうだ。この首飾りがご主人のモノだったのならお返しした方が……」
「あんたが持っていなよ」
カイトが言い終える前に女将ゴブリンは答えた。
「うちの亭主はちょうど一年前くらいさね。キダンの街で店開いて稼いで、この宿屋をさらに大きくしたいってね」
「そうだったんですか……」
「今じゃ空もヘンテコになっちまったしクライシス・モンスターなんぞ出てくるしでね。まあ、ここら一帯は討伐隊も多いし安全さ。今のところはね……」
そう話す女将ゴブリンの顔色はますます悪くなるばかりだった。
宿屋の入口の扉が開いた。
「女将さん、三人だ。休ませてもらいたい」
エルフの戦士たちが休息に入ってきたようだった。
頭にターバンを巻き背中に剣を背負い、長い耳と民族調のペイントを施した勇ましい顔つきが熟練の戦士であることを物語っていた。
「はいはい、三人ね。すぐに部屋用意するよ」
女将ゴブリンは慣れた手つきで支度をしに行った。
エルフたちは疲労困憊の中、テーブルに座り次なる行動はどうしようかと意見をすり合わせている。
「やはり、あの噂のトカゲモンスターの討伐に繰り出しますか?かしら」
「あの遺跡への突入?俺は腕が唸りますがねえ、かしらはどう思われやすか?」
どうやら《かしら》と呼ばれるリーダー格のエルフがいるようだ。
そのエルフが腕を組み少し考え込んだ。
「今まで多くの討伐隊がその遺跡へ入り、無事に帰って来れたのはほんのわずかな者たちと聞いているだろう? つまりそのほとんどが全滅しているんだ。迂闊な決断はできない」
「戦力が今のままでは心もとないということですか」
やや小柄なエルフが地図を広げ始めた。
「しっかし、その遺跡に行かないとなれば山へまた引き返すんですかい? 危険なのはどっちも変わらんと思いますが」
大柄で筋骨隆々なゴブリンが出された酒のジョッキをグイっと飲み干した。
「わかっている。だが三人のチームでは……」
聞き耳を立てていたカイトがエルフたちのテーブルに歩み寄る。
「あ、あの……良かったら俺もその遺跡攻略に参加させてもらえませんか」
カイトは緊張をはらませた声色で願い出た。




