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第七章 二キロの永遠
五月一日、午前五時三十二分。
二十四人は博多港に向かって走り出した。
最初の五百メートルは奇跡のように何事もなかった。夜明け直後、中村の読み通り、死者たちの動きは鈍かった。
だが、大博通りを横切った時、路地の奥から群れが現れた。
「止まるな!」中村が叫んだ。
走った。ただ走った。途中で二人が遅れ、一人が転んだ。振り返るな、と言われていた。だが美咲は見てしまった。転んだ男の上に、三体の影が折り重なるのを。
博多港に着いた時、二十四人は二十一人になっていた。
港には小型の漁船が一隻、岸壁に繋がれたまま残っていた。中村がエンジンをかけた。三度目で、かかった。
船が岸を離れた時、港の端まで追いついてきた死者たちが、海の手前で立ち止まるのが見えた。足首まで波に浸かり、それ以上は進めないように、ただ立っていた。
美咲は船尾から、遠ざかる福岡の街を見つめた。
あの街で生まれた。あの街で育った。あの街で母を失った。
志賀島までは船で三十分もかからなかった。だが、その三十分が永遠のように長く、そして短かった。




