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死者の目覚め  作者: モモンガ太郎
第2部

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第三十一章 見えない敵

美咲は全員を集めた。二度目の校庭スピーチではなかった。拠点の食堂に、リーダー格だけを呼んだ。中村、篠原、翔太、藤堂、永田、佐々木、原口。ラジオで黒木。


「まず確認です。最近、**記憶の食い違いが増えとう**ことに気づいとう人は?」


全員が手を挙げた。


「でも、第二ノードの信号は検出されとらん」


全員が頷いた。


「私の仮説を言います。**ノード3が、もう来ている可能性がある**」


沈黙。


「ノード3の特性は『集団行動の観測』。こいつが興味あるのは、人間の集団がどう動くか。どう協力し、どう対立し、どう崩れるか。こいつの干渉方法は、電磁波ではないかもしれん。少なくとも、私たちの装置では検出できとらん」


藤堂が腕を組んだ。


「見えない敵か。最悪のパターンだな」


「最悪です。でも、もっと悪いことがある」


美咲は全員を見回した。


「今起きとう食い違いが、本当にノード3の干渉なのか、それとも**ただの人間の問題**なのか、**区別がつかん**ということです」


永田が眉を寄せた。


「つまり、全ての対立や食い違いを『ノード3のせいだ』と言えてしまう、ということやろ」


「はい。そしてそれは危険です。本当に人間同士の問題なのに、『あれはノード3の干渉だ』と思い込めば、問題を直視せんで済む。逆に、本当にノード3の干渉なのに、『あれは人間の問題だ』と思い込めば、対処を怠る」


篠原が呟いた。


「**完璧な罠**たい。干渉があってもなくても、疑い自体がダメージになる」


「そうです。こいつは観測者やけん。観測したいのは、**この状況で人間がどう行動するか**やろう。干渉しとうかもしれんし、干渉せずにただ見とうだけかもしれん。どっちにしても、**私たちが疑心暗鬼になること自体が、データ**なんです」


全員が黙った。


藤堂が口を開いた。


「じゃあ、どうする。見えん敵に対して、何ができる」


美咲は答えた。


「**いつも通りにする**」


「いつも通り?」


「食い違いが起きたら、記録を確認する。私のノートがある。会議の議事録がある。巡回のシフト表がある。客観的な記録と照合すれば、どちらの記憶が正しいかは判定できる」


美咲は記録ノートを掲げた。


「記録は嘘をつきません。私が書いたノートが改竄されとう可能性? あります。でも、複数の人間が独立に記録を取っとったら、全部を同時に改竄するのは難しい。記録を分散させる。一人やなく、複数の人間が同じ会議の同じ発言を記録する。食い違ったら照合する」


永田が目を細めた。


「……記録の分散管理。データの冗長化。サーバーのバックアップと同じ発想やね」


「はい。人間の記憶がバグるなら、紙の記録をバックアップにする。紙が信用できんなら、複数の紙を突き合わせる。**人間の弱点を、仕組みで補う**」


篠原が微笑んだ。


「美咲ちゃん。あんた、いつの間にかシステムエンジニアみたいなことを言うようになったね」


「篠原さんと翔太くんの横で聞いとっただけです」


藤堂が立ち上がった。


「いいだろう。記録班を拡充する。各班に一人、記録担当を置く。会議、巡回、配給、全てに複数の記録者をつける。食い違いが起きたら、即座に照合する」


永田が付け加えた。


「それと、食い違いが起きた事例を**データとして蓄積**する。パターンが見えてくれば、ノード3の干渉の有無を推定できるかもしれん」


美咲は頷いた。


「もう一つ。**食い違いが起きても、すぐに相手を責めない**。まず記録を確認する。確認する前に怒鳴り合わん。それだけで、摩擦の半分は消えるはず」


中村が言った。


「ルールにするか」


「ルールにしましょう。**記録確認前の口論禁止**」


黒木がラジオの向こうで笑った。


「学校の校則みたいやな」


「学校の校則がなんで存在するか、今ならわかります」美咲が言った。「人間は放っとったら揉めるけんです」



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