別れのワイン
3日ほどルシアンは貴族牢ですごした。
その間、食事の他、解毒の薬を飲んだルシアンは、久しぶりに頭のモヤモヤしたものがなくなっていた。
兄へのあれほどの憎しみも跡かたなく消えていた。
地下牢の独特の匂いも、毎日変わるの薔薇の花の匂いに満たされ、立派なベッドも地下牢に入れられ貴族牢は居心地の良い場所に変わった。
兄のロイエンタールは、毎日のようにルシアンの牢を訪れ、いろいろなことを2人で話した。
やはり、ルシアンの飲んだ毒は弱いところにつけ込む性質があり、ルシアンのコンプレックスに薬が強く作用したようだ。
3日目に兄はワインを持って、牢を訪れた。
「ルシアン、お前を苦しめたのは、この私のせいでもある、今回のことは私が伯爵家より、マリアンヌのいる、侯爵家をとったせいかもしれない。
似た顔をした双子、もう私のことは忘れれろ。
お前はお前自身の道を歩いていけ、これが、お前のために出来る私の最後のことになるだろう。
借金のことはすべてマリアンヌが、片づけてくれた。
娼館の主ももう、どこかに消えて行ったのだろう。
ルシアン、覚えているか? 夏のあの堤防のこと、父の領地の視察の時、初めて3人で旅行出来て、楽しかったな。
大雨になり、堤防が切れないか、お前が心配して見に行き、二人で雨の中泥だらけになり笑ったこと、楽しかった一番のお前との思い出だ。
お前のことはマリアンヌと相談して、堤防工事の仕事を用意してある。
あそこの主任は、もう年なので、後継者を探していた。
お前ががんばれば、あの堤防の主任になれるだろう。」兄の話には、続きがあった。
このワインを飲めば、嫌なことはすべて忘れる、借金のことも、その後にお前に起きた不幸なことも、あの娼館の主のことも、そしてたぶん、私のことも、、、
私の双子の片割れじゃなく、男として、自分の道を歩いてほしい。
兄は少し寂しそうに私に言った。 私は子供の時の堤防のことを思い出し、微笑んだ。
「あの時はほんとうに楽しかったな」そして兄がついでくれた薬の入ったワインをいっきに煽った。
たとえ薬が毒でもこのまま毒で死んでも良いと思った。 兄も涙ながらにワインを飲んだ。
兄との決別のワイン、薔薇の香りとワインの匂いだけが、私の頭に微かに響いた。




