第三十六章 春、再び
四月。
二度目の四月八日が来た。あの日から二年。
福岡の拠点は、一年前とは見違えるほどに変わっていた。
校庭の畑は四倍に広がった。大根、白菜、じゃがいも、トマト。収穫は安定し、備蓄米への依存は減りつつあった。
雨水浄化システムが改良され、飲料水の安定供給が実現した。小野が中心になって設計した簡易浄水装置は、北九州と鹿児島にも設計図が共有された。
遺体の処理は、市街地の主要エリアでほぼ完了していた。美咲の記録ノートは八冊目に入っていた。名前が判明した遺体は二千三百七十一体。身元不明のまま弔われた遺体は、その何倍もあった。
九州全体の生存者は千七百人に増えていた。山中から降りてきた人、離島から渡ってきた人、本州から九州に辿り着いた人。少しずつ、少しずつ、人が集まっていた。
通信網は本州にも広がった。大阪に約三百人の拠点。東京に約五百人。北海道に百人。世界全体の生存者数は不明だったが、短波ラジオで繋がった海外の拠点は、韓国、台湾、オーストラリア。いずれも数百人規模だった。
人類は生きていた。
だが、脆かった。
中村の変化は続いていた。以前のように先頭に立つことが減り、会議では慎重な発言が増え、時折、不信の色が目に浮かんだ。美咲は中村を注意深く見守っていたが、直接「おかしい」とは言えなかった。ノード3の干渉ではなく中村自身の変化だとわかった今、それは中村の内面の問題だった。
篠原の解読作業は最終段階に入っていた。四十七分間の返答データの九割八分が解読を終え、残りはごくわずかだった。
四月八日の朝。
篠原が美咲を呼んだ。
「最後の部分が読めた」




