夫の弟、ルシアン
「いつ頃からだろう? 兄を憎むようなったのは、、、」ルシアンはローズウッド邸からの帰りの馬車で揺られながら、考えていた。
私と兄は一卵性の双子で生まれ、私は兄よりほんのすこし遅くこの世に生まれた。
父は双子の誕生を喜んではくれず、母もまた、兄だけを可愛がった。
私の存在はこの伯爵家から消され、私はメイドに屋敷から少し離れた離宮で育てられた。
そんな私であったが、兄は私のことを気にかけてくれ、よく二人で離宮の庭で遊んだ。
兄は兄で厳しい教育を父に課せられ、大変な次期もあったみたいだが、前向きな姿勢でいつも明るく私に接してくれた。
私は、そんな兄をみて、自分のほうがこの家から何も期待されず、気楽だと思ったことも多かった。
父親は、自分が弟と醜い家督争いをしたせいで、将来、双子が伯爵家の家督争いにならぬように、私達兄弟を徹底的に差別したようだったので、私は16歳になっても、兄のおまけのような存在であった。
私はそのころから、兄とあまりしゃべらなくなってしまった。
兄が親し気に話しかけても、どこか上の空であった。
16歳で兄は高等貴族学校に行くと兄はみるみる優秀な成績を治め、父の兄自慢は頂点に達した。
優秀な成績で学校を卒業した兄、兄は一家の誇りであり、私も兄を心の中では、誇らしく思った。
しかし、卒業後、皇帝の親戚の侯爵家の娘との婚約話が持ち上がると、私の立場が、微妙になってしまった。
美しく優秀な2人は貴族学校で知り合い、愛を育んできたなど、世紀の恋などと世間から言われ、誰もがあこがれの2人を祝福し、兄は21歳の時、結婚した。
兄は伯爵家を私に託し、困ったことがあれば、何でも相談するようにと、私に言いこの館を去っていった。
そのころから父は、事業意欲をなくし、だんだんと事業を縮小させていった。
まあ、私には事業は無理だと、思ってたのだろう、そしてことあるごとに私と兄を比較する様になった。
私はその時初めて兄の存在を疎ましく思うようになってきた。
父は次第に病で元気がなくなり、兄の結婚の1年半後に亡くなった。
そしてその後、伯爵家の家督を継いだが、私にとっては、それは大きな負担そのものだった。
兄は父が亡くなってからも、時々伯爵邸を訪れ、私にいろいろな提案をしてくれたが、私にとりそれは、単なる雑音にしか聞こえなくなった。 次第に私の周りには、私の金目当てに寄ってくる不良貴族と言われれる仲間が増え、派手に夜の街を遊び歩き、伯爵家の財産を減らしていった。
そんな私を心配した兄からは、一つ堤防の事業で私に任せたい仕事がある、と言ってきたが、私は友人からのデカい仕事を伯爵家の全財産を賭けて、兄を何とか見返したいと、兄にも相談せずひきうけてしまった。
遊び仲間の友人もいい加減な奴で、途中事業から手を引く中、私は一人で頑張ったが、次第に負債が増え、借金が雪だるまのように膨らみ、ある夜私は、馬車で拉致されてしまった。
娼館の主人は私が侯爵家の兄の兄弟だと知り、手紙を書き、借金の肩代わりをしてくれるよう、要望した。
兄に何度か借金の肩代わりを手紙でお願いしたが、その件は良く調べてから、妻と相談してからと、良い返事はもらえなかった。
娼館の主人は業を煮やし、私に男娼としての仕事をさせるようになった。
もちろん、彼の屋敷で監視付きだったので、逃げられず、多くの女を相手にされられた、その客の一人にキャロラインがいた。
キャロラインは兄の妻マリアンヌと腹違いの妹で、父親の公爵が無くなると、大したお金も渡さず、侯爵家を追い出され、義理の姉は、酷くお金に汚い人だと、私に話した。
彼女は娼館の主人の愛人だが、彼の目を盗み何度も私に会いに来るようになり、その頃から私は兄への憎しみ、同時にマリアンヌに対しての憎しみが次第に増していくようになった。
彼女と寝るたび、呪文のように憎しみが増殖して、頭が割れるように痛くなることがあるが、私は酒でそれを紛らわした。
兄に変わり、マリアンヌの夫にとってかわることも考えたが、彼女は感が良さそうだったし、私には領地見回り、事業の管理など、無理がある話だ。
あっさり、マリアンヌが書類を渡してくれたので、私はその債権などを金に換え、借金を返し、兄を娼館から、逃がし消えるつもりでいるが、頭の片隅に今でも、2人を殺せ、すべてを奪えとキャロラインの呪文が浮かんできて、頭を締め付ける。
キャロライン、ギャンギャン煩い女だ、彼女には自分と同じ匂いがするが、2人でこれからも上手くやっていく自信はない。
私は隣のキャロラインを見ながら、いっそのこと今晩、宿で、、、など物騒なことがチラリと頭をよぎった。
明日はまた兄のロイエンタールになりすまし、手続きを済ませるため、館に戻らなくてはいけないと、ルシアンは重いため息をはいた。




