第二十八章 離反
一月二十五日。
朝、拠点が騒がしかった。
美咲が校庭に出ると、北九州から来ていた応援隊の半数――約十五人が、荷物をまとめていた。
「何しとうと?」
「帰る」
リーダー格の男が言った。黒木のキャンプからの志願者だった。
「帰るって、北九州に?」
「ああ。こっちの状況は聞いとう。篠原と永田が揉めて、藤堂が武装巡回始めて。こげなところに家族は呼べん」
「でも、協力体制は――」
「協力?」男は苦笑した。「俺らは夏の間、遺体焼却で手伝った。コレラの時も働いた。だが、今ここで起きとうのは**内輪揉め**たい。巻き込まれるのは御免こうむる」
美咲は言葉を失った。
十五人が拠点を去った。
その日の午後、黒木から通信が入った。黒木の声はいつもより硬かった。
「中村さん。そちらから戻ってきた連中の話を聞いた。藤堂さんが武装巡回を始めたっちゅうのは本当か」
「本当たい。ただし、あれは――」
「弁解はいらん。こっちにも不安が広がっとう。福岡は内部分裂しかけとう、藤堂が武力で制圧しようとしとう、って噂が走っとう」
「噂は事実と違う」
「俺もそう思う。だが、噂は事実より速く広がる。中村さん、はっきり聞く。**福岡は大丈夫か**」
中村は答えなかった。
答えられなかった。大丈夫だと言い切れる根拠がなかった。
通信を切った後、中村は美咲と二人になった。
「崩れ始めとう」
中村の声は静かだった。
「北九州が引いたら、鹿児島も引く。鹿児島が引いたら、九州の連携が崩壊する。千五百人がバラバラになる。そうなったら、次のノードが来た時に対処できる人間は――」
「篠原さんと翔太くんと、私たちだけ」
「三十三人に逆戻りたい。いや、三十三人すらも割れるかもしれん」
美咲は拳を握った。
ゾンビが来た時は、全員が同じ方向を向いていた。生き残ること。それだけが目標だった。
空の脅威が去ると、人間は内側を向く。そして、内側にいる**別の正しさ**と衝突する。
「中村さん。全員を集めてください」
「何をする気たい」
「話をします。全員に」




