第二十七章 藤堂の選択
一月中旬。
藤堂が独自に動き始めた。
美咲が気づいたのは、藤堂の部下たちの動きが変わったことだった。以前は遺体処理と治安維持に専念していた十五人が、拠点の外周を巡回するようになっていた。武装して。
「藤堂さん。何しとうんですか」
「備えとう」
「何に?」
「何にでも。次のノードにも。内部の混乱にも」
美咲は藤堂の目を見た。
「内部の混乱って、何のことですか」
藤堂は率直だった。この男は、いつもそうだった。
「永田と篠原の対立は見とうやろ。あれは始まりたい。データの解釈で割れた。次は物資の配分で割れる。その次は人事で割れる。そして最終的には、**誰がこの集団を率いるか**で割れる」
「三人の柱で合議しとうやないですか」
「合議は信頼がある時にしか機能せん。今、誰が誰を信じとう? 篠原を信じるか? 永田を信じるか? 俺を信じるか? 誰の脳が正常で、誰の脳がいかれとうか、誰にもわからん。その状態で合議なんか成り立たん」
美咲は反論できなかった。
「俺は最悪のケースに備えとうだけたい。話し合いで解決するなら、それがよか。だが、話し合いで解決せん時に、暴力が起きる。その時に止める力が要る」
「それは――武力による支配やないですか」
「支配やない。抑止たい。警察と同じ。警察がおらん社会で何が起きるか、この一年で嫌というほど見たやろ」
美咲は黙った。
藤堂は続けた。
「田中さん。お前さんは人を信じたがる。それは美徳やろう。だが、美徳だけじゃ人は守れん。この一年で何人死んだ? 四十二人中九人が死んだ。三百人に増えてからも十一人が死んだ。次の危機でまた死人が出る。俺はそれを最小限にしたいだけたい」
「でも、武装した巡回は他の人を怖がらせとう」
「怖がらせとうのは知っとう。だが、怖がらせることと守ることは、時に同じ形を取る」
美咲は藤堂を見つめた。
この男は変わった。変わったと思っていた。九月に謝罪し、対話を認め、柔軟になった。だが、根の部分は変わっていなかった。この男の根は**管理**と**統制**だった。それが善意から来ていることは理解できる。だが、善意から来る統制が、悪意から来る支配と同じ形を取った時、どう区別する?
美咲は拠点に戻り、中村に相談した。
中村は長い間、黙っていた。そして言った。
「藤堂は間違っとらん。だが、正しくもない」
「どういう意味ですか」
「武装巡回は必要かもしれん。だが、それを藤堂が独断で始めたことが問題たい。三人の柱で合議すべきやった。それを飛ばした」
「藤堂さんは、合議が機能しとらんと思っとう」
「俺も思っとう」中村は正直に言った。「永田と篠原の対立は根が深い。篠原は科学者として正しくありたい。永田は管理者として正しくありたい。二人とも正しか。だが、正しさが二つあると、人は割れる」
中村は窓の外を見た。
「美咲。お前はどう思う」
「私は――」
美咲は考えた。
「私は、誰が正しいかを決めることより、**正しさが違っても一緒にやっていける方法**を探したかです」
中村は小さく笑った。
「それが一番難しいことたい」




