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終章 それでも夜は明ける
五月一日。
博多駅の地下街に残った二十四人は、北へ向かうことを決めた。
海だ。島に渡れば、少なくとも地続きの脅威からは逃れられる。志賀島。博多湾の北に浮かぶ小さな島。死者は泳げない。それだけが確認された数少ない「法則」だった。
美咲の母は、四月二十三日の夜に息を引き取った。
美咲は泣きながら、自分の手で、ルールに従った。
そして今、美咲は生き残った者たちの先頭近くを歩いていた。背中のリュックには、母の写真が一枚入っていた。
朝焼けが、廃墟と化した天神の街を赤く染めていた。
通りには無数の影がうごめいていた。かつて人だったものたち。理由もなく死に、理由もなく蘇り、理由もなく生者を追う者たち。
中村が先頭で手を挙げ、全員を止めた。
「よう聞け。ここから博多港まで約二キロ。奴らの密度が一番薄いんは、夜明け直後の三十分。今がその時間たい」
彼は全員の顔を見回した。
「走れ。止まるな。振り返るな。生きろ」
二十四人が走り出した。
朝日に向かって。
理由のない死が支配する世界で、理由もなく、それでも生きようとする人間たちが、走っていた。
――原因は、最後まで見つからなかった。
――そう、思われていた。




