霧雨の薔薇の花香る侯爵邸
館は暗く静かであった。
館に着いた時、霧雨が下りてきたが、裏庭の門近くにあるバラの香りが、やっとロイエンタールを連れて戻れたことへの安堵感を与えてくれた。
門番のアレックは、眠い目をこすりながら、守衛室から出てきたが、彼も年だ。
今度、すべてが解決したら、彼には昼間の一番楽な仕事についてもらおう。
この屋敷で長く勤めている彼は、やはりこの屋敷が何かおかしいことに気が付いていたのだろう。
彼はロイエンタールと一緒にいる私を見て、酷く驚いていたが、このことはしばらくは、誰にも内緒にしてほしいと彼に頼んだ。
表門に馬車を回しますと言うアレックに表門の人たちに主人の帰館を気づかれたくないので、私達はここで降りる、供の者は、私が館をこっそり開けるので、それまで、表門の隅で彼と馬車で待っててほしいと頼んだ。
ロイはまだ一人で歩くとよろけていたが、私の肩に手を置き一歩一歩地面を踏みしめるように歩いた。
アレックはしばらく私たちを見ていたが、門を曲がり、私たちの姿が見えなくなると、馬車を取りに行ったようだ。
私達は素早く秘密の屋敷の入り口に入った。
入り口は、屋敷の壁に同化していて、決して他の人には、わからないように出来ている。
こんなところに入口があることは、主人も知らなかったと思うので、たぶんびっくりしているだろう。
そうこれは、代々我が公爵領の秘密だけど、ロイに知らせても、お父様はお怒りにはならないだろうと私は思った。
お父様にだって、悪女を家に引き入れた、過ちはあったのだから、、、、
入口を入ると、すぐそばの燭台にローソクの火を灯した。 石作りの通路のローソクは朝までには燃え尽き消えるであろう。 通路の燭台のローソクに火を付けながら、進んでいくと、離宮の書斎に着いた。 そして、書斎から私の部屋に着いた。
夫はこのからくり部屋にひどく驚いたが、古い屋敷なので、たくさんの謎があっても、不思議ではないと、微笑んだ。
久々の夫の笑顔が見られたので、嬉しかった。
夫はまだ、体力が戻ってないので、私のベッドで休むよう言い、ワインを横に置き、私は隣の部屋のリラを起こさないよう廊下をあるき、自分の部屋に鍵をかけ、再び秘密の通路に戻った。
誰もいない調理場から、大広間を抜け、執事の執務室のある通路を通り抜け表玄関の入り口の扉を開けた。
表門の守衛室はやはり誰も出てこなかった。
この屋敷の警備体制はどうなっているのだろう? 警備長は、夜も3時間に一度、屋敷周りの見回りは、していると言ったが、夜も屋敷の警備兵を殖やしたほうが良いのかもしれない。
でも、信用のある人でないと夜間警備は難しい問題がある。
一度裏ギルドのリーダーにこの件について、相談してみようと思った。
私は表門の隅で待っている馬車に手招きをして、ロイドが素早く走ってくるのを待って、館の中に入れた。 入り口すぐの執務室の隣の部屋で朝まで休むよう言った。
執事も今回のことで屋敷をやめさせられたと聞いているが、連れ戻して、ロイドに執務室の仕事を教えてもらわないといけない。
夜中にこれだけの冒険をして、私は疲れ果てて、夫の待つ自分の部屋に戻った。
夫はまだ昼に飲んだ薬のせいか静かに寝息をたてて、眠っていた。
私は夫の隣で、ベットに横たわった。
「お休み、ロイ」 私は彼の体のぬくもりの中で、心の中に咲いた、あの鮮やかな黄色い嫉妬の薔薇は散り、安らかな眠りについた。




